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【朗報】ボッキマン、人生相談に答えていた その②

俺達は公園の近くにあるオープンテラスのカフェに来ていた。


店内に入るとコーヒーの香りが鼻をくすぐる。

席に着くと俺はモーニングセットを頼み、神代はサンドイッチとフルーツジュースを頼んでいた。しばらくして運ばれてきた朝食を食べながら俺はスマホを取り出しニュースをチェックする。


バッタに関して何か新しい情報が載っているかもしれないと思ったからだ。


……だが、ネット上には事件に関する記事はまったく見当たらなかった。

まったくだ。


「どうかしましたか?」

神代は俺の様子を不思議に思ったのか、小首を傾げて聞いてくる。


「あのバッタなんだけど、何かあるかなって思ってさ」

俺はスマホをテーブルに置くと彼女に向き直った。

「そうですね……やっぱり気になりますよね」

神代は真剣な表情で俺の顔を見るとそう言った。


「うん、まあ」

「でも私も遅くまでずっと調べてたんですけど、特に何もありませんでしたよ」

「……そうか、おかしいよな」


住宅地で殺人事件があって、しかもその犯人であろうというのが、ゴムのように伸び縮みをする謎のバッタの怪物で、そいつはこのボッキマンに天高く打ち上げられて退治された。そんな異常事態なのに、新聞やテレビでは取り上げられていない。


警察や治安部隊が出動した様子もない。SNSや掲示板で話題になっているかと思って見てみたがそれもなかった。一般人に知られないように事件の隠蔽を図っているのか、それとも何もわかっていないのかすらわからない。


バッタだけじゃない、この間の公園のロボットのことも、俺が二人組にビルの屋上で襲われたことも、ニュースにはなっていない。


……しかしまあ、もうそういうものなんだろうな、この街のメディアというのは。


「……没木さん?」

神代の声で我に帰った俺はスマホをポケットに入れる。


「ごめんごめん、何だっけ?」

「いえ、没木さんはこのニュースをどう思いますか?」

彼女はそう言って手に持ったスマホを差し出し、俺に一つの記事を見せてきた。


(えっと……『職務質問中に現場から男が逃走』だって?)


どうということのないニュースだが日付見てはっきりと分かった。

この記事の「男」とは俺のことだ。もちろんただの「職務質問」などではないし「逃走」でもない。あの日、実際に起きたことと言えば、最新鋭の特殊装備に身を包んだ数十人の治安部隊の精鋭たちが、たった一人の男に素手で完膚なきまでにボコボコにされた上に、 現場から徒歩で立ち去られてしまった、ということである。


「ああ……なんかショボいニュースだな」

俺は適当に返事をして水を飲む。

確かにこれは俺の話ではあるが、神代はそのことを知らない。だからここであまり大きな反応をして怪しまれるわけにもいかない。


「そうなんですよね……でも、これちょっと変だと思いませんか?」

神代は俺の言葉を聞いてもなお食い下がる。

「え、なにが?」

俺は少しドキリとして聞き返した。

「このニュースが本当なら、この男の人って普通の人間じゃないと思うんですけど」

「……うーん?」

俺はあいまいな返事をした。


「だってこの街の警察から逃げ切るなんて出来そうにもないじゃないですか。

 だから犯人の人って能力者だと思うんです、それもとびきり強力な……」

神代は身を乗り出して俺に詰め寄ってくる。

「ああ、まあ、そうかも……」

俺は思わず神代から目をそらしてコーヒーを一口飲む。口の中で水と混ざったコーヒーが苦く広がった。


「きっとこの街には私と没木さんだけではなくて、不思議な能力を持っている人たち 

 が他にもたくさんいるんじゃないんでしょうか?」

「……そうだな。でも俺達みたいにバッタと戦える奴らばかりとは

 限らないんじゃないか?静かに暮らしてる奴らが大半かもな」

俺は神代に視線を戻すことなくそう答えた。


「……けれど中には能力を悪いことに使う人もいるかもしれませんよね?

  だから私は……」

神代はそこで言葉を切る。

「うん?」

俺は彼女の次の言葉を待ったが、しばらく沈黙が続いた。


やがて彼女は少し顔を赤らめてうつむきながら小さな声でこう続けた。


「そういう人たちがこれから罪を犯さないためにも、やっぱり、私は……

 警察官になろうと思うんです。私の力では出来ることは少ないかもしれない

 ですけど、それでも何かしたいんです」


「へぇ……警さ、え!?」

俺は驚いて思わず彼女を見た。


「あ、ごめんなさい! 突然こんなこと言われても困っちゃいますよね!」

神代は慌てて手を振る。


「い、いや別にいいんだけど、警察官になるってのはもしかして昨日俺が

 言ったせいだったりしない?」

「いえ、没木さんに言われたから、ってわけじゃないですよ?

 これって、結構前からなんとなくは考えていたことですし……」

神代はうつむいたまま言葉を続ける。


「能力を使って悪さをする人がいるなら、能力を持っている私のような人間が

 止めないといけないとはずっと思っていたことです。

 でも、没木さんと出会ったことで私一人では出来ないことが多いというのが

 はっきりとわかりました……。だから組織だった行動が必要なんです。

 それでやっぱり警察に入ろうかなって」

「……うーん」


俺は感心したようにそう言った。

警察にでも協力しろってのは数時間前に自分でも言ったことだし、神代は無関係だと言ってはいるが……、今になって自分の言葉に少し後悔していた。


何故ならそれは、これから先、俺が街で暴れたら神代が出てくるということになるかもしれないからだ。正直俺はそんな形で神代とは会いたくなくなっていた。


「いや、でも、危険だと思うよ?だってほら、能力を持っているって言っても

 一概にどういう能力かはわからないんだから、うまく対処できない可能性だって

 あるんじゃ……」

俺は少し考えた後、なるべく当たり障りのない返答をする。

「大丈夫ですよ!チームを組んでの活動ですから!私が対処できないことも

 サポートしてくれる仲間がいるんです!」


神代は顔を上げて微笑みを浮かべる。

その笑顔を見て、俺は胸の奥で何かがざわめくのを感じた。

この気持ちは何だろう。


「ああ、そっか……がんばれよ。応援してる」

俺は彼女につられて笑い返す。

内心の動揺を悟られないように努めて冷静にそう言うのがやっとだった。


「それで、あの、没木さんもよかったら…

 一緒に警察官を目指してもらえませんか?」

「えっ?!」

俺はまたもや驚かされる。

まさか自分が勧誘されるとは思っていなかったからだ。


俺が警察に? 冗談じゃない、絶対無理だろう。そもそも俺はただの犯罪者だし。

それに何より、俺は組織とかそういう物がニガテなのだ。


「実は私、昨日貴方のことを見かけた時から、この話をしようと思ってたんです。

 没木さんが私と同じ能力者だとしたら、ぜひ協力して欲しいと思って……」


こいついくらなんでもその場の思い付きで行動しすぎじゃないか。大丈夫なのか?

いやまあ、俺が心配することではないのだが。


「いや、俺はそういう柄でもないし、警察官ってのは……」

俺は首の後ろに手を当てて困った表情を作る。


その時だった。


衝撃音が響いたかと思うと、店の外を何かが通り過ぎた。

「なんだ?」

俺と神代が同時に立ち上がった瞬間、店のガラスが粉々に砕け散り、

店内に悲鳴が響き渡る。


状況を確認するために店の外に飛び出した俺たちは、目の前の光景に絶句した。

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