069.夏休み旅行~その5~
ちょっと短めです。
「わぁ~!すごぉ~い!!」
目の前の光景に優愛さんが目を輝かせる。
海から上がり、階段を上がって庭先に戻ってきた俺たちを待っていたのは一面の白い煙だった。特に火事なんてこともなく、宏満さんと智也がコンロで炭に火を起こしていた。
「やあ、待ってたよ。これで全員揃ったかな」
「タイミング良いところで来たな、慎也。もう火も起こし終わったぞ」
智也がトング片手にこちらに向かってくる。と、同時にこちらの違和感に気付き二の足を踏んでいた。
「っと……なんかいつもと雰囲気が違うな。何かあったか?」
こういう時の智也はなかなか鋭い。そう、俺の隣には優愛さんが心配そうな顔でずっと待機してくれているのだ。
階段を上がる際も足の痛みで転けるかもしれないからと、何度も攣ってるから平気だという俺の言葉を押しのけて隣に寄り添い一緒に上がってきてくれた。
「いや、さっき海で足攣っちゃってね…」
「……あぁ、なるほど。なら湿布だな。中にあるはずだから持ってくる」
「ありがとう、助かるよ」
そう言って家の中に入っていく智也。それと同時に火起こしを一段落ついた宏満さんがこちらに近づいてきた。
「お疲れ。ピーチは楽しめたかな?」
「はい。ありがとうございました。それと、火起こし手伝うことが出来なくてすみません」
「気にしなくていいんだよ。準備が終わる頃に呼ぶよう言ったのは私なんだから」
「ありがとうございます。この様相は……バーベキューですか?」
「その通り。野菜はもちろん肉もいろいろな物を取り寄せてね……好きなお肉はあるかい?」
コンロの横に目をやると、そこには優愛さんが目を輝かせた原因…様々な食材が並んでいた。
どうやら肉は動物ごとに分かれているようだ。鶏肉、豚肉、牛肉………あと一つ、なにやら見慣れない肉も。
「あの……この肉は?」
「ん?………あぁ、それはジンギスカンだね。羊肉。取り寄せたはいいんだけどバーベキューコンロでは焼けないから、専用の器具を使ってもらうことになるけど」
そう言いながら山のような形の器具を取り出す宏満さん。肉焼くのに専用の道具なんているのか。
「優愛さんはジンギスカン、食べたことある?」
「ううん。私も無いかなぁ……でもっ!溢れ出た肉汁が野菜に染み込んですっごく美味しいって聞いたことあるよ!」
そう言いながら目を輝かせる優愛さん。溢れ出る水分が多い肉なのかな?
「どっちも食べてもいいし、今仁奈がご飯を炊きに行ってるからそれまで待ってもらえるかな?」
「はい。ありがとうございます」
にこやかに何から何までやってくれるお二人に頭が上がらない。
「おーい、湿布持ってきたぞ~」
「あぁ、智也。ありがとう」
宏満さんとおしゃべりに興じていると湿布片手に智也がやってくる。
俺はそれを受け取り、近くにあったベンチで貼ろうとすると何者かにひったくられる。
「優愛さん…?」
「自分で張ったら変な感じになっちゃうよ!私が張るから任せて!!」
「……それじゃあ、おまかせしようかな」
「うんっ!」
優愛さんは俺の前でしゃがみ込み少し手間取りながらも湿布を張ってくれる。そしてそんな様子を見てニヤニヤ不敵な笑みを浮かべる男衆が2人。
「…………なに?」
「いやぁ。なにもないさ。なぁ、おっさん」
智也に話を振られた宏満さんはスッと柔和な笑みに戻る。
「慎也くんはきっと結婚したら尻に敷かれるタイプだろうね」
「何言ってるんですか宏満さん!?」
「きゃっ!」
彼の言葉に驚いてつい勢いよく立ち上がる。それに驚いた優愛さんが小さく悲鳴を上げながら尻もちをついてしまった。
「ごめん優愛さん。大丈夫?」
「ううん、平気だよ。ありがと」
手を差し伸べる俺とそれに応える優愛さん。2人を問い詰めたくもなったが今はこちらが優先だ。俺は彼女の手を勢いよく引っ張ると再度その口から小さい悲鳴が漏れた。
「あっ ごめん!慎也くん!」
「こちらこそ強く引っ張りすぎたね…怪我とかしなかった?」
「うん……」
彼女は俺に飛び込んできてそれを優しく受け止める。そんな彼女の頭は俺の胸に預けられおり、すっぽりと収まってしまう。
(智也くん、これで付き合ってないのかい?)
(あぁ。その上他に3人もいるからな……見ていて飽きないわ)
(羨ましいね。私も学校での様子を見たかったよ)
(クラスメイト全員が糖分取らなくなるくらいには、やばいぞ?)
「……二人とも」
「あぁいや、さっきの様子見てて、やっぱりお前は尻に敷かれるなって話しててな」
智也の言い訳ににこやかに頷く宏満さん。俺がため息をつくと遠くから仁奈さんがやってくる。
「あなた、お話はそのくらいにしてお食事はどうですか?もうみなさんお食べになられてますよ」
「あぁ。ありがとう、仁奈」
「!?…………ひゃぁぁ………」
自然な動作でそのまま仁奈さんの額に軽く口づける宏満さん。それを目にした優愛さんは小さく声を発しながら俺の胸元の服を掴む力が強くなる。
「ほら、無くなってしまう前に私たちも早く行こうか」
「おう。ほら、慎也も行くぞ」
俺にも促しながらも先にコンロの元へ向かう3人。残るは俺と優愛さんのみになった。
「じゃあ、行こうか。優愛さんが居ないとみんな食べきれないだろうしね」
「うん!でもその前に…………」
胸元に居た彼女の顔が勢いよく近づいてくる。
反射的に目を閉じると、俺の頬に柔らかい感触が。
「えへへ……おでこは届かなくってムリだったから…コレで2回目だね!さっきは助けに来てくれてありがとっ。さっ、行こ!」
彼女は満面の笑顔で俺に手を差し出してくる。俺もその手を取り、2人でみんなの元へ向かった。




