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【速報】ボッキマン、虫捕りに出掛ける その⑥

シルクのような美しい頭髪をなびかせるその女は2メートルを軽く超える大きな体を持ち、その全身はファーのついたコートを纏ったかのように白と黒のふわふわとした毛で覆われていた。


さらに頭部には蛾のような2本の触覚があり、少し開いた口元には牙が見える。そしてその脚はキリギリスのような形状をしており、その先には鋭い爪が生えていた。


「なんだ……?この化け物は……?」

七角も動揺を隠せないようで、目を丸くしながら目の前の女を見ている。


だが女の方は俺たちの存在を意に介する様子もなく、傷ついたボンちゃんを見ると悲しそうに顔を歪め、大粒の涙をポロポロとこぼし始めた。


「ひどい……」

そう言うと彼女はボンちゃんを優しく抱きかかえて、その体を労わるように優しく撫で始めた。すると、彼女の手のひらから光る糸のようなものが溢れ出しボンちゃんの体に染み込むようにまとわりついていく。


そして瞬く間にボンちゃんの体はすっぽりと繭に包まれて見えなくなってしまった。


「あの糸には細胞の再生効果がある。

 ただし脳が損傷するような大怪我の再生を行った場合、

 記憶が保持され続ける保証はないが……」


佐凪博士がそう言った時、七角が俺の肩を掴んだ。


「没木、危険だ、どいてくれ!早く始末しないと……」

七角は今にも殴りかかってきそうだ。


「な、なんでだよ。何がそんなに危険なんだよ?

 優しそうな人じゃないか?」

俺がそう言い終わる前に、七角が大声で叫んだ。

「どこが人なんだよ、よく見ろよ!完全に怪物だろ!」


俺は改めて彼女を見る。


確かに見た目はちょっと虫っぽいかもしれないが俺には彼女が危険な存在だとはとても思えなかった。もっとも七角の反応の方が正しいのかもしれないが……。


俺は七角から視線を逸らしながら恐る恐る博士に尋ねる。

「えーっと……博士、この方は一体?」

博士は束ねた鞭で膝の汚れを払いながら立ち上がると、生徒に講義をするかのような口調で語り始めた。


「……今から50年前、

 東欧のとある邪悪な結社に所属していた私は

 そこで信じられない物を目の当たりした。

 不思議な力を持った人間、いわば超人だ。

 彼は普通の人間が持ち得ない力で、我々の結社が送り出した

 殺人的超兵器を次々と撃破していった。

 そして彼はたった一人で本部に乗り込み、結社を壊滅させ、

 私は国外への逃亡を余儀なくされた。

 それから私はしばらく海外を転々としながら、

 人間の持つ不思議な力について取り組むことにしたのだ」


「いや……あんたの昔話じゃなくてこの方は?」


「最後まで聞けバカ者。

 研究のかいあって私は不思議な能力を持つ人間の何人かについては

 この目で確認することができた。

 ただ、超人とまで呼べる者は、あの男を除いて一人もいなかったがな。

 そしてある時、疑問が湧き起こったのだ。

 果たしてこの不思議な力は人間だけに宿るものなのか。

 動物、昆虫、植物に不思議な力が宿ることはないのか、と」


「ううーん……それで?」


確かに人間だけではなく他の動物だって超能力を持つようになってもおかしくはない。催眠術を使って他の生き物を操るだとか、念力で物を動かしたりできる動物がいたっていいはずだ。

まあ無敵の力を持つゴキブリとかがいたら困るけど。


七角は女から目を離さないが彼も大人しく話を聞いているようだった。


「私は様々な実験を試みた。その結果、驚くべきことがわかってきた。

 全ての生物は生まれながらにして

 何らかの能力を発現させる可能性があるのだ。

 それはまだ眠っているに過ぎないが、

 なんらかの要因が彼らの能力を呼び起こせば、生命は新たなステージに

 進むことができるはずなのだ」


「あのさ、博士、そんなことをしたら大混乱になるってわからないかな?

