【悲報】ボッキマン、不安になる その⑥
久しぶりにまともな料理を食べ、満腹になった俺はベッドに寝転がっていた。
包帯が巻かれた手を見つめながらぼんやりと物思いにふける。
俺は変わったはずだ。
以前とは違う。
やりようによってはあの女の人が傷つくことは避けられたかもしれない。
だが、できなかった。
なぜか?
……それは受け身だからだ。ヘタに相手の出方を待ったせいだ。
ならば次はどうするか?
黙って拳を握りしめると、傷口が開き包帯に血が滲み出す。
それを見た瞬間、思考がクリアになり、答えが導き出された。
「(一撃で終わらせてやる)」
相手が何を考えていようと関係ない。先手必勝。
相手に考える隙を与えず、一瞬で決める。
俺はまだ弱い。まだまだ足りない。
もっと、もっと、もっと、もっともっと、誰よりも強くなる必要がある。
俺は決意を新たにすると、眠りについた。
翌日から俺はあの男を探すために奴が現れそうな場所周辺で徘徊を続けていた。
以前神代が殺人犯を探し出すためにパトロールしたいと言った時、
俺は内心、彼女を馬鹿にし心の中で嘲笑ったが、今になって考えればその気持ちが少しわかる。
この世には想像を絶するような悪意が存在するのだ。
それに、あの男を止められるのは奴と同じ能力者だけだろう。
とはいえ、俺はあの男がどこにいるのか見当もつかないため、
ひたすらに歩き回るしかない。
結局そんなことを数日続けていたが、奴を見つけることは出来なかった。
それもそうだろう、俺が知っているのはせいぜい奴の身長と体型だけなのだから。
それでも俺は諦めきれなかった俺は人の手を頼ることにした。
「……というわけなんだよ!頼む!」
俺はとある人物に頭を下げていた。
「ど、どういうわけなんだ。
き、きちんと、せっ、説明しろ!」
俺は今、俺の数少ない知人の一人であるハカセコに頼み事をしている。
俺は奴に事の経緯を詳しく説明する。
「な、なんで、き、貴様が、そんなことを、すっ、する必要がある?
ま、街には、無能とは言え、けっ、警察がいるんだから、
れ、連中に任せればいいじゃないか」
「その通り、お前が正しい。
でもな、女の人が取り返しのつかない大怪我を負ったのは
俺のせいかも知れないってずっともやもやし続けているんだ。
それにけじめをつけたい」
「…………」
「よし、じゃあ協力よろしく!」
「か、かか、勝手に決めるな!ど、どうせ、犠牲になるのは、
し、知らない女だろう。
き、貴様にな、なんの義理がある?」
「なんの義理もねーよ。でもな、俺は変わったんだ、
あんたが言う本当の欲望を知るためにな。……だからさ、頼むよ」
「……しっ、しし、仕方ないな。
わ、わかった。今、い、行くから、ちょ、ちょっと待ってろ」
それから数十分して、コンクリートの重い壁が開き、ハカセコが息を切らしながら姿を現した。ハカセコは以前見た時よりも化粧が洗練されておりますます美しくなっていた。
「え?お、お前、めちゃくちゃきれいになってるな……」
「え、あ、うん。
……い、いや誤解するなよ!
この装いは王者としての威容を周囲に示すためであって……
い、いやそんなことは、ど、どうでもいい!
わ、私はな、なっ、何をすればいいんだ?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「き、貴様が、男について知っていることは、
し、身長と、ふ、服装、それに体型だけか。
そっ、そのわずかな情報だけで、
男の、い、いっ、居場所を突きとめろというのだな」
「ああ」
「……ふぅ。わ、わわっ、わかった。
な、何を頼みに来るかと、おっ、思えば、
ず、ずいぶん、つまらないことを、た、頼んできたものだな」
「……ごめん」
「あ、あまりの、つ、つまらなさに、みっ、見返りを、
よ、要求しようという気すら失せたぞ。いいだろう、や、やってやる」
「ありがとう、助かるよ」
「ふん……」
ハカセコは鼻を鳴らすとノートPCを取り出した。
それから俺に当時の状況を何点か質問すると作業を始めた。
俺はそれをただじっと見つめる。
そしてたった数分で『男の現れそうな場所』が地図上に大小の赤い点で示された。
「……おお、すごい!これなら見つけられるかも!」
「お、おい、こ、これはあくまで、私の、よっ、予想だ。
ぜっ、絶対じゃない。た、多分の話だ。
ほ、ほんとうに、ここにいるとは、限らない。
そ、それに、そいつは貴様に姿を見られた時点で、
この街から、は、離れたかもしれないんだ。
そそ、そこを踏まえておけ」
「わかったよ、本当にありが……ん?」
俺は地図上に示された大きな点を見て、あることに思い至った。
ここは……。
「そうだ、ボッキマン。
き、貴様には、新しい素材の耐久実験に、さ、参加して欲しいんだ。
よっ、よかったら、次の……おおっ、すっ、すでにいない!」
俺はハカセコの言葉を聞く前にその場を走り出していた。
俺は全力で走り続け、その場所へとたどり着いた。
そこは、以前俺がカウンセリングを受けた古い雑居ビルだった。
「(まさか……でも、そんなわけ、ない……よな……)」
俺は呼吸を整えながら階段を上っていく、俺が潮木さんと出会った部屋の入口にはテナント募集の貼り紙が貼ってあった。
俺はドアノブに手をかけるが開かない。鍵がかかっていた。
「……」
黙ってドアを見つめていると、後ろから声をかけられた。
「……もう、終わりだよ」
振り返るとそこには潮木さんが立っていた。
「潮木さん……なぜここに?」
「うーん、ちょっと忘れ物をね」
そう言って彼は鍵を取り出し、ドアを開けると部屋の中に入っていった。
彼に招かれ、俺もそれに続く。
室内は以前に比べると何もなく、すべての家具が撤去されている。
「あの……」
「無視して逃げたってよかったんだけどね。
だけど、私もね……クライアントの、そう、心の充実というのかな。
カウンセラーの端くれとして、心の奥ではそういうものを
願っているのかもしれないな。だからね、君にだけは真実を教えようと思う」
そういうと潮木さんは手を突き出した。
その手はあの時のあの男と同じように青白い炎を噴き上げて燃え盛っていた。




