期待はずれ
「……」
「だんまりか。まあでも、そうだろうな。俺だって、「俺が絶対に守る」とか「そんなことはさせない」なんて勢いだけで言われても困るところだ」
流石にそこまでは言わなかったが、言われていたら俺は今よりももっとこの勇者のことを失望していただろう。
「お前の言葉には内容がないんだよ。確かにお前の言葉からは意気込みや思いは伝わってくるさ。お前は、勇者なんだろうな。みんなが幸せに暮らすために最善と思える方法を考えて、それを行動に移す」
誰かのために。それ自体はいいことだと思う。それが本当に自分の思いとして出てきた言葉だったら、だけど。
「だが同時に、お前の言葉からは頭と覚悟の薄っぺらさも伝わってくる」
なんていうか『勇者らしい行動』をとっているけど、上っ面だけっていうか、勇者だからそうしなければならないとか、勇者なんだからそうするべきなんだって考えが感じ取れる。
なんでそんなことがわかるのかって? そんなの、俺も同じだからだよ。
俺は魔王だ。だが、本来は魔王なんてなるような、王として呼ばれるような器じゃない。生まれ変わったが元々は凡人。そこらへんにいるような小物だ。そんな根本的なところは生まれ変わっても変わるものじゃない。
それでもみんなが期待するから、みんなが俺を王と呼ぶからそう振舞うだけだ。
こいつからは、似たような感じを受ける。
勇者だから勇者として振る舞わなければならない。そう考えて行動しているような気がしてならない。
まあ、それをこいつ自身が理解してるかは微妙だけど。
ただ、この世界で暮らしてきた年月か、それとも環境か。こいつの場合は俺よりも〝酷い〟。
「お、お前が動くだけで何人もの人が救えるんだぞ! お前はみんなが苦しんでいるのを無視できるっていうのか!?」
「できる。魔王なんて名乗る奴が、他国の人間なんて気にすると思うか? いや、魔王でなくても他国で暮らしてるその他大勢の人間なんて見て見ぬふりをするだろうよ。言葉の上では心配するし、外交上では支援もするだろう。でも、結局は他人事だ。本気で、心の底から助けようなんて思う奴はいない。それが世の中ってもんで、人間って存在だ」
自分たちが笑うために、他人の苦痛を許容する。あるいは、強要する。人間なんてそんなもんだ。
自分たちが幸せになるためだったら、隣で誰かが泣いていても無視して、誰かの幸福を踏み躙って、その誰かの不幸を笑っていることができるのが人間ってものだ。
一番大事なのは自分で、守るべきは自分と仲間達だけ。こいつはそれをわかっていない。
「それに、これはさっきも言った話だが……百歩譲って他人を救うのはいいとしても、俺の安全が保障されてないんだぞ? そんな状況で救いに行きたいと思うと思うか? もし仮に俺が聖国の誰かを救ったとしても、その後救った奴が俺たちを襲わないとも限らない」
勇者達の説得によって、俺たちは無事に聖国に入ることができたとしよう。上層部も国民も俺たちのことを攻撃せず、俺たちは見事異変を解決することができた!
——でも、それで終わりになると思うか?
