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【悲報】ボッキマン、童貞だった その①

俺の名は没木一歩ぼつきいっぽ


俺のマンションは築73年。部屋があるのは5階。エレベーターの電気はしょっちゅう点滅する。風呂の排水溝は髪の毛ですぐ詰まる。


外観もボロボロでひどい有様だ。内装も負けず劣らず酷かった。壁紙は剥がれ、天井からは雨漏りすることだってあった。しかしそれでも蛇口をひねれば水も出たし、トイレだってあるちゃんとしたマンションだ。


大学卒業後に逃げるようにここに引っ越してきてから何年経っただろうか。当時、どういった基準でこの街のこの部屋を選んだのかは忘れてしまったが、今となってはどうでもいい。


何故なら跡形もなく吹き飛んでしまったからだ。


俺がここに引っ越してきて以来ずっと住んでいる場所だし、それなりに愛着もあったと言えるが、流石に個人でどうにかできる範疇を超えている。ここに住むことはもう諦めるしかだろう。


そして今、俺は瓦礫の中に埋もれていた。多分、爆風で倒れ込んできた何かの下敷きになっているんだろう。


(……マジかよ……なんでだ……)


意識がはっきりしてくる。痛みはない。それどころか無敵の俺にはかすり傷すらついていないだろう。


しかし心の中はまだ信じられない気持ちでいっぱいだった。


確かにここ最近、超能力者だの怪物だのと、なんだかよくわからん連中と戦わされることが増えてきたが、まさか自宅が爆破されるなんて思ってもいなかった。


俺は恐る恐る目を開ける。

視界に入ってきたのは、もうもうと立ち込める煙と瓦礫の山だ。


「……くそっ、ふざけんじゃねーよ!」


俺は悪態をつくと、力任せに周りにある瓦礫を押し退ける。

取り敢えずここから出なければならない。だがスマホを拾い上げようとしたその時、何かと目が合った気がして、俺は手を止めた。


「……」


俺は視線を感じる方へと目をやる。すると、瓦礫の山の上に男が座り込んでいて、こちらを見下ろしている事に気がついた。


「こんにちは」

「……えっ、ああ、はい、こんにちは」


突然挨拶されて面食らう。俺が呆気に取られて返事をすると、男は満足げに微笑んで見せた。


(何言ってんだこいつ……?)


いや、今は夜だ。こいつは普通じゃない。直感的にそう思った。俺は警戒しながら話しかけてみる。


「お前が爆破したのか……?」

「あれ?何か勘違いされていますね。

 先ほどの作業服の人が犯人だと思うんですけど……」


「なんでそのことを知ってんだよ」


「多分、犯人の動機って、景観や防犯の観点からこういう老朽化の激しい

 マンションは街から消えた方がいいと思ったとか、

 そういう事なんじゃないかなって思うんですよね。ほら、確信犯的な。

 もしくは何か重大なことから目を逸らすためとか……」

「おい、無視すんな」


俺はスマホを拾い上げると男を睨みつける。画面は割れていたが、まだ使えそうだ。俺はホッと胸を撫で下ろしたものの、次の瞬間怒りがこみ上げてきた。


「てめえ!いい加減にしろよ!人が住んでる、あれの、マンションを……!

