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異世界最強の農家様 〜俺は『農家』であって魔王じゃねえ!〜  作者: 農民ヤズー


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変異の薬

 

「俺より努力してきただと? てめえみてえなガキの努力なんて、なんの意味が——」

「スキルは、回数を重ねれば自然と強くなる。使い続けて行けば、誰だって強くなれるんだ。でも使いすぎると体調を崩して気絶してしまう。だからこそ、人は位階を上げるのが大変だと〝思い込んでいる〟わけだが……なら、最短で強くなるためにはどうすればいい?」


 話ながらも鎌を振り、石突で突き、柄で剣を防ぎ、再び鎌を振るい、その勢いを殺さないように回転して鎌を振るう。


「……」

「気絶するまで使い続けて、起きてもまた気絶するまで使い続ける。そんな暮らしをし続けていれば、誰だってこの程度できるに決まってるだろ」

「な、ん……。なにを、言って……」


 俺の言葉に動揺して気が緩んでしまった男の動きが甘くなり、そうしてできた隙に鎌で剣を弾き飛ばす。


「俺がすごいんじゃない。お前らが努力不足なんだよ。凡人なら凡人らしくあがけよ。不満があるならそれを消すために必死になれよ。自分の努力不足で他人を貶めんな。雑魚が」

「……気絶するまで、使い続けるだと? 化けもんが……」


 剣を弾かれ鎌を首に突きつけられた男は俺を睨みながら悪態をつくが、これでおしまいだ。あとは鎌を引くだけで——


「……それでも!」


 と、鎌を持っている手に力を入れたところで、嫌な予感がしてその場を離れた。

 離れる際についでとばかりに男の首を巻き込んで鎌を引いたのだが、防がれてしまった。

 防がれたと言っても剣でではなく、純粋な肉体性能で。多分身体強化でも重ねがけしたんじゃないか? 多少は切れているし血も出ているけど、首を落とすまでは行かなかった。


「俺たちは負けらんねえんだよ!」


 そう言った男の手には、先ほど弾いたものとは別に、赤黒いオーラのようなものがまとわりついている剣が存在している。

 多分、あれは《魔剣》のスキルで、あの赤黒いオーラがあいつの魔剣の特殊能力なんだろうな。

 親父のとは違う効果はずだからあれにどんな能力があるのかはわからないが、まあ食らわないほうがいいってのは間違いないだろうな。


「そうか」

「死ねえっ!」

「……でも、気概と実力が一致してなければ、どんな崇高な願いも意味はないな」


 男の魔剣は確かに脅威だ。俺だって触れれば何かまずいことが起こるだろう。


 でも、それは俺を切ることができれば、の話だ。そもそも切ることができていない現状ではなんの脅威もない。

 俺を切りたいんだったら、せめて親父の十分の一くらいの能力を発揮できるようにしろ。


 男が振り下ろした剣は、俺が掲げた鎌にぶつかる——ことはなく、剣を受け止める直前で鎌はフッと幻だったかのように消え、男の剣は予測していたタイミングを外されたせいで勢いを失った。


 鎌が消えたことで驚いている男の隙をつき、俺は再び鎌を生成し、そのまま男の背後へと駆け抜けた。


「ぃぎ、がああああっ!」

「腕一本か……よく避けたなとは思うけど、ここでそんな必死な意地を見せることができるんだったら、普段からやっとけよ」


 直前で俺の動きに気がついたようで、男は咄嗟に体を捩って鎌から避けたが、首は守ることはできても魔剣を持っていた腕は肘のあたりから切り落とされてしまった。


「はあ、はあ……なんなんだよクソッタレがっ。こうなったら、仕方ねえ。ながばっ——」


 男が何かをしようと懐に手を入れたところで、その首にナイフが突き立った。


 直前までなんの気配もなかったというのに突然ナイフが現れたように見え、俺は訝しげに眉を顰めたが、すぐにそれをやった人物が姿を見せたことで警戒を解いた。


「ベル」

「はい。ただいま戻りました!」


 男にナイフを突き立てた犯人は、仲間達に伝令に行ったままになっていたベルだった。


 ベルは軽やかな動作で男から離れて俺のもとへと戻ってきた。


「ぐ、っおがああああ!」


 だが、普通なら死んでいそうなものだが、それでも高位階故の生命力があるからだろう。男は苦しそうにしながらも懐に伸ばした手を引き抜いた。

 その手には何か粒のようなものが握られていて……


「薬? ……させない」


 それがなんなのかは分からないが、それでもこの状況で取り出したのだから俺たちにとっては邪魔なものには違いないはずだ。

 そう考えたのはベルも同じだったようで、ベルは男に向かって再び接近しようと足に力を込めた。

 だが、ベルが男を止めるよりも男が粒を飲む方が早く、ベルが再びナイフを突き立てたときにはすでにその粒のような何かを飲み込んだあとだった。


「……申し訳ありません」


 男の行動を許してしまったベルは、俺のもとへと戻ってきて警戒しながら謝罪を口にした。

 それは男を確実に殺したことを確認しなかったことへの謝罪だろうが、それを言ったら俺も同じだ。

 普通ならあれで死んでいるはずだが、高位階の生命力を甘くみすぎていた。


「いや、あれで殺したと思った俺も悪い。それより、あれはなんだと思う? 飲んだってことは、多分薬かなんかだと思うんだけど……」

「はい。私もそう思います」


 俺の考えに同意するようにベルが頷く。やっぱり、状況的に考えるとなんらかの薬だと考えられるよな。

 問題はその効果だけど、回復か強化か……あるいは、定番だと変異だよな。死にかけるまで使わなかったってことは、できることなら使いたくないような薬だろうし、多分真っ当なものではないと思う。


