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087.とある休日の男たち


「なぁ、今日はどうして俺のとこに来たんだ?」

「ん~? まぁ……最近遊んでなかったし、暇だから?」


 俺の隣にいる人物は木の棒を咥えながら俺と向かい合うこともせず話しかけられる。


「暇って……お前の彼女たちはどうしたんだよ?」

「だから彼女じゃ……まぁいいや。 みんな優衣佳さんに誘われて家の買い物だってさ」


 花火大会からの突発的なお泊りも無事終了して1週間ほどたった旧盆、俺は智也の家に行き2人でゲームをしている。


「買い物ぉ? それじゃあハブられたのか?お前」

「言い方。 俺は後々頼ることになるから今日はゆっくり休んでくれって言われたよ」


 いつもの面々は帰省することもなく、紗也も加えた5人でお買い物だそうだ。

 明日以降男手が必要になるからということで命じられたのは1日フリー。そこで最近まで遊ぶことがめっきりなくなった智也の出番というわけだ。


「ふ~ん……アイツは帰省してるから別にいいんだけどよ…………っし!俺の勝ち!」

「また負けかぁ………それにしても、暑くない?」


 俺たちがゲームしている場所は智也の家、ウチからバスで数十分移動した先にあるアパートの一室だ。

 そして外気は32度、本来ならばエアコンの力によって快適なゲームライフを送っているはずなのだが今日に限ってエアコンが故障したとのことで扇風機とアイスの力のみでなんとか暑さをしのいでいた。


