066.夏休み旅行~その2~
「宏満さん! 宏満さんはどこですか!?」
広いペンション内をドタバタと探し回る。駐車場、玄関、リビング。様々な箇所を回っていくが彼の姿はどこにも見えない。………この建物は部屋が多すぎる。
「私のことを探してるって聞いたけど……どうしたんだい?」
「あっ!宏満さん!」
家中を回っていると不意に扉が開いて彼が顔を出す。どうやらお手洗いに居たようだ。チラリと見えたお手洗いの広さに愕然とするが気を取り直して彼と向かい合う。
「どうもこうもないですよ!智也と2人部屋か1人部屋かと思っていたのにどうして5人部屋になっているんですか!?」
「あぁ、そのことね」
彼は得心がいったように腕を組み直す。
「どうしてって事前に亜子を通じて彼女たちに聞いたらそれがいいって回答をもらってたんだけど…不味かったかな?」
俺の意思確認は?
不思議そうな顔をする彼にそう突っ込みたくもなったが、あくまでこちらは部屋をお借りする身。角が立たないようグッと堪える。
「えっと……色々と問題とか――――」
「やめとけ。そのおっさんは色々と規格外なとこがあるからな」
「――――智也」
廊下で話し合っている俺たちに智也が割り込んでくる。
「やあ智也君。いつもの部屋の家具たちを一新してみたんだけど、どうだったかな?」
「なにか違うと思ったらそこだったのか。椅子なんか今回のほうが良い気がする」
「それはよかった。それじゃあ店の方に採用するのもいいかもしれないね」
智也は以前にもここに来たことがあるような口ぶりで彼と会話をする。
「慎也。おっさんはそこらへんの倫理観が欠如していてな……俺もずっと言ってきたんだが聞いてもらえなくて、旅行のたびアイツと同室になりつづけてるんだよ」
「いいじゃないか。君たちが付き合ってるのは私も認めていることだし、なにより亜子がそう望んでるからね」
「……な?娘を溺愛してるからかアイツの意思最優先なんだよ。まぁ、規格外でないと人の上に立てないって言うのかもしれないな…」
その顔は一種の諦めにも近い表情だった。遠い目をして乾いた笑いが漏れ出ている。
「私は彼を信頼してるからね。それとも慎也君はなにか不味い事情でもあったかな?」
「そりゃあ……………いえ、なにもありません」
俺が反論しようとしたところで智也に肩を掴まれ首を横に振る。それを見て俺も現状を受け入れることとした。これはなにか自衛手段を考えておかないと………せめてシングルベッドで寝るとか。
「そう、よかった。それじゃあリビングへ向かおうか。もうみんな待っているはずだよ」
「りょーかい。ほら、行くぞ 慎也」
「あっ、うん」
俺たち3人がリビングに着く頃には既に女性陣の6人は席についている状態だった。俺たちはそれぞれ空いている3つの席へと歩いていく。
「お帰り~。扉に置かれてた荷物は中に入れておいたよ」
「あ、ありがとう。優愛さん」
右隣の優愛さんが笑顔で話しかけてくる。
「ごめん、慎也くん。勝手に部屋割決めちゃって……」
「いや……ちなみにどういう経緯で決まったの?」
今度は左隣にいる翔子さんからそんな声が上がる。一応、経緯だけは聞いておきたい。
「ん…と、たしか、メッセージのグループで部屋割りについて聞かれて、1人を除いて全員が同室でいいって…」
「そ……そうなんだ……。ちなみにその1人って?」
「雫。『慎さんと2人部屋がいい』って」
その言葉と同時に俺は翔子さんの更に隣に座っている雫に目を向ける。彼女は俺から顔を背いて海を眺め始めた。
「それとも、迷惑だった?」
「迷惑というより…よかったの?女子会の中俺が入っていっちゃって」
「私たち全員と寝るのを一緒にして、それは今更じゃないかしら?ねぇ、慎也君」
「優衣佳さん……」
言われてみればたしかにそうとも言える。不意・流れはあれど思い返せばそのとおりだ。しかし優衣佳さん……全部知っていたんだね…
