084..祭りの日~その7~
「どうした慎也? 家がなんだって?」
レジを隔てた智也がニヤニヤしながら声をかけてくる。 この笑み………7~8割事情を理解した顔だ……
「今日ウチの親から帰ってくるなって言われてたの忘れててね……そうだ!智也の―――」
「おっと、俺の家はダメだぞ。バイト終わったらそのままアイツの家に行く予定なんでな」
やっぱりかぁ……こんな日にバイトしてるんだからその後2人が会わないわけないだろうに。
「ねぇ………私の家、来る?」
「ありがとう。 でも、家には家族だって居るんでしょ?そんな中俺は入れないよ」
「むぅ……」
翔子さんの申し出は大変ありがたいけれど遊びに行くのと泊まるとでは大きな隔たりがある。
……とりあえず、紗也だけでもなんとかしないと。
「ねぇ優衣佳さん、ちょっといい?」
この中で一番融通がききやすいと言ったら優衣佳さんだ。俺はアイス売り場まで戻って優愛さんと話している彼女に話しかける。
「あら、慎也君もアイス迷ってるのかしら?優愛が良いって言ったらいいわよ」
「私は全然いいよ~!3人だったら3種類のアイスを楽しめるね!」
「アイスの話じゃなくって……今日、紗也さんをそっちの家に泊めてくれないかな……?」
2人の家だったら自宅からほど近いし紗也1人でも帰りやすい。ここは2人に頼らせてもらおう。
「あぁその話ね。 構わない…というか元々そのつもりだったわよ」
「………へ? そうなの?」
思った以上に簡単に了承を得られてあっけにとられる。
「えぇ。慎也君が迷子の時にもしもと思ってね……」
「ちゃんと紗也ちゃんとお母さんの許可も取ってるよ~!」
優愛さんの視線につられ俺は台を挟んだ向こう側の紗也を見る。紗也は俺のことなど一切目に入らず相変わらずアイスに心奪われていた。
俺の預かり知らぬところで話は進んでいたようだ…ならば懸案事項はなにもない。俺はどこかで野宿でもしていよう。
「そっか……よかった……」
「慎也くんは紗也ちゃん大好きだもんね! もっと私達を頼っていいんだよ?」
「うん……優愛さんもありがとう」
優愛さんは珍しく俺の頭を撫でてくる。少し気恥ずかしくもなったが頼る以上されるがままでいる。
「いえいえ~! あっ!それなら紗也ちゃんの着替えも買わなきゃね。お姉ちゃん」
「わかったわ……紗也ちゃん、ちょっといいかしら?」
「うん!アイス決まってるからいいよ!」
アイス決まってたのに見てたの!? それなら早く言ってほしかった……
「今日泊まるための服とか必要でしょう?選んでもらえるかしら?」
「あっ!そうだね………お兄ちゃん、私コレとコレだからおねがいね!」
紗也は選んだと見られるアイスを示してから2人と連れ添って移動していった。さて、会計しないと……
「……慎さんは行かないんです?」
「!? 雫居たの!?」
俺がアイスを取ろうとした時突然現れた雫の声に驚いてアイスを落としてしまう。
「当然いるに決まってるじゃないですか!……まぁ、さっきまでお菓子見てましたけど」
「それいるって言わないよね……それで、なんで俺まで行くことに?」
「そりゃああの3人についていかないと慎さんの着替えがないじゃないですか」
着替え……どうやら雫は俺の分の許可を取っていないと知らないようだ。
「いや、俺の分の許可は貰ってないよ? 俺は野宿でもする予定だったし」
「えぇ!? ………優衣佳せんぱ~い!」
雫は俺の言葉を受けてダッシュで優衣佳さんの所へ。 いや、俺まで泊まるのは不味いでしょう。……今までが今までだったけど
「雫さん……いくら私達しか居ないって言ってもお店のなかでは静かに……」
「慎さん野宿するみたいですよ! ホームレスです!!」
「えぇ!!」
俺が後を追うと雫に負けず劣らずの驚きの声が優衣佳さんから。しかしホームレスとはいかがなものか。
「だってそうでしょう?男の俺が行くのは問題があるよね」
「でもそれなら……慎也くん今晩どうするの!?」
優愛さんは俺の分の服まで見てくれていたようでその手には男物のシャツが。
