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異世界最強の農家様 〜俺は『農家』であって魔王じゃねえ!〜  作者: 農民ヤズー


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勇者:治安維持部隊?

 

「っ!」


 立ち止まって考え事をしていたのがいけないんだろう。前からきた誰かにぶつかってしまった。見ると子供のようだ。


 ごめん。そう言おうと思ったけど、その子供は何も言わずに俺のことを無視してさっさと離れていってしまった。


 ……まあ、ここはこういう街だし挨拶とかなくても普通か。


 そう思ってから俺は歩き出そうとしたのだが、そこで俺の体に異変が起こったのを理解した。

 異変、というと少し大袈裟かもしれないけど、懐に感じていた重さが少しだけ軽くなった気がしたのだ。


 慌てて周囲を確認すると、俺から離れるように逃げ出しているさっきの子供がいて、その手には見覚えのある袋が握られていた。

 慌てて自分の懐を確認するけど、そこにあったはずのもの——財布がなくなっていた。よく見ると服の一部も切られているので、落としたんじゃなくて盗まれたんだとわかる。


 それを理解した俺はすぐさま走りだし、逃げていく子供の跡を追いかける。


 人混み、というほどでもないけど、人を避けながら進んでいく必要があるので全力で走ることはできない。

 それでも『勇者』として第十位階の力を持っている俺の足があれば、簡単に追いつくことができた。


「っ!? くそっ——!」


 何かを感じたんだろう。財布を盗んだ子供は後ろを振り返り、俺のことを見ると思ったよりも近くにいたからか、目を見開いて悪態をついた。

 そして、腰についていた何かを手にすると、それを投げてきた。

 どうやらそれは網だったようで、こちらにくる途中で俺を包み込むように広がった。だが、それに引っかかることもなく避け、さらに追いかけていく。


 俺がまだ追ってきていることに気づいた子供は、最終的にはこちらに向かって盗んだはずの財布を投げてきたが、俺はそれをキャッチしてそのまま子供を追いかけ、組み伏せた。


「がっ——! くそっ、はなせっ!」


 子供——多分少年は押さえられたことで暴れるけど、その程度では抜け出すことはできない。


 なんて思っていたんだが、少年が組み伏せられたまま俺の方を振り返ると、口からブッと何かを吐き出してきた。咄嗟に片手を離して顔を庇うけど……これは土か?

 おそらくは暴れている最中に地面を齧ってそれを吐き出してきたんだと思うけど、そこまでやるのか。


 俺が片手を離したことで抜け出そうとしたけど、流石に片手だけとはいえまだ子供と言える年齢の者に負けるわけがない。再び両手で掴んで組み伏せ直した。


 でも、どうしようか? ここで捕まえたとしても、どうすればいいんだ? 普通の街なら警邏の兵士に引き渡せばいいんだけど、この街じゃそうはいかないだろう。何せ、治安を守るための組織なんて存在しないはずだから。


「何事だ!」


 だが、どうしようかなんて考えていた俺のところに、鎧を着て武装した兵士……のような人物がやってきた。

 兵士〝のような〟人物なのは、この街に兵士がいるとは思えなかったからだ。

 でも、見た目と行動はそれっぽし、実は兵士もちゃんといるんだろうか?


「スリに遭遇したので捕まえたのですが、あなたは?」

「スリか。失礼した。俺はこの街の治安維持部隊第三部隊のアレックスだ」


 とりあえず丁寧に事情の説明をしてみたのだが、どうやら本当に兵士だったようだ。


「治安維持? そういったものはいないと思っていたんですが……」

「ああ、まあ外から来た人らはそう思うだろうな。だが、実際にはそうじゃない。他所の街の騎士団みたいにしっかりしたもんがあるわけじゃないが、街の安全を管理する組織があるんだ。でないと、こんな場所で『お客様用』の安全な街なんて作れるわけないだろ?」


