表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/200

【悲報】ボッキマン、童貞だった その③

「ブラウニー……」


そうだ、お掃除ロボットのブラウニーは無事だろうか?あいつは預かり物でもある。もし壊れでもしたりしたら困る。


俺は瓦礫をかき分けながら、大声を上げてブラウニーを探す。


「おい、返事をしろ!どこにいる!

 ブラウニー!いるか、ブラウニー!」


俺は瓦礫の山に飛び込み、ブラウニーの名前を呼び続ける。


しかし、返ってくるのは俺の声と風が吹き抜けていく音だけ。そして風に乗り、かすかな呻き声と血の臭いが漂ってきた。


「大丈夫か!?しっかりしろ!!」


そこにいたのは全身血まみれになり、意識を失って倒れている女性の姿だった。俺は慌てて鉄骨を持ち上げ、引きずり出す。腹部には血が滲み、苦痛に顔を歪め、額からは大量の汗を流していた。


だがナーブロウの言った通り、傷口は綺麗に塞がれ、流血は停止していて命に別状はないように見える。しかし、呼吸は浅く、顔色は真っ青だ。

俺が探しているのは人ではなくロボットだが、同じような生存者がいるならこのままほっとくわけにもいかない。


俺は女性の肩を抱きかかえると、近くに横たえさせ、再び瓦礫の山に埋もれているであろう、ブラウニーを探し始める。


「……くそっ……どこだ?」


高校生の頃、無敵の力を持ちながら、ビルの瓦礫の下敷きになった人を助けるわけでもなく、さっさと家に帰ってゲームして過ごしていたことをふと思い出す。


俺は必死に瓦礫の山を掘り返しながらなんとなく笑ってしまった。そんな俺が、今は小さなロボットを探すついでに人を助けようとしているなんて。

どうでもいいただの自己満足かもしれないが、あの時とは違うという気がしたからだ。


俺は固く閉じられた瓦礫の隙間に手を入れ、力いっぱいこじ開ける。そのまま怪我人を引きずり出し、また別の場所の瓦礫を取り除いて、ブラウニーを呼ぶ。

その繰り返しだった。気が付くとサイレンが迫っているのが聞こえてきた。ここにいれば面倒なことになるだろう。


しかし結局、俺は瓦礫の下にいる怪我人達を全員救出し終えるまでその場を離れられなかった。……いや、ブラウニーを見つけるまでここから動けなかったのだ。


「……よし、見つけたぞ」


俺は瓦礫の隙間から手を伸ばし、挟まっているブラウニーを掴む。幸いにも損傷は見られなかった。


俺はブラウニーを抱え、すぐにその場から逃げるように駆け出した。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


取り敢えず俺は近くの公園のベンチに腰を下ろし、傷一つない様子のブラウニーに話しかける。


「……お前すげえな」

「私は王様の最高傑作ですから、それよりゴミの発生源が

 きれいさっぱり消滅しましたけど、これからどうなさるんですか?」


相変わらずこいつの言動はどこかおかしいが、壊れてはいないようだ。俺はほっと胸をなでおろしたが、すぐに表情を引き締める。

今は感傷に浸っている場合じゃない。俺はこれからのことを思案しはじめた。


「これからか……。うーん……まあ、部屋は探すんだけど」


幸いにも糾業会きゅうごうかい首領ボスから詫び代としてもらった大金は無事だった。とりあえず、当面の生活資金は確保できたと言える。


いや、そうだ、糾業会だ。偉そうに仕事を引き受けると言った手前だが、流石に家が爆破されて無くなったことは連絡しておいた方がいいだろう。


俺はスマホを取り出すと、ひび割れた画面を眺める。


「あ、やべえ……。

 今日って土曜日だったんだな……」


スマホの画面に映っていたのは日付だった。そういえば日曜日にティーパーティーを開くぞ、とハカセコに言っていたはずだ、すっかり忘れていた。


「土曜日がどうかしたんですか?」

「ハカセコと一緒に紅茶飲むぞって約束してたんだよ……」

「ええ~、紅茶ですかあ?

 ひえええーッ、そんな柄にもないことよくやろうと思えますね」


「うるせえな、俺はな、何かこう、新しいことにチャレンジしたかったんだよ。

 いやそれより、ハカセコに連絡しなきゃいけないんだよ」


「普通にそのスマホで電話すればいいんじゃないんですか?」


「いや、あそこに電話なんかないだろ。お前なら連絡取れるんじゃないのか?」

「ああ、そっか。わかりました。

 いま王様を呼びますんで、ちょっと待っててください」


ブラウニーは少しの間沈黙していたが、やがてハカセコからの応答があった。


「な、なんだ。どうしたんだ?

