082..祭りの日~その5~
「――――なるほど。迷子になっている間にライブの子と会って川に落ちたと……」
説明の終えた後、優衣佳さんが服のまだ湿っている箇所に触れながらそう聞き返す。
ちなみに紗也は説明の最中俺の膝を枕にして寝てしまった。花火が始まる前に起こさないと…
「うん。……そんなに濡れひどいかな?」
「あっ、ごめんなさい。ちょっと考え事してて」
しばらく俺の服を外さなかった優衣佳さんはすっと離してその手を包み込む。
「慎也くん!その子とはチケット貰っただけで何もないんだよね!?ねぇ!!」
「優愛さ…っ落ち着い…て! 何もなかったかっら……」
優愛さんは紗也を起こさないよう器用に俺の肩を揺さぶってきた。
「ホント……?好きになったりしてないよね……?」
「数分しか話してないのにそんな事はないよ。ごめんね、心配かけて」
「うん……」
俺の言葉に優愛さんはなんとか揺らすのをやめたようだ。けれど今度は顔を伏せ表情が伺えなくなってしまう。
「……優愛さん?」
「……ううん!なんでもない!私こそ揺らしちゃってごめんね!」
優愛さんはそう言って笑顔を見せてくる。それだといいけれど。
「ねぇねぇ……」
「翔子さん?」
「………浮気?」
「はい!?」
今度は翔子さんが俺の背中を引っ張ったと思ったらとんでもないことを言いだす。浮気ってあの一瞬で!?
「そんなことないよ!さっき優衣佳さんに言った通り何もなかったよ!」
「ん。冗談」
……冗談ならなんで俺の背中を強く抱きしめてるんでしょうか。
「いやぁ、モテモテだねぇ。少年」
「ありがたいことですけどね……でも毎日驚きばかりで心臓が持たないですよ」
ミキさんの言葉に俺がそう返すと彼女は何やら驚いた表情を向けていた。そんなに変な返しだったかな。
「? ミキさん?」
「あぁ、ごめん。 てっきりモテることを否定するものばかりだと思ってたからさ……肯定の言葉が出てきて驚いたよ」
「あぁ……それは……」
俺がどう答えようか悩んでいるとマキさんと話していた雫が俺の腕に抱きついてくる。
「そうですよ!慎さんはモテるんです! なんて言ったって私の彼氏ですからね!」
まだ続いてたんだそれ。
「あら、雫さんに慎也くんの相手が務まるのかしら?」
「そうだよ~!雫ちゃんはもう1年くらい早いんじゃないかな~?」
もう片腕には優衣佳さんが手を取り、その後ろで優愛さんが威嚇している。
「それを言うなら慎さんは紗也ちゃん然り話の子然り、年下が好みのようですしお二人が1年ほど遅いんじゃないですか?」
「「む~!」」
俺を挟んで雫と優愛さんが睨み合いをし始めた。好みの話しなんてしてないのに…
「いやぁ、愛されてるねぇ。 私も見てて熱くなってきちゃったよ!」
「そうだね。てっきり同性の友達と来てるかと思ったらこんなにも彼女さんがいるんだもの……。 あぁ、心配しないで。さっきも言ったけど私達にそんな気は全く無いから」
2人は顔を手で仰ぎながら穏やかに話す。……何やら聞きづてならない言葉が聞こえたような。
「ん……ちゃんと彼女に見えるって。この2人の目はしっかりしてる」
「いやいや、翔子さんも落ち着いて。ミキさん、こんなに彼女がいたらおかしいでしょう!」
もしかしてミキさんは宏満さんと同じ側の人なのだろうか……
「おおっぴらにするのは凄いと思うね。けど大学ではそこそこいるよ?男女問わず複数居る人種は……まぁ、例外なく直ぐバレてひっぱたかれてるけどね!」
そんな大学の実情をミキさんはおおらかに言いだした。宏満さん側じゃない……ただ凄い豪胆な人だ……!
