【悲報】ボッキマン、不安になる その⑧
俺は人目を避けるようにしながら自宅へと戻ろうとしていた。
だが、闇雲に動き回ったせいで自分がどこにいるのかわからなくなっていた。
「くそっ、どこなんだよここは……」
スマホを取り出し、待ち受けの日付を見た俺はフリーズしてしまう。
今日、土曜日の18時にA地区の駅前へ行く予定だったのだ。
「うわあ~……まずい、あと15分しかねえ!」
潮木の炎のせいで、俺の服はあちこち焼け焦げて、ボロボロになっていたがそんなことを気にしている場合ではない。
俺は慌てて人をかき分けながらA地区の駅に向かって自分の力で駆け出した。
「(うおおおぉお~!俺は変わる!)」
目的の場所はここから3キロほど離れた所にあったため、時間はギリギリかもしれない。俺は息を切らせながら必死に足を動かす。
駅前には複数の大型ディスプレイが設置してある。
神代が言っていた『18時からの放送』とはこのことだろう。
俺は息を切らしながらもなんとか駅前に到着した。
「はぁ、はぁ、はぁ……
どうだ、ボッキマン、俺だけの力でやり遂げたぞ……」
時刻を見ると既に17時55分。
ペース的に結構早いんじゃないか?
いや普通なんだろうか?どうなんだ?
そんなことを考えながら俺は額の汗を拭い大型ディスプレイを見上げる。
ディスプレイにはCMが流れているだけで、特に変わったところはなかった。
流石にまだ始まってはいないようだ。
安心した俺は近くのベンチに腰掛けた。
「ふう……」
大きく息を吐いて呼吸を整える。
辺りを見ると、大半の人々はディスプレイなど気にせず通り過ぎて行く。
中には足を止めたり、立ち止まって画面を見上げている人もいたがその人達もやがて興味をなくしたのかその場を後にしていく。
「ん?」
そんな中、俺は一人の青年と目が合った。
彼は俺と目が合うと、少しそわそわした様子で視線を外す。
……なんか怪しいな。
普段の俺ならどうでもいいと無視をしていただろう。
フッ……だが俺は別人へと生まれ変わったのだ。
俺は立ち上がり、ゆっくりと彼に近付いていく。
そして、声をかけた。
「やあ、こんばんは!」
すると、彼は驚いた表情を浮かべた後、こちらに挨拶を返した。
年齢は俺よりも少し若い20代前半くらいだろうか。
身長は俺より少し低めだが、平均身長はあるだろう。
体格は細身で、パーマがかかった黒髪に白色のワイシャツにジーンズというシンプルな服装をしている。
要するに記憶にはまったく残りそうにもない平凡な男だった。
「こ、こんばんは……あの、僕のことを覚えていてくれてたんですか?」
誰だろう。悪いがまったく覚えてない。
「いや~実は俺、人の顔を覚えるのは苦手でさ……
でも君とはどこかで会ったことがある気がしてね」
そう言って俺は爽やかな笑顔を作る。
「そうですか……カフェで怪物が暴れた時にあなたと話したんですけど……」
確かに以前、肉の柱が出てきた時に話しかけてきた男がいたような気がする。
「あー……お、思い出したわ、いやー久しぶりだな~」
適当に話を合わせておくことにした。
「はい、本当に久しぶりですね、お元気でしたか?」
彼は嬉しそうな表情を見せる。
「そらもう、生まれ変わったかのように元気だよ」
「そ、それは何よりです……でも今日はなぜここにいらしたんですか?」
「いや、知り合いに18時からの放送を見ろって言われてさ」
「放送……え?!」
青年は何故か驚いた顔をして俺の顔を見る。
一体どうしたというのだろう。
「……どうかしたか?」
「い、いえ、でもあの放送って……あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね。
僕は玉矢鍵也と申します」
「ああ、俺はぼ……」
名前を言いかけた時、辺りが少し明るくなる、
ディスプレイがCMから放送に切り替わったようだ。
周囲の人々もそのことに気づき、一斉に大型ディスプレイに注目する。
俺も玉矢と二人で大型ディスプレイを見上げた。
「ぐぉおっ……!」
思わず変な声が出てしまう。
そこには以前、どこかで見かけた白塗りの中年女が映し出されており、
何事かを得意げにべらべらとしゃべっていた。
「すげえ迫力だな……」
俺は大型ディスプレイに映る女の姿を見て思う。
いや、確かこいつは人気モデルとやらの親だったな。一体何の放送なのだろう。
能力がどうとか、プロジェクトがどうとか言っていたが、中年女の化粧が気になってあまり内容が頭に入って来なかった。
一方で隣にいる玉矢は目を大きく見開いて画面に食い入るように見ている。
「なあ、これって何の放送なんだ?
あんたさっきは知ってそうな感じだったけど……」
「えっと、これはですね。
治安当局が新たな部隊を作って能力者による犯罪の取り締まりを
強化するという発表で……」
「へぇ~……」
俺は生返事をする。ん、ちょっと待て。
「の、能力者…?!」
「はい、通常の治安部隊では対処できない特殊な能力を用いた
凶悪な事件に対し、同じく特殊な能力を持った人々を捜査官を任命し、
活躍してもらおうというもので……」
「ま、マジで!?」
俺が呆然としている間にも画面の中の女は話を続ける。
玉矢は驚いている俺を尻目に熱心に言葉を続ける。
「今回は試験的に民間から12名の隊員を選抜することとなっていて……
ちなみに僕もその候補者の一人なんです」
そう言うと、玉矢は照れくさそうに頬を掻いた。
「ま、マジで!?」
「あ、あなたは違うんですか?
僕はてっきり、あなたも関係者なんじゃないかと……」
「いや、俺は知らないよ、ただの一般人だ。
しかしあのおばさんって誰なんだ?当局の偉いさんか市長かなんかなのか?」
「いいえ、あの人はスポンサーですよ。
民間企業との共同出資で組織を作るんです。その出資者の一人があの方なんです」
「ふぅん、人気モデルの親が出資者ねぇ……」
俺は大型ディスプレイを見上げる。
そこには白塗りの中年女がドヤ顔で大げさなボディーランゲージを繰り広げながらで何かを言っている姿が映し出されていた。
「……今から新部隊のリーダーが発表を始めるようです」
「ああ、わかった。ちょっと静かに聞いておこうぜ」
俺と玉矢は黙り込み、大型ディスプレイを注視する。しかしその後、画面に現れた人物の顔を見て俺は大声を上げてしまった。
「あああああーーーっっ!!!?」




