083..祭りの日~その6~
「今日は混ぜてくれてありがとね」
花火も終わって程ない時刻。俺たちは分担してビニールシート上にあるゴミを回収しているとミキさんが俺に話しかけてきた。
「いえ、こちらこそありがとうございます。お二人のおかげでより楽しい時間が過ごせました」
「私からもありがとね!おかげでこんな可愛い子たちと知り合えたし!」
マキさんからもお礼の言葉を頂く。その腕に雫を抱きしめて………結構気に入られたね、雫。
「マキ、そろそろ離してあげたらどうだい? それにしても、2人きりで花火はどうかと思ったけどまさかこうやって楽しめるとはね」
「それを言うなら俺もですよ。ここに来た時はチケットすら無くていきあたりばったりのつもりでしたから」
「ははっ。それもそうだね………さて、私達もいい時間だし、帰らなきゃ」
2人は自分の荷物を持った後回収したゴミ袋を俺達からひったくった。それほとんど優愛さんが食べたやつ……
「あっ……それは俺たちで……」
「いいんだよ、今日のお礼。こういうとこくらいは先輩に頼りなさい」
「………ありがとうございます」
俺たちは2人に向かってお辞儀をする。優愛さんは目一杯頭を下げて。
「うん。それじゃあ………おっと、忘れるところだった」
ミキさんがそれを見て退散しようとした所で何かを思い出したようで踵を返しスマホを取り出す。
「少年、この際だし私達の連絡先を……………うん。雫ちゃんに渡しておくから何かあれば連絡してきて」
ミキさんが言いかけたところで雫ブロックが。彼女は俺一直線に抱きついてきて俺が取り出したスマホを手で遮り、ミキさんを睨んでいる。
「仕方ないですね。慎さんではなく私経由なら良しとしましょう」
「可愛いなぁ雫ちゃんは……ねぇ少年、しばらく持って帰ってもいいかい?」
「あ!ズルいミキ!じゃあ私は紗也ちゃん持って帰ってもいい~?」
連絡先の交換を終えたミキさんはそんなことを言い出す。雫なら……う~ん……
「雫は本人に聞いてください。 そしてマキさん、紗也は絶対に渡しませんから」
「……だってさ、雫ちゃん」
「イヤです!私は永久に慎さん専属マネージャーですからほだされませんよ!」
「だってさ。フラレちゃったね、ミキ」
「それなら仕方ない。少年、みんなを泣かせるんじゃあないよ。それじゃ」
「あ!ミキはやいよ! みんな、またねぇ~」
ミキさんはやることを終えたのかさっさと雑踏へ消えていきマキさんはそのあとを追っていく。俺たちはそんな後ろ姿を手を振って見送った。
◇◇◇
「ミキ!待ってミキ!!」
ようやくミキに追いついた……まったく、歩くの早いよう。
「ん? ……あぁマキ、合流するの随分遅かったね」
「そりゃぁそうだよ! 突然行っちゃうし雑踏の中ついていくので必死だったんだから!」
ミキはそう悪びれもせずに言う。
いきなり行っちゃうし人の波に押されちゃうしでホントに追いつくの大変だったんだからね!!
「ごめんごめん。ちょっと急用ができちゃって……」
「急用?」
「うん。………っと。噂をすれば、だ。 もしもし」
電話?だからミキはさっさと行っちゃったのかな。
「……はい、はい。……問題ありません。無事合流出来ました」
「………え?私のですか? そうですね……なかなかいい子だと思いますよ?」
「なんでって……みんなのこと大事に見てましたし…それに、向こうからの信頼が凄かったですね」
なにかと思ったら今日の報告かぁ……花火終わったばかりなのに連絡早すぎない?
「…はい、そうです……え?マキも?……わかりました」
ミキはスマホを耳から離して一呼吸置いてから私に差し出す。
「はい、マキ。代われってさ」
「私も?わかった ………はい、お電話代わりました」
あの人と直接話すのってなにげに初めてなんだよね……今までずっとミキがやってくれたから……
『ミキさんが、凄く絶賛してたけど本当に?』
「えぇ。私も基本はミキと変わりませんねぇ……いい子って思いましたよ?」
電話口からは女性の声が聞こえてくる。
『接触は一瞬だったと思ったけど……なかなか詳しいわね』
「それはえっと……最初の遭遇だけじゃなくって花火会場でも会って一緒に見ちゃってですね……」
最初の接触はようやく見つけて慌てて呼び止めちゃったけど……2回目はホントに驚かされたよ。まさか会場にまで来るなんて…
『……それで、貴方達は賛成?反対?』
「私もミキも賛成ですねぇ。私達もいいなぁって思いましたもん」
できれば雫ちゃんだけでも持って帰りたかったよ……リアクションがホント可愛くってぇ……!