 アレックスと名乗った兵士は軽く笑うように言ったけど、それは確かにそうだ。言われてみれば、兵士がいなければ『安全な街』なんて作れるわけがない。


「まあそんなわけで、外から来た『お客様』に手を出すようなら捕まえることになってるんだ。後は俺に任せてくれ。罪人の捕縛報酬は、門のすぐそばにある傭兵ギルドに行ってこの札を出せばもらえる」

「捕縛報酬ですか? それに、傭兵ギルドなんてあるんですね」

「ああ。俺達みたいな治安維持組織があるっていっても、犯罪者はそれを上回る数がいる。市民の協力もなければ全員を捕まえて安全な街を、だなんてとてもじゃないが無理だ。だから、報酬を出して市民に捕まえさせるんだ。傭兵ギルドは、普通に仕事があるからだな。こんな場所だが、力自慢は多い。それに、後ろ暗いことを頼むにもそういう場所が必要になる」

「……なるほど」


 後ろ暗いこと。それはつまり、盗みや殺人なんかの依頼ということだろう。

 それを認めることはできないけど、頼む人がいるというのも事実で、俺にはそれをどうにかすることはできない。


 ここが聖国ならそんな場所はすぐに取り締まるように掛け合って、潰しに行くんだけど、ここではそれができない。


「まあ、これを持っていって昼飯代くらいにはなる。ここの物価は高いから、昼飯一回分で消えるだろうけどな。まあ、ちょっとした小遣いだと思ってくれ」

「わかりました。ありがとうございます」

「いや、むしろ礼を言うのはこっちだ。こいつを捕まえてくれたんだからな」


 そうしてアレックスが差し出した木の板を受け取って、俺はスリの少年を引き渡した。


「犯罪者の街なのに、治安維持部隊か……」


 去っていった二人を見送った後、手元にある木の板へと目を落とす。

 街中で犯罪者を捕まえれば報酬があるんだったら、確かに犯罪はやりづらくなるだろう。だって、見つかれば周囲の全てが敵になるんだから。

 ただ、普通の街でそんなことをやったらそれは危険だろうな、とも思う。相手は武器を持った、攻撃をしてくる犯罪者なんだ。そんな人物を相手に止めようと思ったら、逆に返り討ちにあって死んでしまうかもしれない。

 ここでは全てが自己責任。誰かが死んだとしても、それは当たり前のこととして大きな騒ぎにはならないからこそできることなんだろう。


「にいちゃんやられたなぁ」


 特にこの後は予定もないし、受け取った木札を交換しに行こうかと思ったところで、すぐ近くにあった露天の男から声が聞こえてきた。


「……やられたって、何がですか?」


 独り言かもしれないし、そうでなくても笑いながら発せられた言葉はあまり愉快なものではない。だから無視してもよかったんだが、つい気になって問い返した。


「くくっ、やっぱしなんもわかってねえか。まあ、そりゃそうだろうな」

「だから、何がなんですか?」

「教えて欲しいか? なら、出すもんがあるんじゃねえか?」

「金か……」


 親指と人差し指で輪っかを作っていやらしく笑う男。

 その態度に丁寧に接する必要はないなと感じ、俺は眉を顰め、自然と乱暴な言葉遣いになっていた。


「そうだ。といっても、『お客様』から巻き上げたとなっちゃあ俺も捕縛対象になっちまう。だから、うちの商品をなんか買ってってくれ。それならただの正当な取引だ。そのついでに世間話で何か話すくらいはしてやろうってこった。どうだ?」

「……高いな」


 男の言葉を受けて、並んでいる商品に目を向けるけど、そこにあるものは使用済みの武器や、品質の怪しい薬。本物かわからない芸術品といった微妙なものばかりだ。

 そんなものであるにもかかわらず、値段の方は結構……いや、かなり高かった。普通に売っていたらどう転んでも売れないだろうな、と誰でも理解できる値段だ。


 それでもこの値段で売っているのは、この男が元々まともに品を売るつもりはないからだろう。多分普段からこうして何か〝別のもの〟を売っているんだと思う。

 ……あ。そうか。これが情報屋というものなのかもしれないな。


「値段を決めるのはこっちの自由で、それを買うのも客の自由。法外な額だとしても、それでお互いが納得したんだったらそれは正式な取引ってもんだ。にいちゃんはこの額に納得できねえか? 知りたいことがあるんじゃねえのかねえ?」

