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067.夏休み旅行~その3~

海――――

 それは万物が生まれた場所とも言われている。人の祖先も突き詰めれば最後は海に行き着くとも。

 さすがに生まれたと言われていても人は既に海で暮らせるような生物ではない。精々船に乗って渡ったり自らの体で近場を泳ぐくらいだ。


 そんな場所で俺たちは遊んでいる。………いや、遊んでいた。

 今も遊んでいるはずなのだが空気が既にそのような範疇を超えている。俺の目の前にいる女性陣は目を殺気立たせて他の人達を威嚇しあっていた。

 俺はただそれを見ていることしか出来ない。


 なぜこんなことになったのか。それは後輩の何気ない一言がきっかけだった――――



 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――



 「これでよし…っと」


 砂浜で1人、事前に渡されていたビーチパラソルを組み立て、影の下へ座り込んで目の前に広がる広大な海に意識を向ける。

 それはたしかにプライベート、と呼ぶに相応しい場所であった。周りは崖や岩岩に囲まれて階段以外に侵入口のなく、更にエメラルドグリーンに光輝く海に心奪われていた。


「な~にしてるんですか!?」


 何と無しに海を見続けていると不意に上から声がかかる。俺が上を向くと雫が後ろから見下ろすような形で俺を覗き込んでいた。


「もう着替えたんだね。雫だけ?」

「はい!慎さんこそ着替えるの早いですね~。あっ、パラソル組み立ててくれてありがとうございます!」


「なかなかの力仕事だったから、みんなには任せられないしね」

「そこらへん慎さんは素直じゃないですね~。そうだ!慎さん!どうです!?あの日選んでくれた水着ですよ!!」


 雫は羽織っていたパーカーを脱ぎ捨てて俺に水着を見せつける。

 彼女の水着はビキニタイプだがそうは感じられないような水着だった。位置づけ的には青をベースにした幾何学模様のビキニだが、下部分はミニスカートのようなアレンジがされており、上はパレオをワンピース風に巻いてあまり露出されないような造りになっている。


「うん。雫はチ…………スタイル良いから何着ても似合うけどそういう大人っぽいのもいつもと違った雰囲気で綺麗に映るね」

「そ、そうですか……そう言われると私も嬉し………ん?慎さん、いまなんて?ち?」


 誤魔化せたと思ったのに聞かれていたか。


「な……なんでもないよ?」

「そうですか……ところで向こうには先輩が最初、間違えて選んでくれた温泉水着も準備してるんですが」

「あれホントに買ってきたのかこのチンチクリン!!」


「あ~!慎さんチンチクリンって言った~!これでも会長さんよりも背高いんですからね!!」

「3センチだけなら誤差だと思うけど…」

「そっ、それでもスタイルは私のほうがいいんですからね!なんてたって会長さんと違って私のサイズは、い―――」

「何を2人で言い争ってるのかしら?」


 俺たちが2人で言い合いをしていると他の面々も来たようだ。水着姿を隠すこともなく優衣佳さんと優愛さんがこっちへ近づいてくる。あれ、翔子さんは……居た。優愛さんの背中に隠れながらもちゃんと姿は確認できた。



「優衣佳先輩!それがですね、慎さんが私のことをチンチクリンって言うんですよ!」

「あら、私から見ても雫さんは可愛らしいと思うわよ。なんて言ったって15センチ以上差があるのだから」

「そりゃ優衣佳先輩に比べれば誰だってかわいい判定になりますよ!女性の理想のスタイルしてますもんっ!」

「あら、ありがと」



 雫が両手を上げて憤慨している。たしか優衣佳さんは166センチだったっけ…それで雫をゆうに超えるバストにあのスタイルの良さ。女性が羨望するのは当然だろう。男性から見たら……それはそれぞれの好みが大きいからなんとも言えないが。


「慎也君はどうかしら、私の水着」

「えっ!?」


 不意に俺に話を振られ少し固まってしまう。

 彼女の水着は黒を基調としたタンキニタイプのワンピース水着だった。キャミソールを途中で切ったようなイメージで綺麗な腹部が露出している。



「……優衣佳さんは綺麗な黒髪をしてるからその黒色の水着もよく似合ってるよ。手足もスラッと伸びててモデルさんみたいだね」

「えぇ、嬉しいわ。ありがとう。……ほら、優愛、なにずっと静かにしてるのよ?」


 優衣佳さんが優愛さんを引っ張ってくる。呼ばれた彼女はそういえば一言も発していなかったな。


「うぅ……だって、さっきいっぱい食べちゃたし、お姉ちゃんと比べてスタイル全然だし………」

「そんなこと慎也君は気にしないから平気よ。ね?慎也君?」

「あっ、うん。もちろん。優愛さんも気にするようなスタイルじゃないよ。それにどんな体型だって優愛さんなんだから俺は受け入れるよ」

「うん……そっか……ねぇ、慎也くん、私の水着はどうかなぁ?それでもやっぱりお姉ちゃんの隣だから誤魔化す感じになっちゃったけど…」


 たしかに彼女の水着は体型を隠すようなワンピースタイプだ。青を基調とし、マーメイドラインというのだろうか。胸元から股下に向かって広がるドレスのようなスカートが印象的に思える。


「いつもの可愛らしさとは違って大人っぽさが全面に出てて凄く良いと思うよ。それに俺はそういうタイプの水着とか好みかな?」


 そういう露出の少ないタイプのほうが。優愛さんも含めてここにいる面々はみんなスタイルも良く、露出の多いものだと直視するのが恥ずかしい。その点優愛さんの水着はそこまで過激でもなくいい塩梅を保っていた。


