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真っ白だったこの家が、彩りにあふれる頃には  作者: 春野 安芸
第3章

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088.遊園地デート~前編~


 左、右、前、後ろ。至る箇所を見渡しても人、人、人、人で溢れている。

 そして前方…人の群れの向こう側にはゲートがあり、更に奥には大小様々なアトラクションが待ち構えていた。


「それにしても人多いですねぇ」

「夏休みだから当然よ。それより雫さん、そろそろ学校始まるけれど宿題はやったのかしら?」


 俺の横にいる優衣佳さんが訝しげに後ろの雫に目をやる。当の雫はその目を一切見ようとせずまっすぐ進行方向を向いていた。

 ………これは終わってないな。


「い……いやぁ、それにしても紗也ちゃんが向こう行く前に遊園地に行けるなんて、あのカップルには感謝しないとですね!」


 雫……その誤魔化しは露骨だと思うよ。

 けれど雫の言うとおりだ。9月には紗也も学校が始まるから向こうに戻らなければならない、その前に以前智也に貰ったチケットを使えることが出来たのは僥倖だった。

 きっと確保してくれたのは兼島さんだろうがついでに智也にも感謝の念を送っておく。


「ところで紗也、暑くない?飲み物はいる?」

「もうお兄ちゃん、さっきも聞いたよそれぇ。 優愛お姉ちゃんのおかげで平気だから心配しないで」


 俺が紗也の身を案じたが一蹴された。隣にいる優愛さんの手には折りたたみ日傘が。

 真夏の晴れた日、炎天下の中並ぶことは容易に想像出来たのにその対策を忘れたのは失策だった。

 けれどさすがは優衣佳さん。そこもしっかり対策をしていたようで彼女は俺を、優愛さんは紗也の日傘スペースを貸してくれている。

 ちなみに雫も持ってこなかったようで翔子さんが持ってきた日傘の下で小さくなっていた。


「雫……胸邪魔……」

「なんですか会長さん!私の真っ白で美しいお肌が傷ついちゃうじゃないですか!」

「………その真っ白で美しい脂肪、太陽の熱で溶けたりしない?」

「流石に溶けませんって…邪魔なら私が会長さんを後ろから抱きしめれば解決ですね!」

「……暑い……」


 何やら後ろでは同級生と後輩がイチャコラしているようだ。

 羨ま………いや、非常に楽しそう。


「慎也君、どうし……あぁ、羨ましいの?」

「い、いや……そんな事は……」


 俺がずっと後ろの2人を見入ってたからだろう。優衣佳さんが一瞬不思議そうな顔を浮かべるもすぐ把握される。


「ふふっ………仕方ないわねぇ。ちょっと傘持っててくれる?」

「えっ、いや、俺は何も……」


 優衣佳さんは俺に日傘を押し付け後ろにまわる。そして手を大きく広げ後ろから思い切り抱きつく。その際彼女の大きなものが俺の背中で形を変え、感触がダイレクトに感じ取れる。

 あぁ……これは……



「どうかしら、慎也君?ちょっと恥ずかしいのだけれど……」

「うん………有り難いけど、徹頭徹尾凄く暑い」

「なぁっ!?」


 翔子さんの言うとおりだった。確かに柔らかいとかいい匂いとか色々な発見もあったが、1から10まで暑いという思いで塗りつぶされた。

 俺の言葉に数歩後ずさりをした優衣佳さんはコホンと咳払いをして持っていた傘を奪い取る。


「さ、そろそろ開園の時間。楽しみね」

「う……うん……」


 なかったことにする気だ。俺が原因だから水を差すわけにもいかず彼女の笑みに苦笑いでなんとか返すことにした。



『時間になりましたので これより 開園いたします。 皆様 当パークにお越しくださって ありがとうございます」



 突如スピーカーが鳴り響いて一斉に周りの人々のざわめきが大きくなる。

 列の先頭の方はそれと同時にゲートの奥へと進んでいる。俺たちも移動する準備をしなければ。チラリと後ろを見ると翔子さんと雫もイチャイチャするのを切り上げて移動準備を完了していた。


「紗也、優愛さんの手を握って迷子にならないようにね」

「も~! 祭りの日に1人迷子になったお兄ちゃんが言うことじゃないよそれ!」

「うっ!!」


 紗也に釘を刺そうとしたら痛いところを突かれた。そのまま反抗期のごとく俺の顔を見向きもせず優愛さんに引っ付く紗也を見続けていると優衣佳さんに頭を撫でられた……恥ずかしい……


