059.後夜祭?~前編~
「う~!下着が張り付いて気持ち悪いですよ~!!」
「私だって気持ち悪い。我慢して」
「はは……もうちょっとだから我慢してね……」
俺たちは3人揃って夜の通学路を歩いていた。全員気持ち悪いびしょ濡れになった下着を着用したまま。
あれからプール中に響く叫び声を発した雫はそのまま更衣室まで全力で走っていった。少し経って戻ってくるとそこには先程までの半袖姿ではなく、体操服長袖姿の雫に変わっていた。
「そういえば日中も暑い中長袖でいたね……半袖は苦手?」
「私だって半袖で涼しくいたいんですが……だって半袖でいると男子からチラチラと胸を見てくる視線がほんっと嫌になるんですよ!長袖のを着てるとマシになるからいつも使ってるんです…優衣佳先輩だっておんなじ理由だと思いますよ?」
そう言われて思い返すと体育祭中の優衣佳さんも厚手の長袖姿だった。冷え性かなにかかと特に気にしてなかったけどそんな理由だったとは…
それから雫の機転で、彼女は1人俺たちの教室からカバンを持ってきてくれて全員なんとか制服に着替えることができた。当然、下着だけは濡れたままだけど。
仕方ないからこの服のまま2人を家に送ろうとなったところで雫が爆弾を投下してくる。
「私たち、濡れたままバスとか電車乗るの嫌なんで先輩の家に一旦お邪魔してもいいですか? ね、会長さん!」
「……!! ん。私もこのままはヤ。慎也くん、いい?」
「えぇ………」
さっきこっそりしたと見られる翔子さんへのウインクもバレバレだったし、嫌な予感しかしないんだけど……
それに断りきれなかった結果が今というわけだ。お邪魔と言ってもちょっと洗濯してお風呂を貸すくらいだろうし、さっさとこなして夜が更ける前に終わらせてしまおう。
「そういえば先輩の家ってどんな感じなんですか?」
俺の右手にくっついている雫が顔を見上げて問いかけてくる。その腕には柔らかい感触があるがそれよりも服を透過してくる水分の不快感が勝ってどうにも変な感じがする。
「ん、マンションの一室。4LDKを独り占めで羨ましい」
「へ~……そうなんですねぇ………」
俺の代わりに左手にくっついている翔子さんが答えてくれた。こちらには水分が透過してこないから幾分かやりやすい。
……あれ?俺、住所を盗み見られたことはあっても中に案内した覚えは無いんだけど……
「って、なんで会長さんが慎さんの家を知ってるんですか!?」
「簡単。行ったことあるから」
「なっ―――― そんな…私でさえ行ったこと無いのに! 先輩!会長さんを連れ込んで何をしたんですか!?」
雫は血相を変えて俺へ詰め寄ってくる。けれど身長差もあってイマイチ迫力に欠けてしまう。
「あ~っと…翔子さんとは学校に行く時エントランスで会っただけで家には入ったこと無いよ」
「ほぅ……そうなんですね!私だけ置いてかれてるのかと……」
何に置いていかれるというのだ。
「でも翔子さん、俺は4LDKだって言った覚えもないんだけど…」
「あっ……しまった……」
翔子さんは言葉を滑らせたようで口元を手で覆う。それを好機とみた雫が俺から離れ、翔子さんを後ろから抱きしめる。
「会長さ~ん、どうして知ってるんですかぁ~?」
「それは……住所を盗み見た時、ネットで間取りを……背中が濡れて気持ち悪い」
「それくらい我慢してください。 あぁ……なるほど」
確かに階は違っても位置が同じ間取りがネットに公開されていたら知ることもできるか。俺は得心いったが雫はそうでもないようで少し引いていたようで数歩後ずさりをする。
「会長さん……住所を盗み見て間取りを調べるなんて、それはさすがに無いと思うんですが……」
「うっ………私だって、慎也くんのプライベートが気になるし……」
「それはまぁ……わかりますけどぉ……」
翔子さんは少し居心地の悪そうにし、雫はその言い訳に同調する。
気持ちはわかるんだ……
「ちょっと驚いたけど俺は気にしないから構わないよ」
「それは、よかった… ありがと」
俺の言葉で翔子さんは胸をなでおろす。この2人ならば知られたところで特に問題ないしね。
「それにしても慎さんの家にお邪魔するなんて楽しみですねっ!あの…大垣さん?を除いたら私たちが初でしょうし、どんな物があることやら……」
「大垣じゃなくて大外ね…… というか言ってなかったっけ?優衣佳さんと優愛さんは入学して早くにウチに遊びに来たことがあるよ?」
「「えぇ!?」」
あれ?言ってなかったっけ……
それから家に着くまで、延々とその時の説明に追われるのであった――――
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「ただいま~」
俺は家に着き、誰も居ない部屋に向かって声を発する。誰も居ないのに言う必要も無いのだがもう癖づいてしまっているし変える気もない。
「お邪魔します…」
「お邪魔しま~す!慎さんの部屋はどこですか!?いかがわしい本を捜索させてください!!」
俺に続いてクラスメイトと後輩も入ってくる。二人とも高所恐怖症は無いようで安心した。
「雫、目的知ってて案内するわけ無いでしょ……それにまずは洗濯が先」
「はぁい……あ、お風呂お借りしてもいいですか?さすがにちょっと寒くなってきまして……」
5月末とはいえ夜はまだ冷える。その上濡れた下着を付けたままなら尚更だ。
「まぁ、いいか……翔子さんはどうする?」
「…私にも貸してほしい」
「了解。それじゃあ洗面所はこっちだよ」
荷物は玄関に置いてもらい洗面所へと案内する。
「へ~……慎さんは毎日ここで服を脱ぎ着してお風呂入ってるんですねぇ」
「変なこと言わない。 湯船は5分くらい待ってもらうけどシャワーは使えるから、どっちから入る?」
「ん、2人一緒に入る」
俺の問いに翔子さんが答える。ウチのお風呂は普通の家族向け住宅にあるようなサイズだし、詰めれば二人とも入れる…のかな?
