081.祭りの日~その4~
「…………!! お兄ちゃん!!」
「紗也!!」
俺の姿を捉えた紗也が一直線に向かってくる。俺はそんな紗也を両手を広げて迎え入れ、ギュッと背中に手を回す。
「どこいってたのぅ!心配したんだよぅ!!」
「ごめんな。心配かけた」
紗也は俺の胸をグリグリと頭を押し付けるようにしてしがみつく。そんな俺たちをホッとした様子で見ていた彼女たちが近づいてきた。
「誰かは迷子になるかと思っていたけれどまさか慎也君だったとはね……」
「優衣佳さん……ごめん」
「いいのよ。なんともなかったんだから………なんとも無いわよね?」
「うん。なにもなかったよ」
川に落ちて助けられたことは何かに該当しないだろう。
「ならいいわ。…前向きに考えるなら優愛が屋台を2~3軒潰す前に止められたってとこかしらね」
「も~!お姉ちゃんったらいくらなんでもそんなことしないよ~!」
優衣佳さんの冗談に優愛さんが異議を唱える。
そんな彼女なりの冗談に俺も少し笑みがこぼれた。
「慎さん慎さん」
「どうしたの?」
優愛さんが優衣佳さんを抗議しているさなか、雫が俺にコッソリ耳打ちしてくる。
「優愛先輩には感謝したほうがいいですよ。慎さんが居なくなってからずっと泣きそうになってる紗也ちゃんを励ましてたんですから」
「そっか……教えてくれてありがとう、雫」
「いえいえ。私、出来るオンナなので」
雫はそれだけ言ってスッと接近していた距離をもとに戻す。出来るオンナなのかどうかはこの際捨て置こう。
「優愛さん」
「お姉ちゃんも普段は私と変わらない―――― どうしたの?慎也くん」
彼女は優衣佳さんとの会話と中断して俺のもとへ近づいてくる。その足が俺の直ぐ近く……紗也を挟んだ向かい側で止まったところで俺はその頭に手を伸ばす
「ひゃぁっ!」
「雫から聞いたよ、ずっと紗也を見てくれたんだってね。本当に助かった、ありがとう」
「全然……大したことじゃあ……あぅぅぅ……」
人前の、入口付近だからか優愛さんも予想していなかったのだろう。彼女は小さく悲鳴を上げ顔を赤くしながらもされるがままで居てくれる。
「紗也も、優愛お姉ちゃんは頼もしかった?」
「うん!紗也お姉ちゃん、ありがとう!!」
紗也は俺から離れ優愛さんに飛びついていく。飛びつかれた彼女はそれをなんとか受け止め俺と同じように紗也の頭を撫でていた。
……さあどうしよう、自分で撫で始めたはいいが人の行き来の激しいこの場所でやってると自覚したら恥ずかしくなってきた。早いとこ手を離してしまおう。
「………あっ……」
「え?」
「……慎也くん、もうちょっといーい?」
そっと離したが優愛さんはまだご所望のようだ。俺は再度手を頭に乗せる。
「うん。………えへへ………」
撫でられている彼女はご満悦だ。それを見て俺も嬉しい気持ちになるが同時に恥ずかしい気持ちもせり上がってくる。
「優愛」
「なぁに? 翔子ちゃん」
それを見て動いたのは翔子さんだった。彼女は優愛さんに何か耳打ちしたかと思うと優愛さんは顔を真っ赤に染めて俺の手を両手でそっと剥がした。
「翔子さん、なんて言ったの?」
「ん、それ以上撫でられてると慎也くんに見せられないくらい変な顔になるって……」
「なるほど……」
だから恥ずかしがってたのか。でも、そこは人に見せられないくらいって言うべきじゃ?
「ところで、慎也くん」
「はい?」
「慎也くんって………小さい子が好き、なの?」
「はい!?」
唐突な質問に少し後ずさる。
「戻ってくる時雫に抱きつかれたままだったし、紗也ちゃんもずっと抱きしめてたし……」
「あぁ………」
なにかと思ったらそのことか。雫はともかく紗也は違くない?
「雫は俺が迷子になった手前引き離すわけにもいかなかったし、紗也はまぁ……シスコンだっていう自覚はあるよ」
去年度までは紗也は俺にベッタリだったしそれに比べたら俺はまだ可愛い方だと思う。
「そっか……それなら――――」
「っっ!!」
翔子さんは一瞬何かを思案した素振りを見せたかと思ったら俺の胸に飛び込んできた。胸というか、身体を屈めていたため鳩尾に。そこそこ勢いもあったものだから俺も受け身を取ることも出来ず一瞬呼吸が止まってしまう。
「しょ……翔子、さん?」
「どう……?興奮する?」
彼女は顔だけ向けて上目遣いで聞いてくる。するけど場所を考えて!