『……そう、了解。本格的な話はまた後日』
「はい…」
…………っふぅ~!やっと切れてくれたよ~!あの人電話越しなのに威圧感凄すぎ!
「電話切れたんだ?お疲れ」
「……すっごい怖かった」
「だから今まで私が対応してたのに」
よくこの威圧感で平然といられたなぁ……ミキ凄い!
「連絡も無事終わったし、今日のところは早く帰ろうか」
「うん~。さっきからずっとお風呂入りたくってさ~!」
「そうだね。私も入りたい」
後日のことは……また後日考えよう!今日のところは早くお風呂のために帰らなきゃ!
「…それにしても、最初の予定通り逆ナンしなくてよかったね」
「うん~!もししてたら雫ちゃんの可愛い顔が見られたかもだけど、あの……優衣佳ちゃん?に私達メッタメタにされてたよ~!」
そう!あの優衣佳ちゃんって子、私達とあの子の距離感をずっと見定めてたもん!あの人とは違うベクトルで怖かった~!
「それもそうだし……男の人と付き合ったことのない私達がちゃんと逆ナンできてたかわからない……」
「それは……そうだね……」
ミキと一緒に私も立ち止まる。
夏だというのに私達の間に一陣の冷たい風が吹いたような気がした。
◇◇◇
「あ!みんな!ちょっとコンビニ寄ってかない!?」
「優愛……さっき相当食べてなかったかしら……」
6人で帰路に着いている途中、優愛さんが不意にコンビニの前で立ち止まった。
優衣佳さんの言葉を借りるわけじゃないんだけどさっき人一倍食べてたよね……?
「ちがうよ~!ほら、アイス!アイス食べたくない!?」
「アイス………優衣佳、私もアイス食べたい。雫はどう?」
「ん~……私は紗也ちゃん次第ですかねぇ」
不意に雫から俺と手をつないでいる紗也へとパスが渡る。さて紗也は……あっ、目が輝いてる…これコンビニ行かないと泣くやつだ。
「行きたい!お兄ちゃん、いいよね!?」
「仕方ないなぁ……優衣佳さんも一緒に行こ?」
「……そうね。慎也君がそう言うのなら喜んでいくわ」
優衣佳さんはそう言って俺の腕を取る。
俺たちは傍から見たら変な集団なんだろうな……そんなことを考えながらコンビニの自動ドアをくぐった。
「いらっしゃ…………良いご身分だなこの慎也め」
コンビニに入ると聞き慣れた店員の挨拶が聞こえて………ってあれ!?なんか悪意満載じゃなかった!?
「もしかして…………」
「よう。俺があくせく働いている間に花火は楽しめたようだな」
「智也!!」
レジに1人で居るのは智也だった。いつもとは違う、違和感満載のコンビニ服を来て俺と向き合っている。
「どうしてここに?」
「バイトだよ。単発のヘルプってやつだな」
智也は何事もなくそう話す。智也がここに居るってことは……
「ん?もしかしてアイツを探してんのか?今日は家だぞ。俺もこの後行く予定」
「あぁ、そっか……じゃあいいや。俺たちはアイスを買いに来たから」
「おう。存分に見ていってくれ」
旅行の件を改めてお礼言いたかったが仕方ない。俺は気を取り直して棚に並べられたアイスに目を向ける
「優愛、わかってると思うけど……」
「わかってるよ~。1個でしょ! そうじゃないとみんなと楽しめないもんね~」
「雫。これとこれで悩んでるんだけど、1個どう?」
「あぁ、会長さんと分けっこですね!良いですよ。それじゃあ私こっち買いますね」
「ありがと……私、他のものも見てくる」
どうやらみんなスムーズに決まっているようだ。紗也の様子は……まだ掛かりそうだ。ケースに張り付いたまま頭を何度も動かしている。
「紗也、決まった?」
「ん~……もうちょっと待って!」
「悩んでるのいくつあるの?」
「………3つ」
3つか。俺はこだわりないしそれならどうにかなりそう。
「もし2つに絞れたなら俺が片方買って分け合おうか?」
「いいの!?それならすぐ決まりそう!」
よし。紗也ももう少し待てば決まるだろう。それじゃ、俺は決まるまで雑誌でも見ていようかな……
「ねぇ慎也くん、さっきシャツ売り場見て思い出したんだけど…」
「ん?」
俺が雑誌コーナーへと足を伸ばしたところで化粧品売り場に居た翔子さんに引き止められる。
「もう、決まったの? ……今日帰る家なかったんだよね……?」
「家? ……………あぁっ!?」




