【速報】ボッキマン、山に挑む その①
俺の名はボッキマン。
無敵の力を持つ男。
だが無敵の力ではどうにもならないことはいくらでもある。
例えば季節の変化だ。
俺は自分の部屋からベランダに出て、外の景色を眺める。山々がここからでもよく見える。俺は最近、あの山に惹かれつつあった。
別に登山が趣味ではないが、あの雄大な自然を見ているだけで心が落ち着くのだ。
無敵の男にも、街の喧騒を離れ心を落ち着かせる時間は必要なのかもしれない。
「ただでさえここ最近色んなことがあったからな……」
誰に聞かせるともなく呟き、視線を戻す。
「あっ……」
俺は思わず間抜けな声を出す。
ベランダには先客がいた。
「……おはようございます」
「お、おっ、おはよ、ございます」
俺達はぎこちなくお隣さんに挨拶を返す。
「どうしたんですか?」
「いや、あの、きれいな山だなーって思って……」
俺は誤魔化すように外の風景を見ながら答える。
「そうですね、あの山は良いですよね、落ち着きます」
彼女は微笑みながら答える。
「はは……」
「昔はよく、キャンプに行ってたんですけど、子供が出来てから
なかなか行けなくて……」
そう言うとお隣さんは少し膨らんだお腹を愛おしそうな表情で撫でる。
妊娠していたんだ、ぜんぜん知らなかった……。
「おっ、おめでとうございます!」
「……ありがとうございます」
俺が慌てて祝福の言葉を述べると、彼女は幸せそうに笑う。
「じゃあ、俺はこれで、お、お大事になさってください……」
これ以上ここにいると余計なことを言いそうだったので、俺は早々に退散することにした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
俺はスマホを取り出し、窓の向こうに見える山についてなんとなく調べていた。
今から数百年前、あの山一帯には盗賊団が住んでいたらしい。
しかし当時のこの辺りの大名が軍勢を率いて討伐に向かい、多くの犠牲者を出した末に彼らを全滅させたという。
「なかなか歴史のある山なんだな……」
俺は感慨深げに独り言を言う。ただ、登山のコースとしては人気のない山のようでキャンプに行ったとか、頂上からの絶景を楽しんだというような記事はほとんど見つからなかった。
後は登山に出掛けた男女が行方不明になったという記事が数件見つかったが、それも30年以上も前の話で特に事件性はないようだった。
俺はそのページを閉じ、スマホを置く。今日は天気が良く、心地よい風が吹いている。
ちょっと登ってみようか、俺はそんなことを考えた。山に登るのは初めてだが俺には無敵の力がある。何かあっても大したことにはならないだろう。
俺は財布とスマホやらタオルやらを適当にリュックサックに詰め玄関を出る。
明らかに山をナメた格好だが、その時の俺は特に気にしなかった。
無敵だしな、何しろ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
山に入ってわかったが『登山コース』のようなものはまったく整備されておらず、道なき道を進むような感じだった。
これじゃ流石に人気がないわけだ。俺は適当に蹴りを放ち、巻き起こる衝撃波で草木や岩が吹き飛ぶ様を見て納得する。
山に登る前は上に上がればすぐ頂上だろう、と単純に考えていたが登山というものはそう簡単なことでもないようだ。それからしばらく歩いていたが、景色は一向に変わらない。もうどれくらい歩いただろうか。
「何かちょっと飽きるな……」
俺は呟くが、足を止めることはない。少し辺りを見回してまた歩き出す。
しばらく歩くと少し開けた場所に出た。どうやらここは休憩所のような場所のようで、苔むし汚れきった木製のベンチがいくつか置かれている。
俺はここで少し休むことにした。スマホを取り出しネットを見ようとするが当然圏外、バカだなほんと。とりあえず時間を確認する。
「まだ昼前なのか……」
俺はため息をつく。思った以上に時間が経っていない。
俺はスマホをしまうと、休憩所のボロボロになった柵に手を掛けて身を乗り出し下を見ると、意外と高くまで来ていたようで遥か下に滝と川が見えた。
「おっ、ここからの眺めはいいなぁ……」
俺は自然と言葉が漏れる。川の幅は広く、流れは緩やかで底まではっきり見える。滝は太陽の光を反射しキラキラ輝いていた。
俺はふと、あることを思いつきスマホを取り出す。そしてカメラを起動すると滝に向かって構えて写真を撮影した。
俺が撮った写真を眺めると、そこにはなかなか良く撮れた景色が広がっていた。まるで水飛沫がそのままレンズを通したかのように綺麗な虹が掛かっている。
もっと近くから撮ってみたい、そう思い辺りを見回してみると休憩所から300mほど先にまるでそこだけ別世界のように木々がなくぽっかりと空いた空間が見えた。
ここからジャンプすれば十分、届きそうな距離だった。
俺は躊躇うことなく大きく跳躍した。
俺の体は重力に逆らい、ミサイルのように空を切り裂きながら進んでいく。
そしてあっという間に目的地に到着し、着地しようとした瞬間、
俺の体は吸い込まれるよう落下していった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「うぉおおおぉぉおおおぉっっ?!」
先ほどまで確かに存在していた地面は幻のように消え去り、俺は今まさに自由落下している最中だった。
俺はため息をつき、スマホを胸で抱えると激突の衝撃に備える。そして激しく鈍い音とともに固い岩盤に叩きつけられた。
「はぁ……?何なんだよ……?」
俺は自分の身に何が起こったのか全く理解できなかった。
俺は立ち上がり、服についた汚れを払うと、改めて周囲を観察する。
そこは深さ100メートル程度の縦穴で周りを岩壁で覆われており、はるか頭上から光が差し込んでいた。どうやらあそこから落下したらしい。
「なんで地面があると勘違いしたんだ?」
俺は首を傾げる。
俺にはこの縦穴は自然に出来たものではなく、誰かの手によって造られたもののように見えた。
俺は足元を見る。
「ん?これは……機械か……」
落ちてきたところには形の崩れた機械が転がっている。どうやら俺の下敷きになったようだ。
俺はそれを拾い上げる。それはドローンのようで辛うじてプロペラの痕跡が確認できるだけで滅茶苦茶に壊れていた。
どうやら俺は普通の穴に落下したわけではないようだ。
俺はスマホを起動し、ライトで周囲を照らす。すると、この縦穴には横道があり、その奥から微かに物音が聞こえてくることに気づいた。俺は好奇の目でその通路を覗いてみる。しかし、その先は暗闇に包まれていて何も見えない。
俺はライトで照らしながら、その道を進むことにした。
しばらく進むと少し広い空間に出た。薄暗くスマホのライトでは全体が確認できなかったが足音の反響具合からかなりの広さがあるように感じられた。
さらに慎重に足を進めていくと、床材が金属のタイルのようなものに変わったことに気づく。俺はそこで立ち止まり、耳を澄ませる。
静寂だけがその場を支配していた。
「誰もいないか……」
俺は肩を落とし、来た道を戻ろうとした時、空気が震動するような音が響き、強烈な光に視界を奪われる。
そして辺りに無機質な音が響いた。