「翔子さん!ここ人多いからそれはまた別の時に!!」
「む……仕方ない。………あれ?」
「あっ………」
彼女が手をほどく瞬間、ポケットに触れて引っかかってしまったのだろう。そこに入れていた封筒が地に落ちた。
その封筒を翔子さんは拾って俺に渡してくれる。
「ごめん。落とした…………ってこれ………」
「そうだった。これからのことを話さなきゃね………ねぇ、みんな。この後の花火のことなんだけどさ――――」
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「はい、確認できました。それではお楽しみください」
花火開始にはまだ余裕のある時間帯、受付のお姉さんにチケットを見せた俺たちはビニールシートが並べられた広場へと足を運んだ。
「それにしても慎也君がファミリー席を確保してたなんて……だから最初大丈夫って言ってたのね」
「大丈夫?これ高いみたいだし結構無理したんじゃないの……?」
優衣佳さんは関心、対する優愛さんは心底心配した様子で俺に語りかけてくる。
「大丈夫だよ。これも貰い物だから」
間違ってはいない。けれどそれはさっき貰ったものであって事前に準備していなかった。
ここに来る途中無料席も見てみたが人で溢れかえっていて楽しめるような状況ではなかった。他に行くあてもなかったし、チケットをくれたあの時の子には感謝しか無い。
「51番……51番……あった、ここだ」
俺は割り当てられた場所を探し出す。確かに10人用のファミリー席だけあってかなり広い。俺たち6人で見るには十分の広さだ。
このファミリー席は巨大なビニールシートの上に紐で1グループごとに区切られた区間を自由に使うことが出来る。
「ねぇねぇお姉ちゃん、この席飲み物の無料配布もしてるんだって!」
「……あら、ホントね。まだ打ち上がるまでには時間あるし、今のうちに私達で行っておきましょうか」
「は~い!みんなは何がいい?」
優愛さんの声に他の面々は口々に飲みたいものを言い出す。
「了解!ついでに適当に食べるものも買ってくるね~!」
「あっ!あんまり多くは………行っちゃった……」
優愛さんのことだ。相当量の食べ物を買ってきそうで危惧したが言うには遅かったようだ。もう二人は声の届かないところまで行ってしまう。
「大丈夫、優衣佳もいる」
「そうだよね。俺たちは2人を信じて待ってようか」
「あ!!」
翔子さんの言葉に応え俺たちもビニールシートに腰を下ろしたところでふと隣から声が上がる。その声の発信源は俺も知る人物だった。
「また会ったね、少年」
「久しぶり~」
「……さっきぶりですね。マキさん、ミキさん」
隣の区画に居たのはみんなと合流する前濡れ鼠だった俺を案じてくれたマキさんにミキさんだった。2人はたこ焼きを摘みながら手を振ってくる。
「そうだね。無事合流できたようで何よりだよ」
「はい!たこ焼きどうぞ~」
「あ、ありがとうございます」
マキさんが爪楊枝に刺さったたこ焼きをこちらへ突き出してくる。俺がそれを受け取ろうとしたところで隣から手が伸びてきてひったくられる。
「どうも!お久しぶりです!!ありがたくたこ焼きいただきますね!!」
たこ焼きを奪ったのは雫だった。そのまま敵意をむき出しにしながらたこ焼きを放り込む。
「どう?美味しい?」
「ふぁい!ふぉいひいでふ!!」
「そう、よかった」
言葉の通じたミキさんは嬉しそうに微笑む。
「お二人もこの席を買っていたんですね」
「う~ん……買ってたというより、私達のお父さんの会社が花火大会に出資してるからそのツテで、ね」
ミキさんが少し言いにくそうにしながら教えてくれる。確かにおおっぴらにして言うべきことでは無いだろう。
「そうだったんですね。俺たちも実は貰い物のチケットで……」
「あら、そうなのかい?」
「はい。ところで……他の方々は買い物に行っているのですか?」
「あ~……それはね………」
俺の問いかけに非常に答えにくそうな顔をする2人。しばらく待っていると意を決したように俺に向き合った。
「えっと…本当は10人で見る予定だったんだけど他の8人が合コンとか言ってドタキャンされちゃってさ……それでチケットももったいないから私達だけで見に行こうかな~って」
「それは……答えにくいことをすみません」
「いいのいいの!今はそんなに気にしてないし! ……でも、この区画も使っていいから私達と一緒に見てくれると嬉しいかな?」
「えっ、いいんです?」
「うん。私達も2人で見るよりか大勢で花火を楽しみたいしね」
「ありがとうございます。助かります」
まさかの8人で2区画も使えるようになるとは! これならかなり余裕持って花火が楽しめる!
「みんなもそれでいいよね?」
「いいけど……その人は?」
俺の問いに翔子さんが聞き返す。そうか、雫以外は知らなかったか。
「この2人はさっき俺が迷子になってる時に助けてくれた人だよ。ちょっと色々あった俺にタオルを貸してくれたんだ」
「タオル……?」
「その話はまた後で……」
詳しい説明はせめて優衣佳さんらも戻ってきてからだ。
「雫はどう?」
「いいですけど………会長さん!この2人慎さんを逆ナンしてきたんですよ!」
「逆ナン!?」
「それは誤解だって……」
雫はまだ誤解しているようだ。2人に対して警戒心しかない。
「ただいま~!いやぁ、色々買っちゃったよ~!」
「頑張ったわ……優愛の買い物が止まらないんだもの………」
買い物を終えた2人が帰ってきたようだ。元気いっぱいな優愛さんとは対象的に優衣佳さんは満身創痍といった様子で。
「お帰り……大変だったみたいだね」
「えぇ……いつものことだけどね」
「心配せずとも雫ちゃん……だっけ?キミの彼氏を奪うようなマネはしないよ」
「「「彼氏!?」」」
「あぁ…………」
優衣佳さん、優愛さん、翔子さんから驚愕の声が上がる。
また1つも2つも誤解が増えた……俺は花火が始まるまで迷子中にあった出来事を説明することとなった。




