058.体育祭~その6~
どれだけ学校中を探し回っただろうか…俺と翔子さんはヘトヘトになりながら廊下を歩いていく。
再度自身のポケットをまさぐるとそこには大量の紙切れが。俺たちが教室を出て屋上まで着いたものの屋上への扉の鍵は閉まっており呼び出した本人である雫の姿を見つけることができなかった。
その代わり見つけたのが扉に貼られていた紙切れ。それを2人で覗き込むと机に入れられていた紙切れと同じ書き方で文字が記されていた。
『次は音楽室で待つ』 と。
雫に付き合うのもいいが次も紙切れが置かれているとなると日も暮れてしまう。どうしようかと逡巡したが翔子さんは平気ということ、更には音楽室まであまり距離も離れていないこともありそれに従うことにした。
けれどそれが間違いだった…音楽室に着いても雫の姿はなく、扉にはまた紙切れが。
煮えを切らしてスマホの電話帳から雫の電話番号を呼び出したが電源が切られているらしく繋がらない。
仕方ないから紙切れの指示に従い続けているうちに窓から見える太陽はどっぷりと沈みきっていた…
「これは翔子さんを家まで送るのは確定だな…」
「なにか言った?」
「いいや、なにも。 それより疲れてない?」
「ん、少し疲れた」
「だよね……次で最後だといいけど……」
翔子さんは普段表情を出すことは少ないが今回は体育祭で色々あったことも含めて疲労が限界に近いのだろう。見るからに疲れ切った顔をしている。
「えっと次は……あれ?」
「ん?」
「いや…これ見てよ」
俺は手を少し下に下げ、翔子さんが紙切れを覗き込んでくる。
『あと2回 慎さんの机の下で待つ』
「机の下……?」
「ようやく後2回かぁ……まだ頑張れそう?辛いようならおんぶとか考えるけど…」
「それは……魅力的だけど、頑張る」
「そっか……あんまり無理しないでね」
「慎也君こそ。 私を運んでくれたし」
「……心配してくれたんだ。ありがとね」
「ん」
俺たちは繋いだ手をギュッと固く握って自分たちが所属するクラスへと戻り始めた。
「やっと…着いたね…」
「誰もいない」
それもそうだろう。もう時間も経ちすぎて日も沈みきっている。紙切れによるとたしか机の下だっけ。
「慎也くん、任せて」
「あれ、いいの?」
俺が屈もうとしたところで翔子さんに止められる。
「今は座って休んでて……頭ぶつけそうで怖い」
「あはは……それじゃあ任せようかな」
たしかに今の俺だと潜ることはできても起き上がる時に十中八九頭をぶつけるだろう。そういう意味では翔子さんのほうが適任だ。その言葉に甘えて自分の椅子に腰を下ろす。
「あっ……机の下になにか…」
その紙切れは案外わかりやすいところに貼っていたらしく翔子さんが潜った瞬間に見つかった。俺はスマホのライトを起動する。
「最初に気づけていれば良かったね…どう?剥がせそう?」
「いけそう…………ん、取れた」
「やったね!さて、中身は……」
『コレが最後です!お疲れさまでした!! 我が高自慢のプールサイドで待ってます!!」
なんだかこれだけフランクな書き方だ。けれどこれこそ雫らしくて安心する。
「プールサイド?」
「マネージャーだし鍵を持ってても不思議じゃないけど……最後だし行くしか無いね」
「……嫌な予感がする」
安心して。俺も嫌な予感がするから。
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プール。それは普通の生徒にとっては体育の授業で使う程度でほぼ使用頻度は無い施設だろう。
しかしそれが水泳部に所属しているのであれば話は別。体育の授業どころか夏はもちろん、春・秋・冬まで年がら年中お世話になるといっても差し支えない。
それもこの辺りでは珍しい室内型プールとなっているからだ。夏はもちろん冬も温水プールとしてあまり外気に影響されることも無く練習をする事ができる。近くで他に室内型を取り入れている学校といえば優衣佳さんらの母校くらいだろう。
それが目当てで水泳が得意な面々が入学してくることも部内では有名な話だ。まぁスクール側の人はこちらで泳ぐことがほぼないから本末転倒となっているが……
「やっと最後の場所だね…」
「電気、付いてる」
俺たちがプールの扉を開くと鍵が開いているのはもちろん灯りまでしっかりと点灯していた。プールサイドへの道のりだけが、まるで誘われているかのように。
一歩一歩慎重に歩きながらプールサイドまでたどり着く。
「………あれ?雫は?」
「……いない。紙もなさそう」
一旦繋いでいた手を離してそれぞれ辺りを伺う。しかし今まで簡単に見つけることのできた紙切れは見つからない。
「ここにもどこかに紙切れがあるのかなぁ」
「そうかも………ひゃっ!」
「!? どうしたの!?」
すこし脱力したところで翔子さんから小さな悲鳴が上がって急いで駆け寄る。
「ごめん、地面が濡れてただけ」
「あぁ、よかった。…たしかに、誰か練習してたのかな?」
地面をよく見るとところどころ水たまりが。体育祭を終えた後で練習でもやったのだろうか。なんて練習熱心な。
「あの、慎也くん?」
「ん?なにかあった?」
「いや………もう、平気だから……その、腕を…」
翔子さんの声に合わせて自信の腕を確認する。すると駆け寄った時に反射でやったのだろう、俺は左腕で彼女の右肩を抱くように引き寄せていた。いわゆるあすなろ抱きだ。
「あっ……ごめん!」
「平気……ありがとう」
照れくさくなって離れようとするも俺の左手はしっかりと彼女によって握りしめられており離れることが出来ない。つい俺たちはお互いにそっぽを向いてしまった。
「………ぁ~にラブコメってんですかぁぁぁ!!」
「へ?―――――― うぁぁぁぁぁ!!!」
「!? 慎也くん!!」
お互いそっぽを向いていたのが災いに転じてしまった。俺たちは後ろから近づいて来る刺客に気付くことが出来ずに思いっきり背中を押されてしまう。
なんとか彼女だけでも助けようと手に込めていた力を緩めるも彼女の方が離してくれない。もしかして、引っ張るつもりか!?