「2人が良いのならいいけれど…それじゃあ洗剤はセットしたからこのボタンで洗濯機は回るから。それじゃ」
「あ、待ってください!」
早くお風呂に入ってもらおうと手際よく湯船にお湯を入れ、洗濯機をセットして早々に出ようとしたところで雫に呼び止められる。
「なにかやり残したことあったっけ…?」
「ごめんなさい、ネットってどこに置かれてますか?」
「ネット…?ここだけど…なにか必要?」
遠慮がちに雫に聞かれて棚にある洗濯用ネットの場所を教える。そういえばこんなのあったなぁ…今まで使ったことないからすっかり存在を忘れていた。
「慎さん、もしかしてコレを使ったことは…?」
「ん~っと…今まで無かったかな?」
「はぁ……慎さんって一人暮らししてるのに結構家事ダメダメですよね……ネットは下着洗う時のマストアイテムですよ!」
「うっ……」
大きくため息をつく雫の隣で翔子さんもコクコクと強くうなずいているのが見える。優衣佳さんのおかげで料理はそこそこ上達したが他は改善の余地ありか…
「ごめんごめん。男の一人暮らしだとそこら辺ズボラになりがちでさ」
「これは後日特訓が必要ですね……」
「慎也くん、私と一緒に花嫁修業、始める?」
そういえば翔子さんは花嫁修業をしてるんだっけ。その顔は少しばかりワクワクしているように感じる。
「それは遠慮しておこうかな…それより二人とも早く入っちゃわないと風邪引くよ?」
「むぅ……」
俺の言葉に翔子さんは少し不満そうにするがすぐにいつもの顔に戻る。
「それじゃあ慎さんは外で待っててくださいね!あ、鍵は掛けないのでご一緒するのなら一言掛けてもらえると嬉しいです!」
「ん、待ってる」
「絶対ないから!ごゆっくり!!」
俺は勢いよく扉を閉める。雫に影響されたのか翔子さんがだんだん積極的になってきてる気がするな…
そんな思考を振り払い現在の懸案事項を解決するため俺は1人妹の部屋へ向かう。こう言っては失礼だがあの2人は妹と背丈がほとんど変わらない。とりあえずの服は妹から拝借しよう。
無断で悪いが妹の部屋にお邪魔する。そこにはぬいぐるみや化粧台など、女の子らしい様相が広がっていた。この部屋の主が居なくなってしばらく経つがそこにはホコリは殆どない。それもそのはず、俺が週末に家中を掃除してるからだ。そのためか今回お邪魔する時も抵抗は感じなかった。
「さて、服類は……ここかな?」
適当に予想をたてて部屋の隅に鎮座していたタンスを開ける。さすがの妹ながら中は綺麗に整頓されていた。その中からTシャツ・短パン・下着を二人分選んで取り出す。雫のとある一部分の下着についてはここじゃどうしようもないから母親のものでどうにかしてもらおう。
そうして一通りの着替えを手にして洗面所の扉を開けた。
お風呂場の扉の向こうから楽しげな2人の声が聞こえてくる。
「二人とも~!棚に着替え置いておくからしばらくはコレで我慢してもらえると助かる!」
「あっ、慎さん!一緒に入るんですね!!鍵は開けてるのでいつでもいいですよ!!」
「着・替・え!!3人は定員オーバーだから!!」
それだけを言い残し再度扉を閉める。雫のあの積極性も困ったものだ……
さすがにいい時間だし二人ともお腹空いているだろう、なにかいいものはないかとキッチンに向かい冷蔵庫の扉を開ける…そこには鮭フレークに塩昆布、それに梅干しなどおあつらえ向きにおにぎりの具になりそうなものが並んでいた。
学校に行く前にご飯も炊いていたし、これならばおにぎりくらいは作れそうか。適当な具材を手に取り慣れた手付きで握っていく。
……しまった。以前優愛さんがいたのもあって作りすぎた……
気がついたら軽食と呼ぶには程遠いほどの量のおにぎりがそこにはあった。これだと3人まとめてお腹いっぱいになるくらいはあるだろう…仕方ないから食べきれなかった分は明日の朝ごはんにでもする。