 それのどこが人類のためになるっていうの?」

七角が口を挟んだ。


「それは覚悟の上だ。

 それに私の言う人類とは既存の人間社会やお前らのような

 無能な個人を指す言葉ではない。

 人類とはまさに知性であり、宇宙であり、歴史であり、

 その果てを見ることもできない壮大なものなのだ。

 それにこれは今の社会の可能性を広げることにもなるはずだ。

 もし仮に人間以外の生物に特殊な能力が目覚めさせることができたとすれば、

 今度は人間に応用することだってできるかもしれないのだからな」


「な、なるほどなぁ、すげえなあ……で、この方は……」

「落ち着け、もうすぐだ」


佐凪博士がそう言った瞬間、繭が内側から破れ、中から傷一つ負っていないボンちゃんが飛び出してきた。


「おお、ボ、ボンちゃん!」

俺は思わず叫んでしまった。

佐凪博士はボンちゃんの様子を確認すると再び話を続けた。


「しかし私だって慎重に事を進めてきたつもりだ。

 そこの彼女のように、慈愛に満ち溢れた美しい心を持った者たちだけに

 協力してもらう形でな……。

 彼女には偶然能力が発現した生物たちの様々な遺伝情報が組み込まれている。

 ただ、そのすべての力が彼女に備わっているわけではないが。

 まあ、紹介はこのくらいでいいだろう、彼女の名は、その名も……」


佐凪博士はそこまで言うと、言葉を区切り深呼吸をする。


「お、おい、博士!

 もったいつけてないで早く教えてくれよ!」

焦って催促していると唐突に後ろから頭をぽんぽんと叩かれた。


「え?」

振り返ると先ほどの女が少し微笑みながら、優しげなまなざしでこちらを見つめている。


「マーリー」

「え?」


「マーリーが私の名前です。

 博士のお話では人間の神様の名前からとったものらしいのですが、

 私はとても気に入っています。ふふっ」

彼女はそう言うと牙をのぞかせながら笑った。


「あはは、俺は没木一歩ぼつきいっぽだよ、よ、よろしく……」

彼女の屈託のない優しい微笑みに俺も笑って返すしかなかった。


七角は俺と彼女の様子を黙って見ていたが、やがて口を開く。

「大丈夫か?すでに精神攻撃か何か受けてるんじゃない?」


「え?ああ、多分平気だと思うけど……

 でもちょっと、いやすごくきれいじゃないか?」

俺がそう答えると七角は無言で首を横に振った。


「精神攻撃か。マーリーにそんな能力はない。

 ただし中々いいアイデアかもしれんな」

「でもさ、博士、あんた見た目で判断するなとか言ってたわりに、

 マーリーってとんでもない美人じゃんか。どうなってんの?」


俺は戦いが始まるまでの時間を出来るかぎり引き延ばそうと佐凪博士に尋ねてみたが、彼は涼しい顔で切って捨てた。

「黙れ。私の遺伝子が彼女のベースにはなっているが特別な意図はない」


「へー、そっか、じゃああんた若い頃は相当かっこよかったんだな。

 外国にいる時はモテたんじゃないのか?」

「こ、こら、ふざけている場合ではないぞ!……それに、若い頃の私は

 モテたというより恐れられていたと言った方が正しい。なにしろ」


「没木、さっきから何を話しているんだ?

 一般人を巻き込みたくないんだ、頼むから後ろに下がっててよ」

七角が割って入ってきた。


「ごめん、でもやっぱ博士を殺すとか、攻撃するとかはやめてくれよ。

 あんたが人殺しするところは見たくないんだ」

「オレだって嫌だよ。でもさ、仕方ないんだよ。仕事なんだからさ」

七角は調子が狂ったのかちょっと困り顔になっている。


「なんの仕事だよ!金を稼ぐ方法なら他にもいくらでもあるだろ?

 そうだ、転職しようぜ、俺も一緒に探してやるからさ」


「危険な研究をしてるとわかった以上、ほっとくわけにもいかないんだよ。

 一般人の君にはわからないかもしれないけど、こういうことは

 ちゃんとしておかないと後々大変なことになるかもしれないんだ。

 だからさ、わかってよ」


そう言って七角が腕を振ると火花が飛び散り、彼の手は炎のように脈動する赤い刃へと変化した。

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