【朗報】ボッキマン、外注業者になる その⑦
そう言うとボスは車椅子の車輪を引き、少し後退する。
「その代わりと言っては悪いんだが、
これからも君のことはたまに様子を見させてもらうよ」
「ええっ」
ナンバーツーの言葉に驚き、彼の方に顔を向けた。
「悪く思うな……これは我々だけでなく
他の組織も多くの人々に対し、行っていることと変わらない……」
「……わかったよ。けどもう俺に喧嘩を売るのは止めてくれよ」
「ああ、お前の命を狙ったことに関しては完全に私の過ちだ。すまなかった……」
首領はそう言うと深く頭を下げた。
ナンバーツーが慌てて首領の肩に手を置き、顔を起こさせようとする。
「……いや、もういいよ。過ぎたことだからさ」
俺はどこかバツが悪くなり、視線を逸らす。首領が下げていた頭をゆっくりと上げると、ナンバーツーは静かに車椅子の後ろに回った。
「ボッキマンくん。長い間、埃っぽいところに引き留めてしまって悪かったね」
そう言うとナンバーツーがボスの車椅子を押して、部屋を出て行こうとしたので俺は慌てて呼び止める。
「あ、あのさ……一つ提案があるんだけど」
「……なんだ?」
「俺に仕事を依頼する気はないか?
下っ端でやっていくつもりはないけど、ぎょ、業務委託というか、
その、なんだ、あんた達が困っている時にたまに力を貸すって感じで……」
俺はしどろもどろになりながらもなんとか言葉を紡ぐ。
「悪くない考えだな……。
だが我々には大企業のような資金力はないからな……
僅かな報酬でよければ検討しよう……」
そう背を向けたまま答える首領に対し、
付け加えるようにナンバーツーが口を開く。
「ちなみにぼくらの給料は月一万円だよ」
「……えっ!?」
「……そ、それは嘘だ、じょ冗談だ」
首領が慌ててそう言ったが、ナンバーツーは笑いながら手を振っていた。
俺はナンバーツーのジョークに胸を撫で下ろす。
「後で使いを送るよ。まともな、意思疎通が出来るタイプの者をね」
ナンバーツーの言葉に俺は首を縦に振る。
彼は俺に向かってニヤリと笑うと、首領と共に去って行った。
「糾業会か……そんなに悪い奴らじゃないのかもな……」
俺は彼らの後ろ姿を見つめ、そう思った。
いや、さっきまで殺されることになってたし、監視もされるって言ってるから油断は出来ないけど……俺もつくづくお人好しだな。
(つーか俺だけ部屋に残されたんだけど、これどうすりゃいいんだよ……)
そう思っているとサイキオンとマドワセルが部屋に入って来た。
「……どうなった?」
サイキオンはそう尋ねると心配そうな目でこちらを見る。
「ああ、うん。あの二人、出てっちゃったけど」
「……俺たちがまたここに戻って来ることをわかってたみたいだからな。
……で、もしかして俺たちの仲間になることになったとか?」
そう質問するサイキオンに首を振る。
「いいや、下で働かせるのはナシだと言われたよ。首領から直々にな」
そう言うとサイキオンは少し残念そうな顔をしたが、
俺を励ますかのように明るい表情を浮かべる。
「キミならいつか首領に認めてもらえるはずだ!諦めないでくれ!」
何か勘違いされているのかもしれない。
「でもまあ、とりあえず糾業会とは和解はしたからさ。よろしくな」
俺がそう言うとサイキオンは俺の手を取り、しっかりと握りしめた。
「こちらこそだ。センドレッドを守ってくれて本当にありがとう!」
「ああ、あいつはどうなったんだ?」
俺の問いかけにマドワセルが答えてくれた。
「疲れて寝てるだけ……大丈夫だから」
「そうか、俺も帰って寝ようかな。疲れちゃったし」
そう言うと俺は部屋から出ようと立ち上がろうとしたが、
マドワセルに肩を抑えられ再び座らされた。
「ちょっと待って、さっきの話覚えてないの?」
マドワセルはそう言うと俺の目をじっと見つめてくる。
その瞳からは特になんの感情も読み取れなかった。
「ああ、そうだった……
じゃあ、ここで話そっか。ちょうど会議室だし」
「ここはダメ」
頭を掻きながら思い出したように言うと、提案は即座に却下された。
「え?なんでだよ」
「常識で物を考えて?