俺は作りすぎたおにぎりをいくつかのお皿にわけてラップし、ソファで1人テレビを眺める。そこにはゴールデン帯もあってか多種多様な番組が流れていた。それを適当にザッピングして無難な番組をボーッと眺める。
あぁ、俺も体育祭で色々あったからかだいぶ疲れているかもしれない。テレビを見ているとだんだん睡魔が襲ってきて……まぶたが重く……
「だーれだ!?」
「!?」
もう一息で完全に眠ってしまうところで背もたれの上から抱きつかれ、一気に覚醒する。
「…………雫」
「さすがですね慎さん!もう雫マスターと言っても過言ではないでしょう!」
「……ねぇ、雫」
「はい、なんでしょう?」
「上の下着はどこいった?」
後ろから抱きつかれた時に押し付けられた感覚で嫌でも気がつく。その柔らかさが直接伝わっていることに。というか進行形でその谷間に後頭部が埋もれてしまっているせいでもあるが…
「あぁ、見繕ってもらって悪いんですがお風呂上がりは付けない派なので置いてきました!」
「そっか………でもいい加減限界だから離れて!!」
俺は必死に耐えていた恥ずかしさが限界に達してソファーから抜け出す。背もたれが間にあって助かった…それがなければ逃げられなかった。
そこで振り向いたのが失敗だった。そこに居たのは絶望の表情をしている翔子さんと照れくさそうにしている雫が。問題なのはその格好、普通ならば翔子さんのようにTシャツもジャストフィットするはずだ。しかし雫はそうもいかない。たかがTシャツ、されどTシャツ。その胸部がシャツを押し上げてヘソ回りが露出されておりなんともセクシーな格好となっていた。
「ちょっ……ごめん!服のサイズ間違えた!」
「あれ、そうなんです?てっきり私は慎さんがこういうのが好みかと……私はこのままでも全然構いませんが……」
「違うの持ってくるから、待ってて!!」
俺は自室へ駆け込み自身のTシャツを雫に押し付け、洗面所へ押し込んだ。
リビングに戻ると翔子さんが暗い顔でテレビを眺めていた。
「えっと……翔子さん……」
「酷い……格差社会……」
その眼差しは虚ろだ…
「俺は……俺はそういうの気にしないよ…?」
「………ホント?」
「うん。大事なのは中身だから。俺にとっては翔子さんも魅力的だよ?」
「………ありがと」
よかった。少しずつではあるが目に光がもどりつつある。
一緒になってソファに座ったところでその視界が突然揺れ動き、暗闇に覆われる
「……あれ?」
「……どう?………多少はある、よ?」
俺の後頭部には翔子さんの手のひらが。そして顔には多少ではあるもののしっかりと柔らかさが感じ取れる。
「えっと………」
「どう?」
「うん!とっても魅力的だったよ!」
テンパってしまってなんだか妙な日本語になってしまう。けれどその言葉で満足したのか後頭部に掛けられた力がだんだんと弱まっていく。
「よかった……」
「ふぅ……」
どうやら間違ってなかったようだ。開放された俺は再度ソファに座り直す。
「あれ?慎さん、このおにぎりどうしたんですか?」
リビングに現れた雫がふとそんなことを聞いてくる。よかった、サイズは問題ないようだ。
「あぁ、2人の軽食にと思ったんだけど作りすぎちゃってね……数個だけ食べてくれたら後は俺がどうにかするから」
「……食べていいの?」
「もちろん。あ、俺と違って2人には夕食あるだろうしそっちも考えてね?」
俺が説明するも雫は得心がいってないのか首をかしげている。
「あれ?説明足りなかった?」
「慎さん、これが夕飯じゃないんですか?」
おかしなことを言う。帰ったら夕食が準備されているだろうに。
「これは軽食だよ?だって帰ってから食べられなくなっちゃう――――」
「帰らない」
「…なんだって?」
俺が再度説明しようとしたところで翔子さんから妙な回答が返ってくる。
「慎さん、私たち帰りませんよ?今晩はここに泊まらせてもらいます!」
「はぇ?」
2人の素っ頓狂な回答に俺は変な声が出てしまった――――。