「……なら、このナイフをくれ」


 売っている品物の中でも二番目に安く、使い道のあるナイフを買うことにしたんだけど……やっぱり高いな。

 ちなみに一番安いのはよくわからない布だった。よくわからない、とは言ったけど、見た目からして多分誰かの着ていた服だろう。ぼろぼろすぎて使えないし、ぼろぼろじゃなかったとしても使う気もないからナイフにした。


「おおっ! お目が高い。持ってきな」

「思ったよりも質がいいな」

「そいつぁその辺のガキがどっかの誰かをぶっ殺して奪ったナイフだ。誰かを殺すために使うんだったらおすすめだぜ。何せ、〝実績〟があるからな。おっと、返品はきかねえぜ」


 お金を払ってナイフを受け取った俺はその状態を確認していたんだが、その途中で男はナイフの説明をし、俺はその言葉を受けて動きを止め、バッと男へと顔を向けた。


 だが、そんな俺の反応を見ても男はニヤニヤと笑みを浮かべているだけ。

 ここで何かを言ったところで意味なんてないだろうし、今更何か他のものを買うから、と言ったところで他のものがまともである保証なんてない。情報を聞く以上は何か買わないといけないんだから、と自分を言い聞かせ、そのナイフから意識を外すことにした。


「……それで、さっきの〝やられた〟っていうのはどういう意味なんだ?」

「んお? ああ、そうだったな。ありゃあグルだってこった」

「グル?」

「そうさ。あのスリをしてミスったバカなガキと、その後に出てきた治安維持なんちゃらって名乗った男。あの二人は『お客様』相手にやらかしてる仲間ってことさ」

「あの二人が、仲間? じゃあ治安維持部隊は……?」


 それは、まさしく目を向くような情報だった。

 あの兵士が、スリとグルになって騙していた? それは俄には信じ難い情報だった。だって、離した限りではあのアレックスと名乗った兵士はとても普通そうな人物だったのだ。


 でも、思ってみれば怪しいと思える箇所はある。あの少年、俺が捕まえた時は暴れていたのに、兵士に渡されたら大人しくなった。それは諦めたのかと思ったけど、地面を齧ってまで逃げようとする者があんなに簡単に諦めるものだろうか、と。


「そんなもんはねえよ。いや、同じようなもんはあるし、『お客様』相手に殺しだ暴力だってのが起きたら動くが、あれは特殊でな。あんな雑魚がなれるようなもんじゃねえ。何せ、五帝の直属の部隊だからな」


 五帝、とはこの国がまだ国ではなくカラカスというただ一つの街だった頃に街を五分割して管理していた長達の呼び方だ。

 それぞれがそれぞれの方法で各地域を支配していたというけれど、各地域とは言っても、聞いた話では王様のような立場だったそうだ。王様というともっと領土とかあって広い範囲を収めているものに思えるけど、この場所の特殊性や力の規模や住まう者達の性質なんかを考えると、そういうものなんだろうと納得できなくもない。

 でも、その直属の部隊というと、近衛騎士のようなものだろうか? それは確かに難しいだろう。


「『お客様』相手だと度が過ぎるようなら捕まるだろうが、まああいつらも自分の分は弁えてるから、捕まることはねえだろうな」


 つまり、あの二人はこれからもスリを続けていくってことだろう。


 俺の場合はすぐに気づけたからいいけど、普通だったらあんな自然に盗られたら気づけないはずだ。気づかれたとしても、逃げ足の速さも普通の子供ではなかったし、捕まえることもできない。できたとしても、俺みたいに騙されて取り逃がすことになる。


 これがこの街での普通か……。


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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者君は、宗教の恐ろしさは授業で習っているはずですので、宗教国家で教えられたことを鵜吞みにせず、見てこなかった部分に目を向け、現実を見られるようになることを祈ります。 花園での経験は、目を覚…
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