「私達も手をつなぐ?」

「冗談。今回は迷子になんてならないよ」

「冗談じゃないのに……」


 ならば撫で続けているその手は何なのだろう。俺が列の波に乗って歩くと優衣佳さんもその手を離して隣に添って歩き始める。

 そんな俺達を後ろから穴が空くほど見続けている人物が2人。


「会長さん、これが亭主関白ってやつですか?」

「それに優衣佳も隣で日傘を差し続けてる……まるで3歩下がって歩く女性の如く……ズルい」

「ですよね! 私なら3歩どころか5歩も下がって歩きますのに!!」


「雫、それだとほぼ他人になる……」

「わかってますよ~!そういう奥ゆかしさの気概ってやつです!!」


 何やらよくわからないことを話しているが知らないフリだ。

 隣に居る優衣佳さんは何度か俺の肩とぶつかりながらそのたびに笑みをこぼしていった。




 俺たち一行もゲートでチケットを提示し園内に入ると、眼前には様々なアトラクションが飛び込んできた。

 ジェットコースター、観覧車、フリーフォール等々……。遊園地の代表的なものはほぼほぼ揃っているだろう。一つ、サイトで確認した所お化け屋敷が無かったのは残念だが。


「さて、何乗る!? 紗也ちゃん、何がいい!?」


 歩きながら園内のスタッフの挨拶を受けるのもそこそこに、適当な場所で優愛さんが振り返ってきた。


「ジェットコースター!!」


 問いかけられた紗也は間髪入れずに返答する。そうだった……紗也はスリルのあるものが大好きなんだっけ。


「えっ……」

「へっ? 優衣佳お姉ちゃん……ダメ……?」

「そ、そんなことないわ。ジェットコースター行きましょ?」

「うん!」


 苦い顔をしたのは優衣佳さんだ。

 無理もない、高所恐怖症だったのだから一度も乗ったことないだろうし忌避感を覚えるのも当然だろう。


「優衣佳さん、本当に大丈夫なの?」

「え…えぇ……悪いけど、私の隣に居てもらっていいかしら…?」

「それくらい、いいけど…」

「ありがと、慎也君」


「それじゃあ紗也ちゃんの希望通り、ジェットコースターにレッツゴー!」


 優愛さんがノリノリでアトラクションへの道を進む。

 彼女に耳打ちするも覚悟は決まっているようだ。俺は若干震えているその手を握りしめて優愛さんらの後を追った。





「ところで翔子さんはこういう乗り物大丈夫?」


 ジェットコースター(試練の場)への列もそこそこ進み、あと数回で俺たちの番というところでふと後ろの翔子さんに問いかける。

 乗るグループは2人1組で入場時と同じだ。


「……わからない。遊園地が初めてだから、これも初」

「えっ!?そうなの!? それじゃあ高いところとか大丈夫?」


 まさかゲーセンに続いて遊園地も来たことなかったとは。


「それは平気。何かあったら雫の胸に隠れる」

「私に任せてください!……って、なんで慎さんは私に聞いてくれないんですかぁ!?」


 隣の雫が胸を張ると同時に抗議を示した。だって、ねぇ。


「雫ってなんとなくこういうの好きそうだし?」

「そりゃあ確かに好きですけど……。 慎さん、そんな態度だと私以外にモテない……いやこれ以上モテなくていいです!このままで居てください!」


 文句の表情を見せたと思ったら今度は慌てた顔をして百面相を見せる雫。俺はそんな2人の頭に手を乗せた。


「あんまり無理しないで、辛かったら言ってよね?」

「「はい……」」

「それでは次の回の方々は前へどうぞ~!」


 2人が安堵の表情を見せたと同時にスタッフの方の案内が始まる。

 タイミングが良かったようで優愛さんと紗也が先頭、その次が俺たち、そして3列目に翔子さんと雫が配置された。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


 レバーが下ろされる直前、前方に居た優愛さんが振り返る。


「もちろん。高所恐怖症も治ったしこれくらい余裕よ」

「……よかった」


 優衣佳さんは少し不安そうな表情を見せながらもなんとか笑顔を見せて安心させた。


「それに、隣に慎也君が居てくれるのだもの。怖がるものなど何もないわ」


 俺の肩に手を乗せてそう言ってくれる優衣佳さんに俺の顔も熱くなる。


「なら優衣佳先輩、ここには無いですがお化け屋敷も平気ですか?」

「それとこれとは話が別だわ」


 後ろから聞こえてくる雫の声を一刀両断する優衣佳さん。お化け屋敷はダメなのね………



『それでは 出発いたします よい旅を』


 準備が終わったようでアナウンスと共にガコン!と機体が揺れて前方へと動き出す。

 そのままレールの音に合わせてジェットコースターが進んでどんどんと最高度まで向かっていく。


 俺は紗也ほどではないがジェットコースターは好きな部類だ。これから来る感覚に心驚かせながらレバーを掴んでいるとふとそんな手を触れる感触がした。


「ごめんなさい……手を、握っていてもいいかしら……?」


 高所恐怖症を克服したと言ってもやっぱりまだこれは別物だろう。そんな手を俺は握り返して彼女の身体に寄せていく。


「いいよ。これで怖さが和らぐなら」

「ありがとう……えぇ、だいぶ楽になるわ……」


 それでもまだ恐怖は残るだろう。緊張した面持ちで落下までの時間を耐え、その時がやって来た。


 機体は最高度で一瞬停止し、唐突に傾いた。

 そして0からMAXに。一気に速度が跳ね上がると同時に身体が浮き上がる感覚に襲われた。

 この感覚が好きなんだ。俺は片手でレバーを掴んで3次元に動く機体に身を任せているとギュッと握られている感覚が強くなる。


「優衣佳さん……?」

「…………!!」


 ふと不安になった俺は彼女の名を呼ぶも周りの叫び声にかき消されてしまい本人に届いていない。顔を向けるとその目は見開いて口を一文字に結んでいた。

 相当集中して耐えているようだ。俺はその手を完全に預けて彼女の和らぎに貢献することにした。


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