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【速報】ボッキマン、再び出会う57

「おい……いい加減こっち向けよ、此咲さん。

 あんた一体、何のために戦ってんだ?」


潮木さんの元へと向かう俺を止めようする動きは確実に鈍く、

弱々しいものに変わっていた。


『残念。戦ってないんだってその子は、何も考えずに立ってるだけだから』


此咲はまるで誰かに助けを求めるように天を仰ぐ。

その視線の先には何もない。薄暗い天井が見えるだけだ。


「潮木さんのためです」

「…………」


此咲がようやく言葉を返してくれた。

彼は天井を向いたまま動かなかったが、その意識が俺へと向いてることははっきりとわかった。


「ありがとう、やっと答えてくれたな。

 なあ、此咲、もう止めよ……」


呼び掛けた俺の言葉を遮り、此咲が口を開く。


「……潮木さん、俺は以前からずっと精霊に呼び掛けていました。

 しかし、残念ながら精霊の声に

 全てを委ねることが出来ませんでした」


「……?」


「それで、俺なりに考えていたんですけど、

 没木さんと出会ったことでその理由がようやく

 理解できたような気がします」


「え、ああ……?」


「…………」


横目で潮木さんの様子を見ると眉に皺を寄せ、少し焦っているように見えた。


「没木さん、聞いてください」

「ああ、うん……言ってくれ?あっ、呼び捨てでいいよ」


「人間の魂と精霊が一つになる時、

 精霊はその人の名前を必要とします。

 しかし、俺がどれだけ名前を告げても、

 精霊と俺の魂が完全に交わることは出来ませんでした」

「……」

「俺はずっとそれを不思議に思っていたんですが、

 没木さんの話を聞いた今ならわかります。

 ……おそらく俺の魂には生き別れた実の父親が付けた

 もう一つの名前があったからなんでしょう」


此咲は目をしっかりと開くと、潮木さんと向き合い、彼女の顔を見つめる。

此咲の手足を包んでいた青い炎が完全に消滅する。


「……今までずっと苦しかった。

 生きてきて幸せについて考えたことなんて一度もなかった。

 けれど、ここに来て俺は変わりました。

 生まれて初めて守りたいと思える人々が出来たんです」


「……」


「ここには俺を尊敬してくれる後輩がいて、

 俺を信じてくれている先輩がいて、

 俺の背中を追いかけている仲間がいて、

 俺の背中をずっと守ってくれている師匠がいる。

 そんなみんなと一緒に戦うことが出来たらどんなに楽しいだろうと、

 心の底からそう思いました」


「……そうか」


潮木さんは呆れたように鼻で笑う。

しかし、此咲の変化に戸惑い、緊張していることがはっきりと見て取れた。


「潮木さん、愛しています」

「……」


此咲は拳を握ると、まっすぐ潮木さんを見据えて言った。

その声は力強く、迷いがない。


「潮木さんに俺を見て欲しいんです」

「……見てるよ、ずっと……。心配しなくたっていい……」


「違います。俺を一人前の男として見て欲しいんですよ」


『うるさいな、

 君なんて、もうどうでもいいんだよ』


「俺はあなたに認められたい。俺はあなたのことが大好きだから」


『私が大事なのは没木くん、ただ一人。

 彼だけなんだ』


「だから、俺のことをもっと見てください」


『君は没木くんが現れるまでの代用品だ。

 君はただの中ボスだ。

 本気を出した没木くんにやられて、

 退場するのが君の役目なんだ』


潮木さんの唇は震え、固く組んだ腕には爪が食い込んでいる。

そして、潮木さんは何かを堪えるように俯き、静かに息を吐き出す。


「……も、もういい。

 き、君が、君のような子が、私みたいな女のために、

 そ、そんな風に苦しむ必要なんてないから……」


今まで見たことのない潮木さんの姿だった。

潮木さんは俯いたまま、嗚咽を漏らしながら、絞り出すようにして言葉を紡ぐ。


此咲は潮木さんの言葉を聞くと、ゆっくりと右手を上げ、

潮木さんの頭を優しく撫でる。


「苦しんでなんかないですよ。潮木さんを守るのが俺の役目ですから!

 あなたに会えて俺は最高に幸せです」

「……」


「なあ、此咲……もう止めようぜ。

 潮木さんもこう言ってることだし……」


俺は此咲へと歩み寄りながら言う。しかし、此咲は血だらけになった拳を構え、晴れやかな笑顔で答える。


「ありがとうございます、没木さん。

 でも、俺は見てみたい。そして戦いたいんです。

 本気になったあなたと……だから……」

「……だから?」


周囲の空気が張り詰める。

今は眠っているはずの塾生や職員たちの視線が此咲に注がれてるような錯覚を覚えた。


「俺は今から名前を捨て、精霊に全てを委ねるつもりです」

「???おい、此咲……?」


「やめろ!!此咲くん!!」


潮木さんが大声で叫んでも此咲はもう振り返らなかった。

太陽のように晴れやかな笑顔のまま、彼は虚空に向けて声を張り上げる。


彼の精霊への呼びかけは俺にはどういうものかはわからなかった。

潮木さんの絶叫でかき消されてしまったからだ。


それでも「それ」はやって来た。

まるで、ずっとこの時を待っていたかのように。


此咲の心は潮木さんへの愛と、仲間と共に暮らせる幸福で満たされていたはずだ。

本来なら精霊が潜めるような隙間などは彼の心にはなかっただろう。


だが「それ」は音もなく、気配すら感じさせずに、機会を見逃すことなく、俺たちの目の前に姿を現した。


俺が持つ無敵の力と、此咲の力の間に生じた隙間を埋めるために。

長くなってすみません!どうしても変態博士の大冒険を書きたくなってしまいました!没木くんの「出会い」編、もうすぐで完結です!

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