【速報】ボッキマン、再び出会う55
「えぇええ~?!」
驚きのあまり思わず声が出てしまう。
何かしらの方法で俺の次の行動を読んでいるのは間違いないだろうが、それにしてもあまりにも正確すぎる。
俺の動きはすでに目視が困難なほどの速度に達していたが、それでも此咲の蹴りであっさり撃墜され、地面に叩きつけられていた。
「えっ、ちょっとお!!」
慌てて起き上がろうとするが、その前に再び俺の身体は宙を舞い、今度は料理の乗ったテーブルに激突する。
転がりながらも、すぐに体勢を立て直したがテーブルに乗っていた餡かけ豆腐が飛び散り、俺の顔と服にべったりと付着してしまった。
「あはははっ、いいねいいね、二人ともすごいよ。
やっぱり君たちは最高のライバルだよ」
潮木さんは手を叩いて笑う。
一方で此咲は表情一つ変えずに黙ったまま潮木さんを見つめている。
「はぁ~、此咲さん?まじでやめてくんね?」
「……」
「ねえ~、無視?いい加減本気で怒るよ~?」
「……」
俺は左手の指をつまむと、軽く捻りながら関節をマッサージする。
「わかったよ。
ほら……、今から手品をやるからさあ、此咲さん、こっち見ろよ」
「……」
「え、なになに?またまた~どうせ大した手品じゃな……
えっ、えぇえっ!?小指が取れっ!?」
潮木さんは俺の手品に本気で驚き、少し動揺したようだったが此咲は振り向いてくれなかった。目の見えないはずの潮木さんが俺の手品が見えていたのと、此咲の予知能力は何か関係があるのだろうか?
「……此咲さん、あんたが使ってるのは予知能力だろ。どうだ正解だろ?」
顔と服についた餡掛け豆腐を拭き取ると、背中を向けたままの此咲に向かい、再び拳を構える。
「ふふっ、大正解。ま、それぐらいすぐわかるよね。
ところでさっきの手品ってどうやって……」
潮木さんが俺に微笑みかけると同時に、此咲が振り向きざまに回し蹴りを放つ。上半身を反らせ軽く回避して見せると、俺は此咲を無視して潮木さんと会話を続ける。
「はっきり言うけど俺は無敵だぜ。
潮木さん、あんたは俺が予知能力みたいなしょっぱいもんに
負けると思っちゃってんの?」
素早く身を屈めた此咲が俺の足を払おうと下段の蹴りを放つ。
だが少し踏ん張って力を込めてやれば彼の丸太のような脚をもってしても、もはや俺の足には何のダメージもない。
それどころか逆に俺の足首に弾かれ、此咲はバランスを失い仰向けに転倒した。
そのまま此咲の押さえつけようと手を伸ばした瞬間、俺は驚いて動きを止める。
「…………」
此咲はすでにその場から消え、音も無く潮木さんの目の前に立っていた。
「……ぷっ、ふふっ、没木くん、彼は逸体塾G地区支部の最高戦力だよ。
あんまりナメない方がいいと思うけど。でも確かにパワーには欠けるね。
君をやっつけるには此咲くんじゃ力不足かも」
潮木さんがそう呟くと、此咲の両手両足が青い炎に包まれた。
「……潮木さん、これは……?」
此咲は燃え上がる自分の手足を見て、呆然と問い掛ける。
「ふふっ、攻撃力アップの魔法だよ。ゲームにもよくあるでしょ?
ほら、ボス戦だし、君もパワーアップしないと、私のことを守れないよ」
「俺では勝てないということですか?」
「そうだけど?」
「……わかりました、潮木さんがそう仰るなら」
此咲は小さく息を吐くと、目を閉じ、沈黙しながら俺の次の動きを待つ。
「没木くんもまさかそれが全力ってわけじゃないよね?」
「うるせえな!当たり前だろ、手を抜いてんだよ!わかれよそれくらい!」
言い訳がましく聞こえるが俺は一切本気を出してない。
本当はもっと速く動けるし、攻撃だって出来る。しかし、本堂には何人もの人が倒れている。本気で暴れてこの建物が崩壊でもしたら、ここにいる人たちはみんな生き埋めになってしまう。だから俺は手を抜いていた。
別に思い入れがあるとか、ましてや助けたいわけではない。潮木さんのお遊びのせいで、布留さんたちが犠牲になるのは何となく気に食わなかった、それだけだ。
「はは、それじゃ無理だね。手を抜いて勝てるほど此咲くんは弱くはないよ」
「あっそ!」
俺は床を思い切り踏み抜き、一気に此咲との距離を詰める。次の瞬間、爆音と共に、俺の側頭部に強烈な衝撃が走った。
咄嵯に腕でガードしたが、それでもあまりの威力に身体ごと吹き飛ばされてしまう。
「(なんだよ!あの攻撃力アップの魔法、マジだったのかよ!)」
急いで立ち上がろうと顔を上げた瞬間、青い炎を噴き上げる此咲の蹴りが鼻骨に叩付けられる。此咲の蹴りはこれまでとは比較にならないほど重く、そして速かった。
「ちょっとおお!むかつくうう!」
此咲は追撃を加えようとするが、俺が転がるようにして攻撃をかわすと、テーブルを蹴り上げ、その勢いで椅子を掴んで投げつけた。
俺は飛んできたテーブルと椅子を粉砕するも、次の瞬間、背後に回っていた此咲に蹴り上げられ、天井の梁に叩きつけられてしまった。スピードも攻撃の威力もケタ違いに上がっている。
「(くそっ、調子に乗りやがって……)」
受け身を取らずそのまま床板に落下した俺は、心の中で悪態を呟きながらゆっくりと立ち上がる。此咲は相変わらずこちらを見ていなかった。
しかしここまで『向き合わない』ことに徹底しているとなると、眼中にないと言うよりはこちらを見ないことに秘密でもあるかのようだ。
「おらっ、こっち見ろ!」
此咲に向かって走り出す。
すると此咲は俺の動きに合わせて的確に回し蹴りを放った。此咲は俺の行動を完璧に読んでいる。どうやらこいつの力は予知能力で間違いなさそうだ。
此咲は俺の動きを一切見ることもなく、攻撃を全て避け、カウンターを仕掛けてくる。やってくることと言えばそれだけだ。
しかし、それがわかったところでどうすればいいかはわからない。
拳を振りかざすと同時に足元をすくわれ、派手に転倒する。殴ろうと思った瞬間には消えており、次に姿を捉えた時には既に攻撃を受けていた。




