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【朗報】ボッキマン、人生相談に答えていた その③

そこにはまるで動物の皮を剥いで、むき出しになった筋肉を集めて作りだした肉の柱のようなものが聳えていた。


全長は7メートル近く、所々に鋭いトゲが生えていて、日光を受けててらてらと輝くその体は、血塗られたように赤く、表面はぬめぬめとした粘液に覆われ、全体からは蒸気のようなものが立ち上っていた。


この触手が高速で辺りを薙ぎ払って、衝撃波のようなものを作り出し、俺たちがいたカフェの窓ガラスを破壊したのだろうか?


神代は悪さをする能力者がいる、と言っていたがこれはどう見ても人には見えない。

俺が思うに、この街で本当の問題は能力者ではなく、バッタだとかこういった怪物たちなのではないかと思う。


肉の柱には目も見当たらなければ耳も無さそうだが、それでも動く物の気配には敏感のようで、寄って来るドローンを叩き落そうと全身をしならせ始める。


神代はその様子を見て咄嵯にスマホを取り出した。

「私が警察に連絡します!それまでお願いします!」

彼女はそれだけ言い残して電話を始める。


(えっ、お願いしますって何を?)


俺が困惑していると、肉の茨が周囲を払うように激しく回転し、数台のドローンをまとめて吹き飛ばした。俺は慌てて近くの物陰に隠れて様子を見守る。

神代は必死に誰かと連絡を取り合っているようだが、なかなか話が進まない様子だ。


でもこれまでの経験上、この街の治安部隊、フェイルセーフは5分もあれば現場に到着する。だから俺が戦う必要はない。そもそもこんな公衆の面前で顔を晒して暴れたくはない。


だがその間も肉の柱は暴れ続ける。時折地面に向かって倒れ込むように、全身を振り下ろすとそのたびに地響きが起こった。

まずいな、このままじゃ店が潰れてしまうかも知れない。


「え、没木さん……?!」

神代はそう叫ぶと、俺の方へ不安そうな視線を向ける。

「え?どうしたんだ?」

「あの、没木さん、何故戦わないんですか?!」

神代は恐るおそるといった感じで俺に尋ねる。


「いや、だってほら、すぐに来るよ?その、フェイルセーフの連中って……。

 それに俺みたいな怪しい奴がいきなり出て行っても……」

俺は自分の体を見下ろしながらそう言った。

俺が隠れているのは店から少し離れた倉庫の裏手だった。


「そんなこと言ってる場合ですか!このまま放っておいたらこのお店が壊れちゃい

 ますよ?!早く止めないと……!」

彼女はそう言って俺の腕を引っ張ろうとする。頼むから放っておいて欲しい。俺は彼女の腕を払いのけた。


「ほら、周りの連中を見ろよ。逃げもせずにみんなスマホで撮影してるだろ。

 こんな場所で能力なんか使ったらもう一般人として生きられなくなるぞ?」

俺は周囲の様子を伺いながら答える。

「それは……でも……」

神代は口ごもる。


「とにかく、数分もしたら治安部隊がやって来てどうにかしてくれるんだ。

 俺たちが何かする必要は……」


俺がそう言った瞬間、地鳴りのような音が響いて、俺は言葉を止めた。

見ると、肉の柱がこちらに向けて倒れかかって来ているところだった。

「ごめん!」

俺は思わず謝罪し、神代を抱きかかえるように押し倒す。

その直後、先ほどまで俺の頭があった位置を巨大な質量が通過していった。


俺はそのまま地面に伏せたまま、神代の様子を確認する。

彼女は呆然としていたが、特に怪我などは無いようだった。


「没木さん、あれ……」

神代は起き上がると、店の方を指差す。振り返ると、肉の柱からいくつかのトゲが欠けていて、そこから黄色い汁が漏れ出していた。


「ん……?」

トゲが突き刺さった店の壁を見てみると、そこだけ妙に赤黒く変色している。

まさか……。俺は急いで立ち上がると、店の方へ駆け出す。

店内に飛び込んでみると、そこは酷い有様だった。


ガラスの破片が散らばり、内装は滅茶苦茶になっていた。

客たちは床に座り込んだまま、何が起きたのか分からないという表情をしている。

カウンターの奥では店員が一人、頭を手で押さえてうずくまっている。


そして何より、トゲが刺さった辺りを見てみると、突き刺さったトゲは根のようなものを張り新たな成長を始めようとしていた。根は何から栄養を得ているか分からないが、トゲの周辺にある壁や天井を食い荒らしていく。


これって放置しておいていいものなんだろうか?かなり不味いんじゃないか?