 スマホだって、これ、それ……一体何考えてんだ!」


「僕はただの目撃者ですよ。

 あなたがあの男性と話しているのがたまたま、その、聞こえちゃって……」

「……それで?」

「いやあ、それだけです」

「……」


男は瓦礫の上で立ち上がると、俺に向かって微笑みかける。


「それにしてもすごいなあ。

 あれだけの爆発と瓦礫に巻き込まれても無傷だなんて」

「ああ?……まあな」


俺は適当に返事をしつつ、そっと周囲の様子を伺う。


事故か事件はともかく、マンションが爆破されて崩壊したのにもかかわらず、辺りは闇に包まれ、不気味なまでに静まり返っていた。


消防車のサイレンどころか野次馬の騒ぎ声もしない。この時間帯はまだまだ人がいなくなるような時間ではないはずだ。なのに人っ子一人見当たらない。


まるでここだけが何かの力で世界から切り離されたかのような違和感があった。この世界には俺とこいつしかいないみたいだ。


「意外と用心深いんですね。

 強いんだからもっとどっしりと構えたらどうなんです?」

「……うるせーな。そうやってボケっとしてたせいで服を燃やされたり、

 今回マンションを爆破されたりしたんだろうが」

「あー……なるほど」


「お前は何者だ」


俺は改めて男をまじまじと見つめた。


歳は俺より少し若く見えるが、20代前半くらいか。身長は俺より少し低め、体格は細身でヒョロ長い感じだ。


服装はジョギング帰りなのかトレーニングウェア姿のラフなもの。どこか遠い国の出身を思わせる顔立ちで、赤みがかった色の髪を後ろで束ねている。そして、何よりも特徴的なのは目だ。


爬虫類を思わせる黄色い瞳と、細く閉じられた瞳孔をしている、こんな瞳の人間を俺は見たことがない。カラコンにしては少し趣味が悪い。


「何者と言われましても……」


男は困り果てたという表情を浮かべると、肩をすくめる。


「うーん、そうだな。吸血鬼ハンターとでも言っておこうかな……」


何言ってんだこいつ。


「ふざけてんのか」

「いや……嘘は僕たちを弱くします。戦士は嘘をつきません」


そう言って男は右手で顔を隠すように覆うと、大きく身震いした。すると男の額や首筋から黒い血のようなものが滲み出し、それが身体全体へと広がっていく。


同時に肩や背中の筋肉が大きく隆起し始め、着ていたシャツははち切れんばかりに膨張する。そして男の髪は逆立ち、その頭は蝙蝠を思わせる形状に変形し、鋭い二つの牙が口元から覗いた。


「……!?」


俺は思わず息を飲む。これはどう見ても普通じゃない。俺はいつでも攻撃できるように心の中で準備する。


「マジかよ……。なんなんだ……それは」

「言っただろう。吸血鬼ハンターだと」


先程までとは違う獣の咆哮のような声が響く。


「いや、あの、どっちかって言うとお前の方が吸血鬼に見えるんだけど」

「……一緒にするな。我々はお前たち人間を家畜のように扱う連中とは違う」


「わかった。お前がその、ハンターなのはわかった。

 けど俺はな、吸血鬼じゃないし、それに見ての通りマンションを

 爆破されて困ってるんだよ。これ以上わけのわからんことに巻き込むなよな」


「俺の名はナーブロウ、遥か西の凍てついた地からやって来た。

 俺は今、緑色の髪をした吸血鬼を追っている。危険極まりない吸血鬼の

 一族の一人だ。奴を追い、この手で狩ることが俺に与えられた使命だ」


俺の話を全く聞かず、怪物は勝手に自己紹介を始めた。つーか髪が緑の吸血鬼だと?なんだそりゃ。……ん、ちょっと待てよ。緑色の髪をした吸血鬼?


もしかしてこいつ……サスーリカを探しているのか?


「いや知らねーよ……

 つーかそもそも吸血鬼とかただの作り話だろ……」


「強力な力を与えられたお前のように、この世界には神が作り出した俺のような

 人ならざるものがいる。お前も既に知っているはずだ。

 吸血鬼もそういった存在の一つでしかない」

「……」


俺は黙って怪物を見つめ返す。こいつの話は本当かもしれない。しかし、そんなことを言われてもなあ……。正直、困る。

マンションを爆破されたって時に、怪物に吸血鬼の話を聞かされたところで俺に出来ることなんて何も無いのだ。


大体こいつがサスーリカを追ってるというのならなおさらだ、下手なことは言えない。俺はため息をつくと、ゆっくりと構えを解く。


「……悪いがマジで心当たりはない。俺は一度、今の状況を整理したいんだ、

 あんたが爆破と無関係ならもうほっといてくれ」


「警告だ。俺に嘘をつくな」


ナーブロウと名乗る怪物は大きな耳を少し痙攣させると、体から黒い霧の塊を放出し始めた。俺は静かに構えを取る。全身の神経を研ぎ澄ませて相手の動きに備えた。

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