「とりあえず——《播種》」


 こうしておけば、こいつがいつ動き出したところでなんとかなるはずだ。

 いざとなれば、《生長》させれば最低でも動きを止めることはできる。


 このまま《生長》させたり《焼却》したりで駆除してもいいんだけど、できることなら割と安全の確保できている今のうちに効果を知っておきたい。


「飲んでから一分ってところか」

「気持ち悪い……」


 そうして様子を見ていると、まあ予想通りというかなんというか。男の体はぼこぼこと膨れ上がって、異形へと変異した。

 その姿はなんと言うべきか……人型の肉の塊、とでも言おうか。蠢く肉を人の体に貼り付けて、そこに触手を取り付けたような見た目、といえばわかるか? なんともキモい見た目をしている。


「まあ、どうなるかはわかったし、何かされる前に——《生長》《収穫》」


 あらかじめ植えていた種を生長させ、それで全身を覆ったところで小さな鎌を生み出し、それを虚空に向かって振るう。


 すると、男だった異形の首に一筋の線が入り、そこから赤黒い血が流れ出した。

 だがそれだけだ。傷はできたし血も流れたが、首は落ちていない。


 俺が今使ったこの《収穫》のスキルによる首狩りは、純粋な斬撃ではない。スキルによって採取箇所に『切断という現象』を引き起こすと言ったほうが正確だ。そのため、普通の人間なら身体強化をしたところで首を落とすことができる。

 これが第十位階並みの身体性能をしてたり、そこにさらに強化を施していたりすると話は変わるんだが、あの男は第十位階ではなかったはずだ。精々が第八。予想では第六か七程度が精々じゃないかと思っている。

 そんな男が、変異しているとはいえ俺の《収穫》による攻撃を防いだというのは驚きだった。


 そして、その驚きと同じくらい、不満だった。


 だってそうだろ。俺が必死になって頑張って覚えたスキルだってのに、なんだか訳のわからない現象のせいで格下でも防げるようになったのだ。それが不満でないわけがない。


 そんな不満を刈り取るように、俺は鎌を何度も振るう。

 三回ほど鎌を振ったところで、男だった異形の頭は切断され、ベチャっと音を立てて地面に落ちた。

 首と切り離された体は突然動きを止めたかと思うと、バタリと倒れてそのまま動かなかった。


 だが、首は体とは少し違い、切り離されてもまだ生きていた。

 切り離された頭は、ついていた触手を振り回し、暴れ回った後にぴたりと動きを止めた。

 どうやら体と頭では、頭の方に力があるようだ。だから死ぬまでの時間が違うのだろう。


「最後はあっけないもんだな。でも、首を落とすまで結構耐えたな。場合によっては他の奴らじゃちょっときついか?」


 気持ち悪い見た目をしているが、俺が戦うのであれば殺すだけならどうとでもなると思う。

 だが、他の奴らは少し怪しい。少なくともカラカスの奴らならそう簡単に負けることはないだろうが、突然百体くらいが奇襲を仕掛けてきたとかになると、今連れている三百人程度では対応しきれない可能性が出てくる。


 だが、今こうしてこんな奴らの存在を知ることができたんだから、後で話をまとめておけば突然襲われても対処できるだろう。

 脅威ではあるが、今気にすることでもない。


「一応確認しておくか——《肥料生成》」


 体が硬いのは分かったが、ならこっちはどうだと思って慎重に近づき、死体に触れるとスキルを発動させた。

 すると、先ほど《収穫》を防いだとは思えないほど呆気なく形を失っていった。

 どうやら、直接触れば簡単に倒すことができるようだな。問題は触るまで近寄らないといけないってことだけど、まあどうにかなるだろ。


「他はもう片付いて……いないみたいだな」

「え? ……あ」


 そろそろ俺たち以外の戦いも終わったかと思っていたのだが、そんな俺の予想に反して戦いはまだ続いていた。

 普通の人間で襲ってきているものはすでにほぼ片付いているが、どうやらこいつ以外にも変異した者がいたようだ。しかも、その数はそれなりに多い。

 百とまではいかないが、それでも二十程度はいるように思える。

 その程度の数、普段ならどうとでもなるんだろうが、あいにくとここは狭い道で連携が取りづらく、戦うにしても取れる行動が限られている。加えて、崖上からの攻撃は地味にまだ続いている。それらが影響したせいで、全力で戦うことができないのだろう。


「他の奴らもなんかおかしな薬を持ってるのか。……お、来たな。見てただけの護衛役」


 周囲の状況を観察していると、他の敵を相手取って俺に近づけないようにしていカイルがこちらにやってきた。


「それを言うなよ。俺だって戦いはしてたんだぞ。それにお前、手を出すまでもないくらい遊んでたじゃねえか」

「なに言ってんだよ。戦場で遊ぶような真似をするわけないだろ」

「目を合わせて真剣に言えば信じてもらえると思うなよ?」


 おかしい。俺は本当のことを言ったのに。……まあ、久しぶりの『戦闘』だってことで楽しかったのは否定しないけど。


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