俺が迷っていると、突然トゲの周りの壁が大きな音を立てて砕けた。そして、壁の瓦礫と共にトゲが浮かび上がる。


遅れてやって来た神代が能力を使ったのだ。

彼女が両手を前に突き出すと、空気の流れが変わるのを感じた。彼女はトゲのついた瓦礫を回転させると勢いをつけて肉の柱に向けて投げ飛ばす。


瓦礫と共にトゲが深々と突き刺さると柱は苦しげにぶるぶると全身を震わせた。だがそれでも肉の柱が倒れる気配はない。


「おお、すげえ……」

俺が感心すると、神代は呆れたように俺を睨みつける。

「没木さん!見てないであなたも手伝ってくださいよ!」


いや手伝えとか言われても……。

神代の超能力の場合、何かを動かしたり飛ばしたりしても周囲はそれが神代の超能力がどうかなんて分かるわけがないんでまだいいが、

俺の場合、自分の体を使ってどうこうするわけだから下手に何かすれば周囲にすぐにバレてしまう恐れがある。そもそも顔だってもう割れてるし……。


「俺はもうみんなに顔を見られてるんで……。

 こういう場合、何かするのはちょっとなぁ……」


俺が躊躇している間と神代はため息を吐くと、再び両手を突き出した。

「ああ、もう!」

彼女は叫ぶと、周囲の瓦礫やらゴミやらを次々に宙に浮かべ始める。

その数はどんどん増えていき、肉の柱に向かって飛んで行く。


やはり肉の柱は動く物に敏感に反応するようだ、それらを振るい落とそうと激しく全身を振り回した。奴が大きく動くたびに瓦礫は粉々になり、地面は激しく揺れる。


周囲の人々はもう何が何だか分からないといった様子で頭を抱えながらしゃがみ込んでいた。ただそれでも何人かはスマホから手を離さず撮影を続けている、何というか見上げた根性だ。


「……あっ」

神代は小さく声を上げる。肉の柱が暴れまわるたびにトゲが抜け落ちて、あちこちに突き刺さっていたのだ。そして先ほどと同じく、トゲは根を張り、新たな肉の柱を形成し始めているようだった。


「あの、没木さん……」

彼女は慌てているような困っているような複雑な表情を浮かべてこちらを見る。

「どうしましょう……」

「どうって言われても……」

俺は首の後ろに手を当てながら考える。どうしたものかな……。


肉の柱に何かが動く物が近づくと奴は大暴れする、そのたびにトゲが抜け落ち、周囲に肉の柱が作られる。この悪循環を止めないといつまで経っても解決しないのでは。


「とりあえず奴を下手に刺激しないようにしながらトゲを回収して……」

俺の『下手』という言い方が気に入らなかったのか、神代はムッとした表情になる。

「なら没木さん、そちらの方は貴方にお願いしますね!」

そう言うと彼女は空中に浮遊させた瓦礫を肉の柱に向けて飛ばし始めた。


俺は慌てて彼女のを制止を試みる。

「お、おい、だからそれはダメなんだってば!」

「だから!?トゲの回収は貴方がやればいいでしょ!?

 じっと見ていただけのくせして文句ばかり言わないで下さい!!」

彼女は怒鳴ると、瓦礫と一緒にトゲの付いた瓦礫を投げ飛ばす。トゲは勢いよく飛んで行き、肉の柱に突き刺さった。


俺は神代を止めるのを諦め、店を出ると辺りを見回す。


肉の柱は相変わらず激しく動き回り、トゲを辺りにバラ撒いている。幸いトゲに当たった人間はいないようだったが、このままだと時間の問題かもしれない。

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