 きゅきゅ、急に呼び出したりして。何かあったのか?」

「あ、悪い、今ちょっと家が消滅してさ、

 そういうわけでティーパーティーはまた今度にしようぜ」


「お、おっ、おい、ちょちょちょ、ちょっと待て。

 家がなくなった?どういうことだ?な、何があったんだ?詳しく話せ」


「なんつーかもうさ、こっちも驚きなんだけど!まあ、大したことは

 俺もわからないよ。取りあえず爆破されて崩壊したってだけで。

 詳しい話は今度会った時にでも話すよ」


スピーカーの向こうで明らかに動揺した声が聞こえる。俺は少し申し訳ない気持ちになってしまった。


「ばっ、ばくはつ?

 お、おいおい、ぶっぶっ、ぶ、ブラウニーくんは無事なのか?」


「いや、そのブラウニーを通して連絡してるよ。

 ハカセコ、お前やっぱすげえよな。まったくの無傷だぜブラウニーくんは」

「心に深い傷を負ったので私はもう帰りたいんですが」

「と、とにかく無敵だから俺は無傷なんだけど。

 金だってあるから、また部屋でも借りるつもりだ」


「そ、そうか……、て、て、てっきり、泊めてくれと

 泣きついてくるんじゃないかと、しっ、心配していたのだが……」

「え?悪いだろそんなの」


「……ま、まあそうだな。

 きっ、貴様のような奴が来たら、めっ、めめ、迷惑だしな」

「ははは、相変わらずだな。

 でも元気そうで安心したよ。じゃあまた今度会おうぜ」

「ああっ、ちょちょちょ、ちょっと!ま、待て!」


「な、なに?」


ハカセコは何故か慌てる様に早口でまくし立てる。


「い、いっ、言うだけむむっ、無駄かもしれないが、

 あっ、あまり無茶なことはするなよ。わ、わかったな。

 あと、その、えっと……」

「ああ、わかってる。ありがとう」


「い、いや、べ、別にいいんだが。……いや、その、なんだ」


「ん?どうした?」

「いっ、以前、一緒に来た青年のことを覚えてるか?」

「……ああ、イグナイトのことか。どうしたんだ?」

「かっ、かっかか、彼には、私に対し、

 気を遣わなくてもいいと、つつ、伝えてくれ!」


「……?うん、わかった。じゃあな」

「うむ……、では……な……」


ハカセコとの通話を終えるとため息をつく。これで懸念の一つは解消されたが、まだまだ問題は残っている。


「これからどうすっかな……」

「取り敢えず、住む場所を探しましょう。お金はあるんですよね?」


「まあ、一応な」


「今度は爆破されないような場所にしてくださいよ」

「そんなの無理に決まってるだろ」


俺は苦笑いを浮かべながら答える。しかし実際問題、どうしたものか……。ベンチに腰を下ろしたまま考え込む。


(……そもそも誰がどういう理由で俺のマンションを爆破したんだ?)


俺はこの爆破の原因について思考を巡らせてみた。


まず真っ先に思い浮かぶのが糾業会きゅうごうかいだが、今はもう和解している。わざわざ俺に対し、喧嘩を売るような真似をするとは思えない。

次に考えられるのが、矢深組やぶかぐみの連中だが、会長を失い、衰えつつある連中が今更こんなことをするとも考えにくい。


どこからか響く消防車のサイレンの音を聞き流しながら、俺はスマホを眺めていた。


(矢深組……サスーリカがいたところだよな……)


……サスーリカか。


彼女について知っているのはせいぜい彼女の口から聞いた情報だけだ。電磁波が苦手で、母親を追ってこの街に来て、ヤクザの組長の医者をやっていて、そして……。その底は見せてはいないものの強大な力を秘めた吸血鬼。


そして彼女は今、糾業会に身を寄せている。


どうしようか、ナーブロウから聞いた話を糾業会の連中にも教えた方がいいんだろうか。でも確実にトラブルに発展するだろうな……。

そもそもあいつの話が本当かどうか何も確証がない。嘘をついているようには見えなかったが、果たして鵜呑みにしてもいいものなのか。


俺はしばらく思案を続けてみたものの、結局答えは出なかった。今日はいくらなんでも色んなことがありすぎた。


数時間前、マツエイビルの屋上でサイキオンに殴られていたことが遠い過去の出来事のように感じられる。


「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」


「なに?」

「部屋探しって言ってましたけど、さっきから何を悩んでるんですか?

 まさか今日は野宿とか言いませんよね?」

「ああ、いや考え事してただけだ。

 そうだな、いつまでもここにいるわけにもいかないか」


近場のネットカフェでも探そうとスマホの地図アプリを立ち上げたその時、電話がかかってきた。相手は知らない番号だったが、俺は特に気にせず応答する。


「もしもし?」

「私、マドワセルだけど。今いい?」

「へぇ?」


しまった。


番号を交換したはいいものの名前を登録し忘れて、そのまま放置していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