ここは組織の所有物であなたの家じゃないの」
するとマドワセルは小さくため息を吐いた。
「ほら、送ってあげるから早く立ちなさい」
彼女はそう言うと俺の襟元を引っ張り上げ、立ち上がるように促した。
ムカッ、何だこいつは。
「あのな。座れだとか立てだとか……一体どうしたいんだよ」
「いいから立ちなさい、ずっとここに居るつもり?」
「……」
俺は彼女の言葉に従い、渋々と立ち上がる。
サイキオンを見ると少し気まずそうな顔をしながらこちらを見ていた。
「じゃあまたな、サイキオン。
あと、番組の評判だけどアクションはみんな絶賛してたぞ」
俺がそう言うと、彼は笑顔で手を振ってくれた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
途中マドワセルの方で何か用事があったらしく、俺は糾業会の船の中で待機させられていた。ここは船の中でどの辺りにあるのだろうか。
よくわからない計測機器や計器がたくさんある。
俺はその辺にあった高価そうなソファーに座り、ぼーっとしていた。
(……暇だなぁ。なんかすることねぇか?)
俺は自分の手を見たり、足を動かしたりしながらそう考える。
イグナイトやサスーリカがいないかとそれとなく観察していたが、俺の知ってる顔はないようだ。
構成員たちは時間に追われるような感じはなく、
談笑しながら仕事をしてるように見える。
(なんかイメージと違うな……)
何人か俺の様子をうかがうように見ている者が居たが、特に何も起こらなかった。それから暫くすると、マドワセルが戻って来て俺に声を掛けてきた。
「お待たせ、行きましょう」
「……ああ」
俺は短く返事を返すと、船を再びマツエイビルの駐車場へと向かう。
甲板を歩いている時も、階段を上っている時も、なぜかマドワセルは一言も喋らない。俺は少し居心地が悪くなり、何か話題は無いものかと思案する。
「なあ、あんたたちっていつもあんな風に過ごしてんのか?」
「……あんな風って?」
「なんかこう、糾業会って忙しく働いてるっていうかさ。
もっと切羽詰まってる感じかと思ってたよ」
俺の言葉に彼女は少し考えるような素振りを見せたが、すぐに首を横に振った。
「あなたが見ているのは一部だけでしょ」
「……でも、今日みたいな日もあるんだろ?」
「毎日じゃないけどね」
俺の言葉にマドワセルは無表情のまま答える。
(こいつ……なんか苦手だな)
俺はそう思いながらも、なんとか会話を続けようとするが、彼女はそれに乗らず淡々とした口調で続ける。
やがて柱の前に辿り着くと、扉が開き俺たちは再び光の通路へと入った。
相変わらず無言で歩くマドワセルの後を追うようにして、俺は光の渦の中を進む。
「これ停電というか、この光が消えたらどうするんだ?」
ついそんなことを言う。
もしこれがすべて消えてしまうと真っ暗になってしまうだろう。暗闇の中、出口を求めてさまよい歩くのはあまり想像したくない光景だ。マドワセルは何も言わない。俺はなんとも言えない不安感に襲われていた。
俺は気になっていたことを試してみることにした。
周囲の光に触れることにしたのだ。
渦の中に手を伸ばすと初めて訪れた時と同じく、光は流れを変え俺の手から逃れようとする。
(やっぱり触ることはできないのか……)
そう思い、手を引っ込めようとした瞬間、俺の手を光の一つが通過した。
通り過ぎた瞬間、熱と強い衝撃を感じ、慌てて手を振り払う。
まるで手に杭を打ち込まれたかのようだった。俺の手の甲からは煙のようなものが上がっており、それが幻覚ではなかったことを示していた。
「何やってるの!?」
マドワセルが素早く俺の手を掴み、手のひらを両手で抑える。
「いや、ちょっと実験を……」
俺がそう言うと、彼女は信じられないものを見るかのような目で俺を見つめた。
「もう二度とやらないで」
「あ、はい……」
有無を言わせない彼女の言葉に、俺は小さく答えるしかなかった。