「そうなの!?こういうタイプが好み!?」

「うん……もちろん優衣佳さんのような水着もいいと思うよ。ただ好みで言ったら優愛さんのかな?」

「ふぅん………やった」


 優愛さんは優衣佳さんと手を取り合いながら笑っている。優衣佳さんも少し困ったような笑みでそんな彼女の手をとっていた。



「慎さ~ん!早くこの先輩を請け負ってもらえませんか~?」


 2人の様子を見ていると後ろからそんな声が掛かる。見ると雫が呆れた顔で背中を見るよう促し、彼女の更に後ろを見ると翔子さんが隠れていた。


「翔子さん…?どうしたの?」

「この場は…拷問」


 俺の問いかけに彼女はわけのわからない答えを示す。


「……えっと?」

「会長さんは自分のスタイルに自信が無いみたいです」


 俺が混乱していると雫がそっと耳打ちしてくる。なるほど、そういうことか。


「翔子さんの水着、あの時似合うと思って一生懸命選んだんだ。だから一番に俺に見せてほしいんだけど、だめかな?」

「ん……そんな言い方 ズルい」


 彼女はそっと雫から離れ俺の前に出てくれる。まだ少し照れが残るようで顔は地面に落とされていた。

 彼女の水着、俺が選んだものはビキニタイプだった。ただし上は前面にフリルが付いて下はショーパンの。上は白、下は花柄で綺麗なくびれが強調されている。


「うん。やっぱり翔子さんに似合ってるよ。そのローポニーテールとも相まって楚々とした雰囲気で凄くいい感じだね」

「そう言ってもらえると……嬉しい」


 彼女はほほえみながら俺の後ろにピッタリとくっついた。ただし掴むものが水着しかないから俺の背中に手を添えて。


「慎さん、よくそんな殺し文句がスラスラと出てきますね」

「そんなことないよ…毎回必死で考えてるんだから」


 雫の耳打ちに俺も耳打ちで返す。すると彼女から「ひゃっ!」と小さく声が漏れた。


「慎さんいきなりはやめてくださいよ~。ビックリするじゃないですか」

「あぁ、ごめんごめん」


 彼女はそう言ってすねた様子で優衣佳さんの元へと歩いて行ってしまう……のは一瞬のことですぐにビーチボールを掲げて掲げてこちらに走ってきた。


「慎さん!会長さん! 海でビーチボールやりましょうよ!!」


 彼女はその答えも聞かず俺の横を通り過ぎ海まで一直線でダッシュする。俺と翔子さんは顔を見合わせたが互いに笑いあい、その後を追っていった。







「ふぅ………」


 ビーチボールで一通り遊んだ俺は1人離れてパラソルの下へと腰かける。遠くにはボールで遊んでいる4人の姿が。運動部だったのは俺だけだったのに体力一気に落ちたなと考えると自虐的な笑みがこぼれる。


「海かぁ………」


 泳ぐ、という行為は好きだ。けれどそれは今まで競泳という点でしかなかった。昔は海で遊んだりもしていたが部活に入ってから一辺倒になりこうやって自由に泳いで遊ぶということが新鮮に感じられる。

 それも彼女たちのおかげかと考えるとどうしようもなく胸が温かくなる。




「な~にしてるんですか?」


 しばらく感傷的になっているといつの間にか雫が近づいてきたようで俺の正面から見下ろしていた。その手には水筒が。


「いや、この時が楽しいなって思ってね」

「なるほど……私も思います……」


 雫は俺の隣に腰を掛け、俺と肩をひっつけ合う。

 無意識的に俺は席を譲るように彼女から少し感覚を開けると、彼女は少し腰を上げまた肩を引っ付ける。それを俺が離れると彼女がまた………


「もうっ!なんで離れるんですか!!」


 応酬を何度か繰り返したところで雫が立ち上がり文句を言ってくる。最初は偶々だったが2度目以降は俺も意識的に行っていた。


「だって……暑いし?」

「だからって離れなくたってはいじゃないですか!はいこれ!」


 そう言って俺に渡してきたのはずっと持っていた水筒だ。


「これは?」

「水分補給は大事だからって渡されました。先輩もぐいっと飲んじゃってください」


 俺は指示通り水筒のコップを外して一杯だけ口に入れる。中身はスポーツドリンクか。甘みが一気に口の中に広がり体温が急激に下がるのを実感する。


「ありがとう、雫」

「いえいえ~。私も一杯」


 そう言って雫もコップにドリンクを注いで飲みだす。それも俺が口つけた場所を狙って。


「ぷはっ………それで、慎さんはこの時が楽しいんですって?」

「うん。この時がずっと続けばいいのにって思うくらいには」


 俺は自ら首を振る。そんなことできるはずもないのに。


「そうですね……私もそう思います、この時がずっとって… だから、私は努力するんです」

「努力でどうにかなるものなのかな?」


 いつか終わりは来るのはわかってるのに。それが嫌だからずっと引き伸ばしてるのに。


「そりゃあ、努力でどうにもならないこともあるのかもしれません。けれどコレに関しては、私はズル技を使ってでも諦めることはしませんから」

「ズル技?」

「はい!慎さんにはナイショです!!………あっ、みなさ~ん!!」


 彼女はその話は終わりだと言うように勢いよく立ち上がりこちらに向かってくる3人に呼びかける


「どうしたの?雫ちゃん」

「はい!勝負をしましょう!商品付きで!!」

「商品って?」


 突然雫がそんな提案出して翔子さんが問いかける。なにか準備でもしていたのだろうか。


「その商品は…………慎さんです!!」

「………はい?」


 まさか俺が対象になるとは思わず変な声が出てしまう。


「この勝負に勝つと……夜、慎さんと同じベッドになれるという商品です!!」


 雫のその一言に、女性陣の目の色が変わった気がした。

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