「そりゃあ……どこかの公園で一晩とか? 幸い冬じゃないんだし凍えることはないでしょ」
「その分虫に刺され放題ですけどね………」
うっ………雫の言うとおりだ。それはなかなかしんどい………
「それにだよ!夜の公園に1人は危ないよ!!」
「優愛さん……心配してくれるのは有り難いけど俺を狙う輩はそんなに居ないと思うよ?」
「そんなことないよ!………お祭りで会ったアイドルとか……」
そっち!? さすがに向こうも忙しいだろうしそんな事はありえないだろうけど。
「そうね……また慎也君を1人にさせたらどこで誰を引っ掛けてくるかわからないわ……」
「うんうん!」
優衣佳さんまで……引っ掛けるのは『何』じゃなくて『誰』なんだね……
「慎也くん………旅行で一緒に寝た時点で今更」
「それは…………ん、紗也?」
翔子さんにそれを言われると非常に弱い。俺が怯んでいると紗也が俺の胸元に抱きついてきた。
「お兄ちゃん……私と一緒は、イヤ?」
紗也が上目遣いでこちらを見つめてくる。毒を食らわば皿までか。
「……優衣佳さん、せめて部屋は分けてね」
「紗也ちゃんには弱いのね……えぇ。もちろんよ。 ……やった」
紗也に言われるのは反則だ。
俺は自分の分の衣類と選んでくれていた紗也の衣類をまとめてカゴに放り込んでレジまで持っていく。
「おう。いらっしゃいませぇ。 ………相変わらず見てて面白いな」
「それはどうも……智也は何も横入れしなかったね」
「そりゃそうだ。余計なことして馬に蹴られたくない上に結果はわかりきってたしな」
「………今度兼島さんに見捨てられたって言っておこう」
雫あたりに頼んで。
「おっと悪かったって。 ……お詫びと言っちゃあなんだが、コレやるよ」
「? ………これは?」
「見りゃわかるだろ? 遊園地のチケットだ。偶然6人分手に入れたから行って来い」
………遊園地のチケットなんてそう簡単に手に入るものじゃないのに6人分も……相変わらずツンデレだなぁ
「……ありがと。ありがたく使わせてもらうよ」
「おう!楽しんでこい! ……アイツからの指示だしな」
最後の言葉は聞かなかったことにする。
俺は会計を済ませると既に全員コンビニの外で集まっていた。
「ごめん、またせたね」
「いえ、話が盛り上がるのは当然のことよ。それじゃ、行きましょ」
「おにいちゃん……ねむい……」
「了解。おぶってくよ」
「あっ!じゃあ慎さんの袋―――」
「ん。もう私が持ってる」
「あ~!会長さんいつの間に!」
「…早いものがち」
………俺は紗也を背中に背負ってから2人の家に向かうことにした。
ちなみに公園野宿ルートだと本当に会う展開を考えていました。
―――――――――――――――以下 蛇足―――――――――――――――
私は公園で1人シーソーを漕ぐ。
「ここにいればライブ前のあの人に会えると思ったけど………やっぱり、勘はただの勘だったわね」
こうしている間にもポケットの中ではガラケーが幾度も震えている。今回は誰だろうか、メンバーの誰かかもしれない。
「あ~あっ!今日は最高のステージが出来たからお礼の一つでも言ってやろうかとおもったのにな~!」
私の声はただ夜空に消えゆくのみ。その空気の振動は誰の耳にも届かない。
「それに、あの時隣に居たのは誰だったのかしら……もしかして、彼女?」
そう。2割……いや、1割程度だけどそのことも気になる。あの時ステージ上から見えた腕に抱きついてた女の子……いや、妹の可能性だってある。
「でもまぁ…偶然にも行ってる高校は判明したわけだし、行こうと思えば行けるしね」
私の手の中には一台のスマホが。
最初は適当に近くの学校が公開している実績写真から調べようと思ったが一発目からビンゴだった。とくに茶色の髪をして相当目立っていたからわかりやすかったのも大きい。
「ま……これ以上一人でいるとマネージャーからお怒りどころじゃ済まなくなるし早いとこ行きましょ………またね。前坂慎也君」
私はシーソーから飛ぶように降り、星の輝く大海の下を駆けて行った。




