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【悲報】ボッキマン、童貞だった その④

「あ、うん。いいけど。

 こっちからも連絡しようと思ってたし」


「そうなの?もしかしてマンションのことだったりする?」

「そうそう。ま、あれだよ。

 爆破されて消滅したんだよ。もうさ、困っちゃって……」


「そう、あなたのマンションも被害にあったのね」


「へぇっ?」


嫌な予感が胸をよぎる。


「そ、それって……」

「私の住んでいる所は無事だから……でも同時多発的に数多くの建物が

 爆破されているみたい。死傷者もたくさん出てる」

「まじか……」


そう言えばさっきから延々、サイレンの音が響いている理由はそれか。流石に多すぎると思っていたのだ。


頭上にもヘリが飛び交っているし、かなり広範囲で事件が起きているようだ。


「……それで、あなたはこれからどうするつもりなの?」

「えっ、どうするって言われても……。

 今日はネカフェにでも泊まって、明日から部屋探ししようかなって。

 あっ、そうだ。なんか仕事とかあれば紹介して欲しいんだけど」


俺の言葉に、なぜか少しの間沈黙が流れる。


「……あなた今、どこにいるの?」

「え?あー、その……、まあ、公園で……」


俺はよくわからないままに現在地を伝える。すると一方的に電話は切られてしまった。俺は首を傾げる。一体なんだったんだろう。何か変なこと言ったかな……。


「今の誰です?」

「ああ、ビジネスパートナー……だと思う」

「思う?」

「いや、俺のこと嫌ってるっぽいから……」

「なるほど。その気持ちわかりますよ」


ブラウニーはどこか納得した様子で呟く。


「……というか、さっきの話だと

 街のあちこちで建物が爆破されてるんですよね?」


「らしいな」

「もしかするとその、ビジネスパートナーの人たちも

 仕事どころじゃないかもしれませんね」

「まあ、確かに……」


「じゃあ、あんたただの無職じゃないですか」

「うるせえ!金はあるんだよ、金は!」


とは言ったもののブラウニーの言う通り、糾業会だって仕事どころではないかもしれない。無敵の俺ですら困ってるんだから、普通の人間ならなおさらだろう。


「あと、取りあえず服を買った方がいいですよ。

 というかあんたどれだけ服をボロボロにすれば気が済むんですか?」

「それは俺のせいじゃないだろ!」


しかし、今回の件でせっかく保管しておいたアージスのパーカーはすべて消滅してしまった。それの何が困るってもう廃盤になっているため、いくら金があったところでもう二度と手に入らないということだ。

俺は深いため息をつくと、重い腰を上げて立ち上がる。


「……さて、行くか」

「ネットカフェに行く前に先に服を買った方がいいですよ」

「いま服屋とか開いてるかなあ……。

 なんか非常事態っぽいし、閉まってるかもな。

 ああ、それならネットカフェも無理かもな……」


そんなことをブラウニーと話しながらだらだらと歩いていると、突然背後からクラクションを鳴らされた。振り返るとワゴン車が止まっている。


なんで鳴らされたのかよくわからなかった俺は、とりあえず道の端に寄ったのだが、一向に車は発進する気配がない。


「……なんで勝手に動き回るの?探すのが大変なんだから」


車の窓が開き、中から声が聞こえてくる。運転席から顔を覗かせたのはマドワセルだった。彼女は俺の格好を見ると眉根を寄せた。


「なにそれ?なんでそんなに汚い恰好してるの?」


ムカッ、なんだその言い草は。こっちは瓦礫の中で人命救助してたってのに。


「うるせえな。こっちだって色々あったんだよ」

「もしかして爆発に巻き込まれたの?」

「ああ、それに俺は……いや、それよりあんたがなんでここ」

「もう、いいから早く乗りなさい」


彼女は有無を言わさず、後部座席に乗るように促してきた。言われるがまま、車に乗り込むと、すぐに発車する。


「ちょっと待ってくれ。俺はネットカフェを探して……」

「仕事を紹介しろって言ったのはあなたでしょう」


「え、今から?!」


いや、確かに仕事を紹介しろって言ったけどそうじゃないだろ。何というかもっとこう、常識的にというか……。


「マジかよ、でも、ほら今日は……」

「いいから黙ってついてきなさい」


マドワセルはそう言ってハンドルを握る。俺は釈然としないながらも、彼女の指示に従うことにした。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