「それじゃあみんな、昼食を持ってきたよ」
俺たちはその声に引かれて宏満さんをみる。どうやら彼と奥さんの仁奈さんがお昼ごはんを持ってきてくれたようだ。ワゴンいっぱいに食事を乗せてやってくる。
「ありがとうございます。お手伝いもせずすみません」
「いいんだよ。君たちはゲストなんだからゆっくり談笑してくれると私もありがたい」
慣れたようにテーブルに食器を並べていく宏満さん。どうやらオードブルのようだ。前菜という意味ではなく。大皿に揚げ物や肉、卵料理など様々な料理が所狭しと並んでいた。
「わぁ~!美味しそう!こんなに頂いちゃっていいんですか!?」
「もちろん。優愛君は沢山食べると聞いたからね。遠慮なく食べると良いよ」
「ありがとうございます!いただきます!!」
優愛さんの掛け声に続いて俺たちも食事を取り始める。
そのどれもが脂っこくなく箸がどんどんと進む。俺たちがパーティーで頼むオードブルとはランクが何段階も違い、その味に舌鼓を打った。
「ところでこの後は夕方まで自由なんだが、お前はどうするんだ?」
お昼ごはんの美味しさに心打たれていると智也がそんなことを切り出してきた。
「う~ん…考えてなかったけれど、みんなはどうしたい?」
「そうね……亜子さん、たしかここにはプライベートビーチもあるって聞いたけどどうなのかしら?」
俺の問いかけに優衣佳さんが兼島さんに話を振る。
「はい、ございますよ。そこの庭から階段で降りた先にビーチと小屋があるので何時でも自由に遊べます」
「そう……ありがとう。ならビーチに行こうと思うのだけれどみんなは良い?」
「はい!こんな暑い日は海で遊びたいです!!」
雫が返事をし、他のみんなもうなずいている。どうやら決まったようだ。
「そうか。下で着替えられるし、日が落ちる前には帰ってこいよ」
「あれ?智也はピーチいかないの?」
「俺は……飽きた。今回はゆっくり水風呂で半身浴でもしながら本でも読む予定だ」
そういえば以前も来てるような雰囲気だったな。きっと何度も来ているのだろう。
それにしても水風呂で半身浴か……ちょっとそれにも心惹かれる。
「慎也君はビーチにくるのよね?」
水風呂に心惹かれたのに気づいたのか優衣佳さんが確認をしてくる。
「もちろん。水風呂もいいと思ったけどそれは帰ってから家でノンビリ入ることにしたよ」
「あら、それはいいわね。私も今度そうしようかしら。部屋で読んでると優愛がトラブル起こして泣いてこっち来るから集中できないのよね……」
あぁ。なんとなくその姿が目に浮かぶ。そして呆れ顔をしながらも最後は笑顔で対応する優衣佳さんの姿も。
「あ~!私がお姉ちゃんの邪魔をしたことなんて……今年10回くらいしか無いじゃん!!い~がかりも甚だしいよ~!」
「10回って数は相当だと思うのだけれど。それも部屋に虫が出たとかお菓子こぼしたとか、しょうもないことばかり…」
一心不乱に食事をしていた優愛さんが手を止め話に入ってくる。それは確かにお風呂場に逃げたく気持ちも分かる気もした。
「慎さ~ん、私たちの水着姿、楽しみにしてくださいね~!」
「はいはい、前一緒に買いに行ったからどういう水着かはわかってるけどね」
「むっ……もしかしたらもっと過激なの買ってるかもしれない」
そう、夏休みに入って間もない頃、翔子さんと雫の3人でショッピングモールへと行った時に2人に騙されて水着を選ぶハメになったことがある。あまりにも雫が際どいものを選ぶものだから相当控えめなものを押し付けたと記憶している。
「これからの予定は決まったようだね。私たちもここでノンビリしてるから、海で遊ぶ時はくれぐれも気をつけるんだよ。何かあったらすぐ連絡するように」
「「はい!」」
優愛さんも満足行くまで食べきったようでテーブルの大皿はほとんどカラになっている。
そのまま泳いで腹痛を起こさないかな、と一抹の不安を抱えながら俺たちは荷物を携え庭下のビーチに向かうことにした。




