089.遊園地デート~後編~
「楽しかったね~!紗也ちゃん!」
「うん!もう一回乗りたい!!」
ジェットコースターがスタート地点まで戻りスタッフの人が順々にレバーを外していってる中、前方からそんな声が聞こえる。
紗也も優愛さんもおかわりを希望か、他の面々が平気なようならもう一周するのもありだろう。
「優衣佳さん、大丈夫?」
「………えぇ、慎也くんのおかげでなんとか耐えられたわ。ありがとう」
俺の手をそっと膝の上に戻してくれる優衣佳さん。立ち上がってからもその足取りに難が無いことを見るによほど大事なことにはなっていなくてホッとする。顔は若干青いけど。
「お役に立ったようで何よりだよ。ところで優愛さんがもう一周したいって言ってるけど……」
「無理ね。私はベンチで休ませてもらうわ」
「やっぱり」
聞く前からその青い顔を見て予想はついていた。二周目、俺たちは休ませてもらおう。
「でも惜しいわね」
「ん?」
俺も機体から降りると同時に彼女は話を続ける。
「私が慎也君の膝の上に乗ることができれば2周どころか100周だって余裕なのに」
「そんなことしたら俺の三半規管が大変なことになるね」
視界が遮られるから。
そんな俺の言葉に「冗談よ」と返し優愛さんに続いて階段を下っていく。さて、俺もみんなと合流しないと。
「慎さ~ん!まってくださ~い!」
「雫?どうした………わっ!」
俺が階段まで差し掛かったその時、雫に呼び止められて振り向くと胸元に何かがぶつかった。
「翔子さん!?」
「不覚………目が回った……」
翔子さんの足元を見るとフラフラでおぼつかない。
危なかった……俺が受け止めてなかったら階段で落ちていたかもしれない。
「会長さん!もうちょっとで階段だったんだから気をつけてくださいよ~!」
「それくらい……わかってた……慎也くんが居たから安心して飛び込んだだけ」
そう言ってくれるのは大変嬉しいが危険なことは避けてほしい。俺は受け止めた彼女の手を取りながら背を向けて目の前でしゃがんで見せた。
「ほら、そのままじゃ階段怖いから乗ってくれる?」
「ありがとう 助かる」
俺の呼びかけに素直に従って背中に乗ってくれる翔子さん。今度こそ階段を降りようとした時雫が追いついて俺の後ろへ付く。
「ロッカーの荷物も忘れてるじゃないですか~。会長さんにこんな弱点があったとは驚きです」
「初めてで慣れてなかっただけ。 次があれば対応してみせる」
「そういえば、優愛さんがもう一回希望してたよ?」
俺がふと思い出したことを口にすると肩を掴んでいる手が強く握られる。
「それは……そう。慎也くんの膝の上に乗れれば、余裕」
「優衣佳さんも全く同じこと言ってたよそれ……」
2人の思考回路はほぼ一致しているようだ。俺が目を回すから勘弁してほしい。
「あっ!帰ってきた! 翔子ちゃんどうしたの~!?」
階段を降りてみんなの姿を探していると優愛さんが駆け寄ってきた。俺に背負われた翔子さんを心配したのだろう。真っ先に彼女の体調を伺う。
「目が回っただけ。 すぐ治る」
「そっかぁ……よかったぁ……じゃあ次は簡単なものにしよっか!」
優愛さんはみんなの元へ先導しながら軽快に歩いてゆく。あれ、また乗りたいって言ってなかったけ?
「優愛さん、二回目はいいの?」
「だってみんなで楽しめないなら乗っても楽しめないもん! それにお姉ちゃんも、ほら…」
そう言って苦笑いしながら指さした方向に目をやるとベンチで飲み物片手に膝と肘をくっつけて猫背になってる優衣佳さんの姿が………結構頑張ってたものね。
「優衣佳さん、お疲れ」
「…慎也君……あぁ、翔子さんもなのね……座ったらどっと疲れが出てきたわ……恐るべし、ジェットコースターね」
彼女の隣に翔子さんも座らせてグロッキー2人の休息だ。さて、俺は2人の為に飲み物でも………
「ねぇ、二人とも」
「……なにかしら?」
「俺、2人の飲み物買いに行こうと思ってるんだけど」
俺が飲み物を求めて自販機に足を運ぼうとした所2人の手が俺の両腕を掴んで移動することができない。
「ダメ。慎也くんはここに居て。じゃないと悪化する」
どういうことなの……
「慎也くんは、こっち」
「ほら、座って?」
「……了解」
2人に促され譲ってくれた間に俺が座るとその両肩に軽く体重がかかる。
「ふぅ……これで回復出来る」
「そうね。 これならすぐ復帰出来るわ」
2人の体調が良くなるならそれでいいけど……
そのまま諦めて背もたれに体重を掛けると俺の膝にも体重がかかってきた。
「私のこともかまって!お兄ちゃん!!」
「紗也………」
膝に勢いよく座って来たのは紗也だった。ずっと優愛さんに任せきりだったからか少しお怒りのご様子。
愛する妹の為なら俺も少しくらい無理を押すものだ。両肩の2人に気を使いながらゆっくり腕を動かし紗也の腹部に手を回して軽く抱きしめる。
「慎さん!次は私にも―――むぐぅ!」
「雫ちゃん、私達は隣のベンチに座ろっか」
両肩と膝上に人がいるなか飛び込もうとした雫を止めたのは優愛さんだった。ナイス優愛さん!