「そんな大学のリアル聞きたくなかった……」
「慎さん!怖がらなくとも私は慎さん一筋ですよ!」
「雫なんて大したことない。私なんて一生そう」
「雫さんに翔子さん、私達を忘れて貰ったら困るわね」
優衣佳さんの言葉に優愛さんも頷きながら同意する。
しばらく顔を見つめ合っていた4人だが誰が音頭を取ったわけでも無く全員揃って「ね~!」と笑い会った。
「これは驚いた……凄いな、少年」
「大学のみんなは女の子同士凄い険悪だったのにどうやったのぉ?」
「俺が知りたいですよ………」
そんな嬉しい悩みにおれは思わず頭を抱えてしまう。
「ところで、さっき言ってて気になったんですけどお二人は合コンに行かなくてもよかったんですか?」
4人でひとしきり笑いあった雫はそんなことを聞いてくる。たしか8人がドタキャンしたんだっけ……それは相当辛そうだ。
「一応、私達も行かないか聞かれたんだけど……ねぇ?」
「うん、私達は合コンとかそういうのに興味ないから。恋人云々で余計な妬みを買われるよりもこうやって好きな人とノンビリ花火を見ていたいよ」
そうあっけからんと答えるミキさん。2人は十分端正な顔立ちをしていて合コンとかに出席したら十分モテるだろう。でも恨みとかそういうのもあるのか……
「む……な~にみとれてるの!」
「グッ…!」
不意に優愛さんが後ろから腕を回して俺の首が絞まる。……なんだか最近締められることが多い気が。
「あっ、ごめん!それで…見とれてないよね?」
「そんなことないよ。ただ凄いな~って思っただけ。……それより、翔子さんは大丈夫?」
「へ………? あぁ!」
たしか背中には翔子さんがずっといたはずだ。さっきまでその感触も会った。
けれど優愛さんがいきなり俺のところに来たおかげで彼女は俺の背中でサンドイッチ状態となっていた。
「優愛………ギルティ」
「あ~!翔子ちゃんごめんなさぁ……きゃあ!」
翔子さんは俺から離れた後優愛さんに抱きつき、服の上からお腹周りを弄り始める。
「んっ…翔子ちゃ……くすぐったいよぉ!」
「優愛……あんなに食べてるのに、腰細い……」
「それは私も不思議なのよね……一体どこ行ってるのかしら…羨ましい」
ずっと食生活を見ていた優衣佳さんも不思議そうにする。
「ははっ……さて少年、そろそろそこの子を起こさなくていいのかい?もう花火が上がる時間だよ」
「あっ、ホントだ! 紗也、花火の時間だからそろそろ起きて!」
「んん……もうお話終わった…?お兄ちゃん…」
なんとかすぐ起きてくれたがまだ眠そうだ。
「終わったよ。紗也も起きれる?」
「うん……喉乾いた」
「それならこれを飲むといいわ。お茶よ」
「ありがとぉ…優衣佳お姉ちゃん……」
紗也は受け取ったお茶をゆっくりと飲み始める。少し手元がおぼつかないがこれなら大丈夫――――
ドォン!!
と、突然の轟音が鳴り響く。
どうやら花火が始まったようだ。夜空を照らすような輝きと共に周りの歓声が届いてくる。
「……おにいちゃぁん………」
轟音の合間で少し聞こえ辛かったが申し訳無さそうな声が俺の下から聞こえてくる。
そこには飲み物を飲んでいるはずの紗也の手にペットボトルが握られておらずその在処はもっと下……俺の足元に転がっていた。。
そしてその中身は見事、俺のクロップドパンツにぶちまけられている。
「あっ………大丈夫だよ。もう結構服濡れちゃってるから」
俺は心配かけまいと笑顔で紗也の頭を撫でる。もう川に入りもしたし今更だ。
ふと横を見るとマキさんの手には以前拭いてもらったフェイスタオルが。
これは改めて新品を買って返さなきゃな………そんなことを思いながら濡れた箇所を拭き、夜空の華に心奪われた。




