【朗報】ボッキマン、人生相談に答えていた その⑤
「あ、あのー……神代さん、俺も後で手伝いますからここはひとまず離れて……」
「いえ、私にやらせて下さい!」
引き留めようとすればするほど彼女は強い口調で言い放つ。どうやら意地になっているようだ。
「ほら、避難しろって言われてますよ」
「私は大丈夫なので!」
「ほら、ちょうどいい機会だしプロの仕事を見学しましょうよ」
「私はまだ戦えます!」
ごちゃごちゃと揉めている俺の言葉の背後から治安部隊が怒声が迫る。
「危険なのがわからないのか!避難指示に従いなさい!」
治安部隊は銃を構えて周囲を威嚇し始めた。俺の周囲には野次馬の姿はなく、治安部隊の面々だけが取り囲んでいる。
どうやら俺たちは邪魔者扱いされているらしい。俺は呆れたようにため息をつき芝居がかった口調で神代に話しかける。
「おいおい、神代さん。
あんたまさか治安当局からの指示を無視するつもりなんじゃないだろうな?
見損なったよ……よくそれで警察官になろうだなんて言えるな……」
「え……?」
神代は怒ったような表情でこちらを見る。
しかし治安部隊が到着したことに気が付いたようで動きが止まった。流石に連中を前に超能力を使って暴れる気はないらしい。
俺たちは指示に従い一旦、治安部隊の連中が乗ってきたヘリの近くで待機する。
もちろん事が終わるまで大人しく待っているつもりはない。隙を見て逃げるつもりだ。俺は手についた黄色い汁を一刻も早く洗い落としたかった。
なんか危ない液体らしいし、まあ無敵だから平気だけど。
「あの……没木さん……」
神代は申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「いや……別に謝らなくてもいいぞ……」
「いえ、すごい臭いなのであまり近寄らないで欲しいんですけど……
できればもう少し離れてください……」
「……」
こいつ俺のことを何だと思ってるんだろう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
治安部隊の方を見てみると肉の柱に銃弾を浴びせているところだった。
彼らが使っている銃は珍しく実銃だ。到着に時間がかかっていたのは実弾の使用許可を得る手続きに手間取っていたからなのだろうか。
銃弾が当たる度に柱からは黄色い膿のような液体が噴き出し、肉の柱は悶えるように震えている。こうして見ると治安部隊の装備は人間相手にはオーバーに見えるが、ああいうわけのわからない怪物相手にはいささか心許ない。
それに……銃弾も大して効いてないようだ。肉の柱は全身から体液を撒き散らしながらも、その動きが鈍る気配はない。
やがて肉の柱が辺りを薙ぎ払うような動きを見せると、数人の隊員があっさり吹き飛ばされた。
そしてその衝撃で体勢が崩れたところを見逃さず、肉の柱はその巨体を勢いよく叩きつける。肉の柱に押しつぶされた隊員たちが悲鳴を上げる。
最新型のEXOスーツのお陰で命に別状はないようだが、スーツのフレームが変形しているのでまともに動けないだろう。
治安部隊の隊長らしき人物が何かを指示したのか、他の隊員たちは一斉に散開し、各々が武器を手に持ち、攻撃を始めった。負傷者の回収に向かう者もいる。
ヘリの前で待機していた隊員も慌てた様子で駆け出していく。逃げるなら今だろう。
「……ダメだ、もう終わりだ」
避難していた野次馬の一人がそう呟く。確かにダメなムードが漂っている。肉の柱の本体に加え、周囲にはトゲから生み出された新たな肉の柱もいるのだ。
このままだと全滅は避けられないかもしれない。
俺は隣にいる神代の様子を窺う。
責任を感じているのか彼女は黙ったまま俯いている。
「没木さん……これって私が不用意に攻撃したせいでしょうか……?」
「まあ、そう言えなくもないかな」
「……」
「でも気にすんなって。困ってる人を見ると助けたくなっちゃうんだろ?