異変がなくなったね。よかったね。ありがとう、バイバイ。……なんて終わるわけがない。
聖国としては、魔王に助けられた、なんてのは恥以外の何ものでもないだろう。
だから、そんな恥を消すために俺を殺しにかかる可能性は十分に考えられる。
聖国からかけられる「バイバイ」の意味が別物に変わるぞ。
「で? 他に何か言い分はあるか? そっちの聖女様に騎士様、それから魔女さんはどうだ? 何か言いたいことがあるなら聞くぞ。その勇者の言葉は期待外れだったし、暇潰しに聞くくらいはしてやる」
ある意味では期待以上だったが、俺の評価としては期待外れだった。じゃあどんなのを期待していたんだって言われるとわからないんだけど、とにかくこいつは『ハズレ』だ。
まあ、これが清く正しい『勇者様』の言葉だと思えば、すごく〝らしい〟言葉だから、その点に関しては期待通りといえないこともないが。
「待て、まだ俺の話は終わってない!」
「あ? ……はあ。もういいよ、お前。ある意味想像通りといえばそうなんだが、期待外れだ。『勇者様』。もうお前は話の邪魔なんで引っ込んでてくれ」
俺が追い払うかのように手を振りながら言ったのだが……
「ふ、ふざけるな! 邪魔かどうかは俺が決めることだ!」
「いや、ここ俺の国だし。もっといえば俺の家だし。ついでに言えば俺は王でお前は『正式な』とは言いづらい客人だ。場所的にも立場的にも、邪魔かどうかを決めるのは俺じゃね?」
確かにこの場所に入る許可を出したのは俺だけど、本来は正式な使者でもなく招待状も持たない敵対国の幹部が、事前に話を通すこともなく「王に会わせろ」なんてやってきたんだったらとっても不敬な話じゃないか?
その上、会ってやったら会ってやったで武器を抜かれそうになるし、暴言吐かれるし、舐めた交渉を持ちかけるし、自分の意見が通らないと喚き始めるし……普通に罪人として扱ってもいいレベルじゃないか?
殺したら面倒になるから殺さないけど、捕まえるくらいはありだと思う。
「ナーナー」
「ん?」
フローラ? なんで今?
どうしようかな、と勇者の対応について悩んでいると、突然フローラが姿を見せた。
姿を見せたと言っても、精霊状態なので、この場には俺しか見える人がいな——あ、いたわ。
あの魔女、こっちを見て目を見開いているし、確実にフローラのこと見えてるな。
でも、考えてみれば当たり前か。何せあの魔女は『双魔』なんて名前を与えられてるわけだし、二つとも魔法師の職を持っているんだから、《意思疎通(精霊)》のパッシブスキルを持っていてもおかしくない。
「フローラ、あっちに行きたい」
——あっちってのは聖国の方か?
直接声に出すわけにはいかないので、頭の中でフローラに問いかける。
「そうー。あっちのみんなが気になるのー」
こいつの言ってる『みんな』ってのは、人間のことじゃなくて植物のことだろうな。もっと考えるなら、向こうにある聖樹のことじゃないだろうか?
まあ、俺達は向こうにある聖樹が切れているってことを知ってるし、今回の異変もそれが原因だと思っているからな。聖樹であるフローラとしては、聖樹とそれにまつわる出来事については気になるものか。
しかし、どうしたものかな。フローラのお願いを断るわけにはいかないんだけど、だからって俺が行ってもいいものか……。
一度は直接出向いてもいいかも知れなとは思ってたけど、それは密入国するつもりだった。
だが今回の話を受けて勇者と一緒に行くとなると、好き勝手には動けないだろうし、面倒がついてくるんだが……。
でも……うーん。フローラにも言われたことだし、この勇者達を放っておいたら問題を起こす可能性がある。それこそ襲撃を仕掛けてくるかも知れない。俺を倒して連れて行く、みたいな。あるいはエルフ達を攫うかも知れない。
だったら俺が今のうちにこいつらと一緒に聖国に行ってしまったほうがいいような気もする。
「——おい勇者。今は帰れ。その話はすぐに決められるものじゃないし、三日後にまた話を聞いてやる」
ただ、それを俺一人で決めてもいいのか、とは思うのでひとまずはこの場は保留にして、みんなで話し合って決めることにしよう。
「本当か!?」
「ああ」
「よかった」
完全に切られたわけじゃないからだろう。勇者はほっとした様子を見せている。
けど……こいつ、ありがとうの一言もないんだな。
別に感謝をして欲しいわけでもないんだが、やっぱりこいつは本当の意味での『勇者』ではないな、と改めて感じた。
「まあ、三日後になるまでは町の観光でもしてろ。……ああ。ただし、くれぐれも問題を起こすなよ? 勇者様」
俺の言葉を聞いた勇者は、僅かに眉を顰めると、そのまま去っていった。