これ以上増えたら収集がつかなくなってしまう。
俺は2人の体調が戻り満足するまでその体勢のままじっとし続けた。
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太陽が天辺を超え、傾き続いて時刻は夕方もいいところ。
あれから俺たちはゴーカートにコーヒーカップ、空中ブランコなど多種多様なアトラクションで遊びきった。
ジェットコースターでダウンした2人も含めた全員でフリーフォールに挑戦して、今度は慣れたのか二人とも平気な顔で降りたのには心底驚いたが………
そうしていい時間になると全員の意見が一致し最後のアトラクションとして観覧車に乗り込んだ。
「紗也、日本での夏休みは楽しかった?」
「うん!楽しくて楽しくて………もっと居たいくらい……」
また海外へ向かう日が迫っている紗也が悲しそうな顔をする。向こうでは大変だったもんな……
「ねぇ紗也ちゃん、年越しはもちろんこっちで来るんだよね?」
「え、わかんない……私よりお母さん次第だから……」
優愛さんの質問に迷う紗也。その言葉を聞いて優愛さんは俺に向き直る。
「慎也くん」
「うん。紗也、俺からも頼んでみるよ。冬休みもこっちに戻ってくるように」
無理を通すのは兄である俺の役目だ。それにもしダメだったなら今度は俺たちが向こうに行くという手段もある。
「ほんと!?お兄ちゃん!」
「もちろん」
沈んでいた紗也の目が輝きを取り戻す。アシストしてくれた優愛さんに感謝だ。
「あと母さんから聞いたけど、あんまり長くはそっちいないみたいだよ。数年で日本に戻るって聞いた」
「え!?」
俺の言葉に紗也が目を見開く。
やっぱり話してなかったか……相変わらず適当な母なんだから。
「慎也君、それ本当かしら?」
「え?うん。よっぽどな異常が起きない限りはそうみたいだけど……」
「そう……。 ならご両親にご挨拶もあまり遠くない未来みたいね……」
「………」
何やら優衣佳さんが不穏な言葉を発し始めたので聞かなかったことにしよう。
「だから、紗也も頑張って。 友達も作るんだよ?」
「うん……頑張る……。 お兄ちゃんも、あんまりお姉ちゃんたちと遊んで成績落ちてこっち来ないようにね!」
「も、もちろん!」
目下一番の不安材料を的確に言い当てられた。一応宿題は終わってるし彼女らと予習だってしてる。成績が落ちるなんて悪夢は無いと信じたい。
「なら……みなさん」
「「「はい!」」」
紗也の言葉に全員が返事をする。
「兄のこと、よろしくおねがいします。家事も適当で人に甘い兄ですが、それでも支えてくれるのなら嬉しいです」
「えぇ、任せて頂戴」
「私のほうが支えられてるかもだけど、頑張るよ!」
「もちろん。 ちゃんと支えてみせる」
「慎さんのことはこの永久マネージャーにまかせてください!」
紗也が頭を下げたのを見て4人はそれぞれ承諾の言葉を言ってくれる。
それを見て微笑んだ紗也は俺に近づいてコッソリ耳打ちした。
「私は4人の誰がお義姉ちゃんになっても認めるからね」
今度は俺の目が見開いて紗也に詳しく問い詰めようとしたものの、すぐ距離を取った紗也は女性陣の輪の中に入っていく。
やっぱり、たとえ妹とはいえ女の子にはかなわないなと――― 窓に差し込む夕日に向かって小さくこぼした。