「エアコンが壊れた日に限って訪ねてくるお前が悪い。それより、あのチケット使ったか?」

「あ、チケットありがとう。 まだ使ってないけど近いうちに行こうと思ってるよ」


 チケットは以前貰った遊園地のことだろう。夏休みももう終盤に近いし学校が始まる前に行かなきゃな…


「そうか、有効に使ってくれるなら俺としてはいいんだけどよ……それにしてもこうも暑いとゲームすらやる気が起きなくなってくるな」

「そうだね。 アレとかないの?アパートの庭でプール出して水風呂とか」


 前回の旅行で智也が嗜んでいたものだ。もしかしたらと思い聞いてみる。


「そんなのあるわけないし、あったところで男2人入れるだけのサイズは無いだろ。大人しくアイスで我慢してくれ」

「そっかぁ……残念」


 智也から新たに渡された棒付きアイスで気休め程度だが暑さを凌ぐ。

 こうも暑いと額どころか背中からも汗が吹き出ているのを感じ取れる。俺は自身の服でその汗を何度も拭った。


「しゃーない。ここまで暑いとなると、行くか」


 俺がゲームもする気力がなくなりコントローラーを投げたところで唐突に智也が立ち上がる。


「行くってどこに?」

「そりゃあ決まってるだろ?それは―――――」



 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――



「あぁ……ここね」

「そんなに呆れるほどか? 春休み以来だろ?」


 智也に連れられて来た場所は街中ショッピングモールにあるゲームセンターだった。

 確かにここならエアコンも常時効いているし時間つぶしという俺達のニーズに答えることもできる。


「智也とはたしかにそれくらいだけどみんなと来たことがあるから」

「はっ、出不精な俺と違ってお前は色々と連れ回されてるんだったな」


 今度は智也が呆れて手を胸元まで上げてから首を横に振る。 それなら外に出ればいいのに。


「智也も行けばいいのに。 兼島さんを連れてゲーセンとか」

「……2人だけの今だから言えるがお前、アイツの執念深さ知らないだろ?」

「執念深い?兼島さんが?」


 今まで接してきた感じその片鱗すら見せていないから想像もできない。


「俺の家でゲームしてても勝てるまで終わらない、手加減したら怒る。 そんなのでゲーセン来てみろ、対人はもちろんUFOキャッチャーまで際限なく金つぎ込むぞ」

「うっそぉ……」


 財力には自信のある兼島さんだからこそ出来る御業だろう。100円使うにも慎重になる俺たちとは違って今月の予算とか考えなくて済みそうだ。羨ましい。


「ってことで俺がゲーセンで思い切り遊べるのはお前だけってことだ」

「あんまり嬉しくないね、それ」

「気にすんな。さ、行くぞ」


 バッグから財布を取り出して店舗に入っていく智也。俺もその後を慌ててついていく。

 俺たちが遊ぶのは2人で対戦する系がほとんどだ。前述のUFOキャッチャーもしなくはないがあまり重きを置いていない。ちなみにプリクラは論外だ。


「おー。あんまり来なかったから筐体もそこそこ新しくなってるんだな」

「ホントだ。あんまりこっち来なかったから気づかなかったよ」


 ゲーセンの奥のほうには結構な数の対戦型ゲームの筐体が並んでいた。更に奥には筐体と言っていいかもわからないほどの大きさを誇る機械も置かれている。


「ところで、お前は彼女らとどんなゲームしたんだ?」


 両替機でお札を崩している智也が問いかけてくる。

 だから彼女じゃ……もう言っても仕方ないか……


「ゲームねぇ…あの時はホッケーにUFOキャッチャーとかして遊んだよ」


 春休みも終わって間もない頃だったか。長くも短かったなと懐かしさに思いを馳せる。


「ほーん。 普通だな」

「当然でしょ。ほとんどゲーセン来たことなかったんだから、こっちをやらせるわけにはいかないし」


 初めてのゲーセンで対戦型をやるのはご法度だろう。人も多かったしみんなで遊べるほうをチョイスするのは当然だ。


「それにしても、着々とお前も成長していってるんだなぁ。あの水泳一辺倒だったお前がねぇ……」

「ははっ、智也には負けるよ。 ところでそれ喧嘩売ってる?」

「もちろん売ってる」

「よし、ボコボコにしてやる」


 両替の終わった俺たちは空いていたゲーセンの台に向かい合った。







「くっ……悔しい……」

「まだまだ俺に勝つのは早かったようだな」


 日も傾いてショッピングモールから駅へ向かっている帰り道、俺の買ったジュースを智也が飲みながら勝ち誇る。

 ボコボコにしようと思ったら返り討ちにされた……


「アイツとノンビリ過ごすのもいいが、久々にこうやって思い切り遊ぶのもいいもんだな」

「そうだね。でも、部屋のエアコンはちゃんと直しておいてよ」

「おう。でも修理まで時間かかるし、俺も今夜は寝苦しい思いをするんだろうなぁ……」


 これから訪れるであろう未来に遠い目をする智也。ドンマイ。


「兼島さん帰ってきたらどうにかしてもらえば?」

「う~ん……いつ帰って来るかなぁ――――お?」


 智也がふと取り出したスマホを2度見する。なにか朗報でもあったのだろうか。


「どうしたの?智也?………わっ!?」


 俺が智也の顔を覗き込もうとしたところで背中に衝撃が走る。その衝撃の主を確認するために振り返ると俺の肩に頭頂部がくる少女が抱きついていた。


「はふぅ………慎也くん……汗臭くて、いい匂い」

「翔子さん!?」


 頭をあげて見えた顔は翔子さんだった。彼女は俺の服に顔を埋もれさせて恍惚の表情を浮かべている。


「翔子ちゃん!突然走り出して何やって………って慎也くん!?」

「優愛さんまで! ってことは……」


 道の向こうから翔子さんを追いかけてやって来たであろう優愛さんと顔を合わせる。その更に後ろから紗也、優衣佳さん、雫と買い物に行ったであろう面々が続々と現れた。


「あら、慎也君どうしたのかしらこんなところで」

「さっきまで智也とゲーセン行ってて………ってあれ?智也は?」


 さっきまで居たであろう箇所に目をやると智也の姿が忽然と消えていた。どこに行ったのかと見渡すとポケットに入れていたスマホのバイブレーレーションが反応する。


『悪いな、アイツがさっき帰って来たみたいだからしばらく避難するわ。 お前もお迎えが来たみたいだしごゆっくり』

「いつの間に………」


 お迎えとはどういうことだ。今度会った時問い詰めよう。


「みんなはもう買い物終わったの?」

「はい!先輩の家にある空き部屋用の家具を買いに行ってました!明日届くので組み立てが必要なんですけど……」


 だから明日男手が必要なのか。それにしても空き部屋ってもしかして。


「優衣佳さん、空き部屋って………」

「何も聞かないで頂戴………」


 俺が彼女に目をやると露骨に顔を逸らされる。泊まった時のあの部屋か。


「お兄ちゃん!私も向こう用のお土産とか色々買ったん…だ……よ………」


 紗也が俺に近づいて来るもだんだんとペースが落ちて来て最終的には後ずさりする。一体何が……


「さ、紗也?」

「お兄ちゃん……何してきたの……汗臭い………」

「!?」


 その言葉は諸刃の剣となり、雷に打たれたような衝撃を受けた。そんな……臭いなんて………


「ん……それがいい……だから街中でも見つけられた」


 翔子さんは変わらず俺に抱きついたまま説明をする。そんな遠くから臭ってたの……?


「慎さん、失礼しますね……ん、これは………なんというか、癖になるというか、やみつきになるというか…」


 雫、それ同じ意味だからね。


「あはは……慎也くん、シャツ買いに行こっか」


 俺は心に刀傷を受けながら彼女たちに連れられて服屋へと歩き出した――――――


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