仕方ないよな」
俺が苦笑いしながら言うと、彼女は少しだけ安心したような表情を見せた。
「没木さん……」
「さてと……治安部隊が来たらこのまま逃げるつもりだったけど、こうなったら
俺もあいつと戦……」
俺が言いかけたところで突然、空を切り裂くような音が聞こえてきた。
空を見上げると、巨大な二つ黒い影のようなものがこちらに向かってくるのが見える。
それは全長10メートルはあるであろう巨大なロボットだった。
「うぉおぉおおお??!」
思わず叫んでしまう。初めて見る奴なので興奮してしまった。
二体の巨大ロボットが着地すると、地面が大きく揺れ激しく土埃が舞う。
ロボットにコクピットらしい物は見当たらない。AI制御の完全自律型ということなのだろうか。
一体は銀色に輝く流線型をしたスマートなフォルムをしており、もう一体は黒くやや角張ったデザインをしている。どちらのロボットも洗練された美しさを感じさせた。何だ、ちゃんとフェイルセーフの連中にも切り札があるんじゃないか。
銀色のロボットは滑るような動きで負傷した治安部隊を次々と回収し、安全な場所へと運んでいく。一方、角張ったデザインの方は肉の柱の方へと突進し、鷲掴みにすると肉の柱は轟音と共に弾け飛んだ。
どうやらあのロボットの巨大な手のひらには高圧電流でも流れているようだ。
焦げ臭い匂いがこちらにも漂ってくる。
「すごいですね!没木さん!一瞬で吹き飛ばしちゃいましたよ!」
神代が目を輝かせながら俺に呼び掛ける。
「ああ……」
俺は苦笑しながら答える。
しかし俺は内心ほっとしていた、あの気持ち悪い肉の柱と戦う羽目にならずに済みそうだからだ。
治安部隊を回収し終えた銀色のロボットは華麗な動きで肉の柱の攻撃をかわし、腕から刃のような物を出しすれ違いざまに柱を次々に切り裂いていく。
その巨体からは想像もつかない俊敏な動作に俺は素直に感心していた。
そしてもう一方の角張った方のロボットは肉の柱を掴むとその巨体を軽々と引き抜いて、地面に叩きつけた。叩きつけられた箇所は大きく陥没し、大量の体液が流れ出る。そのまま倒れた巨体に何度も拳を叩きつけ、その度に地響きが起こる。
気がつくといつの間にか肉の柱はくすんだ色へと変色していた。
どうやら絶命したらしい。
「すごい……凄まじい力ですね……」
神代はどこか羨ましそうな表情で見つめている。
「ああ、すげえな……」
あのレベルの兵器を抱えているなら治安部隊が負けるとは思えない。だが俺は妙な胸騒ぎを覚えていた。
そもそもあのロボットはどういう事態を想定して作られたものなんだ?
あんなものが人間の犯罪者相手に必要になるとは思えなかった。
それから数分後、治安部隊は撤収の準備を始めた。治安部隊の隊員たちも無事だったようで、怪我人の手当てをしたり、残骸を片付けている。
幸いこちらの事は完全に頭から消えているようで俺たちは無事にその場から立ち去ることができた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……怪物はどうにかなったけど結局カフェはダメだったな……」
俺は近くの水道で手を洗いながら呟いた。
「そうですね……残念です」
俺の言葉を聞いて、神代は少し落ち込んだ様子を見せる。
「でも、昨日のバッタといい、今日のあの肉の化け物と言い、ここ最近……
おかしなことが立て続けに起こってますよね」
「はは、どこか近所に頭のおかしい天才科学者がいて
何かの実験をしてるのかも……」
彼女は俺の言葉を聞き、真面目な顔で考え込む。
「この街にとって危険な存在は何も超能力を使う悪人だけではない……
という事ですね」
いやめちゃくちゃ適当に言っただけなんでそんな真面目に考えるようなことじゃないんだけど……。
「とりあえず今日は帰ろうぜ」
俺はそう言って、神代を促し歩き始める。
俺はふと足を止め、振り返る。そこには先ほどまで俺達がいた場所、つまりカフェがあった場所には大きな穴が空いていた。
俺は黙ってその様子を眺めていたが、しばらくして再び前を向き歩き出した。
「ふぅ~、今日も疲れたなぁ!」
俺はわざとらしく大きな声を出して話を変える。
「……そう言えば没木さんって普段は何をしているんですか?
仕事とかしているように見えませんけど」
俺は黙って彼女の質問に答えず、少しだけ歩く速度を上げる。
「えっ、無視ですか?!だったら私と警察官を目指しましょうよ!」
「いや、今日は結局カフェの代金を払えなかったし……
食い逃げになるんじゃないか?もう俺は犯罪者だよ、警察官は無理だよ……」
「もう、話を逸らさないでくださいよ!」
神代は怒ったような口調で言うが、本気で怒っているわけではなさそうだ。
「……でも、今日のことでやっぱりこの街の警察が素晴らしい組織だということが
分かりました、だからこそ一緒に働きたいと思ってるんですよ!」
彼女は笑顔で話すが、その言葉にはどこか必死さが感じられた。
やはり責任を感じているのだろう。
「そっか……」
俺はそれだけ言うとまた黙り込んだ。
神代ももう無理に俺を誘うようなことはしなかった。
(神代が警察ってマジかよ……。今後はもうちょっと大人しくしようかな……)
俺の名はボッキマン。
無敵の力を持つ男。
運命は俺に好き勝手させておくことをもうやめたようだ。
無敵の力で誰を殴ればこの状況が好転するのか、知っていたら教えて欲しい。