街は相変わらず騒々しい。

後部座席に座る俺の耳にもサイレンの音が入り込んでくる。


「その銀色の円盤は何?」


マドワセルがバックミラーを見ながらぶっきらぼうに尋ねてきた。


「ああ、これはお掃除ロボットで……」

「……どうせ避難するなら、もっとマシな物は持って来れなかったの?」

「いやいや、こいつはかなり高性能な奴だから!」


俺はブラウニーを抱え直す。


ブラウニーは心なしか悲しげな表情をしているように思えた。そもそも財産と呼べるものは俺にはスマホともうこいつくらいしかないのだ。

まあブラウニーはハカセコからの借り物なので実質スマホくらいしか持っていないようなものだが……。


何だか居心地が悪かったが、俺は彼女に話しかける気力もなく、黙ってシートに身を預けていた。


「あなたにお願いしたい仕事があるの。

 詳しいことは現地で説明するけど、それでいい?」

「んー、まあ……仕事があるだけありがたいから……」


「そう、よかった。じゃあこのまま真っ直ぐ向かうから」


俺の仕事が見つかったらしい。それはいいのだが、こいつは何故こんなにも不機嫌なのだろうか。


いや不機嫌ではないのかもしれないが、なんというか……刺々しい。俺はこの女が苦手だった。別に嫌いではない。ただなんとなく距離感が掴めない。


俺とマドワセルの関係は一言で言えば仕事を依頼する側と受ける側だが、こういう態度を取られると、仕事仲間というよりはむしろ敵対組織の人間同士といった方が近い気がしてくる。

初対面の時はもっとこう、愛想がいいように思ったのだが。


それともあれか?初めて会った時は口数は多いんだけど話題の幅が狭いもんだから、時間が経つにつれてどんどん口数が減るタイプとか?


ふふっ、やだねー、そういうの。


「……なにニヤニヤしてるの?」

「いやあすごい面白いことを考えててさ、ふふっ」

「言わなくていいからね」


「ええーー、でもすげえ面白くってさあ」

「言わなくていいからね」


バックミラー越しに見る彼女の眉間には深く皺が寄り、頬が引き攣っている。どうやら相当イラついているようだ。


まあ、確かに俺が笑ったせいで雰囲気が悪くなっているのは事実だけど、そんな怒るようなことか?


「ねえ、ちょっと」

「ん?」

「……本当にやめて、運転中だから」

「ごめんごめん、へへっ」


「やめっ……」


違った。

こいつはイラついてるんじゃない。笑いをこらえていただけだった。

俺が笑った顔を見て笑いそうになっているのだ。


マツエイビルの時もレストランで食事した時もくだらないことで笑ってたけど、まさかここまで笑い上戸だとは思ってなかった。


「あんたって結構笑うのな」

「ふぅー……本当に黙ってて」

「オッケェイ!」


「ぐふう!」


マドワセルは急に呻き声を上げるとブレーキを踏んだ。


「うわぁ、危ない!」

「……うるさいっ!」


彼女はハンドルを爪の跡が残りそうなほど強く握りしめ、突っ伏したまま肩で息をしていた。そんなことをしなくても思い切り笑えばいいのにと思ったが、なんとなく口にするのははばかられた。


「……気分悪い」

「いや今のに面白い要素なかったじゃん」

「うるさい……面白くないから……黙ってて……」


彼女は前を見据えたまま、短く答える。バックミラーから覗くその目からは、今度こそ苛立ちが感じられた。どうやら本当に怒ってるようだった。


「悪かったよ」

「やめてって言ってるでしょう!」

「わかった。もう黙ってる」


すると今度は突然、車内に軽快な音楽が流れ始めた。気分を変えようとラジオを点けたのだろう。しかし、あまりのタイミングに次は俺の方が大笑いしてしまった。

彼女もつられて吹き出しそうになるのを堪えているのか、身体を震わせながら必死に下唇を噛んでいた。


「もうだめ……限界、もう無理、死ぬ……」

「お、おい、俺が悪かったから……マジでごめん」


俺は何度も謝ったが、結局彼女が落ち着きを取り戻すまで数分を要した。爆破事件のことなど聞きたいことは色々あったが、今はやめた方がいいだろう。


窓から外の様子を窺いながら、アクセルが踏まれるのをじっと待つ。車はどこかの住宅街を走っているようだった。


「……今度ふざけたら本気で放り出すからね」


道は狭く、すれ違うことができないほどだ。その後、しばらくお互い無言だったが、なんとなく先ほどまでの居心地の悪さは感じなくなっていた。

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