「翔子さん!」
「ん………頑張って………慎也くん………」
両手で俺の腕を掴むことに成功した翔子さんは俺を引っ張り上げようと全力で腕を引っ張る。
「あっ………やっぱムリ………」
「やっぱりぃぃぃぃ!!!??」
やはり大の男を引っ張り上げるのは無理があったようだ。俺に合わせて翔子さんもプールに落ちていく。
「でも……せめて道連れに………!!」
「え!?ちょっ………そんなぁぁぁぁ!!!」
水面に当たる直前に微かに見えた……翔子さんはせめてもの足掻きと俺を突き落とした刺客の腕を掴み3人揃って春のプールへと落下していくところを――――
バッシャァァァン!!!と、大きな音がプール中に響き渡る。
落とされてなんだけど、体育祭でかいた汗が流されるようで気持ちいい。
プールと言っても水深はせいぜい1300ミリ程度で溺れることはない。コースロープを張っていなかったことがせめてもの幸いか。
「プハァ!……翔子さん、無事!?」
「ん………なんとか……」
「よかったぁ……」
気持ちいいと感じたのも一瞬。真っ先に水面から上がって翔子さんの無事を確認するもプールの壁を支えにたゆたんでいるところだった。
「それで、なんで俺を突き落とすようなマネをしたんだ?雫」
「当然バレますよね~………それには深~いわけがあってですね……」
俺は同じくプールの壁を支えにしている刺客…雫に顔を向けた。ここまで誘導して突き落とすなんて心当たりは雫しかいない。
「慎さんは体育祭でいつもやっている水泳部の伝統についてご存知ですか!?」
「伝統……?」
この部活に伝統なんて一つも………いや、一つだけあった。以前俺も誘われたが断った覚えのあるやつが。
「たしか…体育祭後は毎年体操服のままでプールに飛び込んで汗を流すとかなんとか…」
「そう!それです!!私も今年初めて知ったんですが慎さんは一度も飛び込んだことが無いとも聞きまして…それで飛び込んでもらうと…」
「それじゃあ、紙切れいっぱいのアレは?」
「それは他の方々が帰られるまでの時間稼ぎです。慎さんは一応辞められた身なので誰もいない時にしようかと」
今までのネタバラシをされて水中で1人浮かぶ。なんだかんだ言っても雫は俺を思ってやってくれていたのか。やり方は少々強引だがこれだと怒るに怒れない…
「そっか……俺が落とされたのはわかった。ちなみに、翔子さんが落ちたのは?」
「それは完全に事故です!お二人が離れた時を狙ったんですがなかなか分断されなくってつい……あ、ちなみに私が落ちたのも事故ですよ?」
「それはわかってる。」
翔子さんが道連れにしたのを見てたから。
「……やり方はともかく俺のためにやってくれたことはわかった。雫、ありがとう。」
「えへへ……喜んでくれて良かったです。それと、強引になったのはすみません」
「いいよそれくらい。翔子さんはどう?」
「ん、慎也くんがいいならそれでいい」
「会長さん……よかったです。辞める前にいい思い出ができて」
そう言って雫は翔子さんの元まで泳いで行って笑顔を見せる。………ん?なんだって?
「雫、さっき辞めるって聞こえたんだけど……」
「え?はい。私は今日をもって水泳部マネージャーを辞めることにしたんです」
「「えぇぇ!?」」
今日イチで驚愕した事実だ。翔子さんも目を見開いている。
「雫、それどういうこと?」
「会長さんまで…ほら、私元々は菜月ちゃんの為に入りまして。辞めた後は慎さんの為に続けていたんですよ。それで2人がいなくなったら私が居ても…という結論に至りまして」
「雫がそれでいいのならいいんだけど……後輩もいたんでしょ?」
前に2人で遊びに行った時新入生の子を見てるって言っていたはずだ。
「その子は……随分引き止められましたが私は決めたんです!!」
「「なにを?」」
つい俺たちはハモってしまう。
「慎さんの行くところ私ありっって!だから慎さん、これからよろしくされなくても着いていきますから、よろしくおねがいしますねっ!!」
「~~~~!! ………好きにして」
雫は水面から顔だけ出しながら俺へウインクしてくる。
彼女の真っ直ぐな好意を向けられてついぶっきらぼうな答えになってしまった。
「はいっ!! ……クシュン!」
「いくら室内でも温水じゃないしね。早く上がろうか」
いくら6月近くでも誰も居ない時に温水は稼働していない。風は無いが水は随分と冷たかった。
俺は2人にそう促し先にプールサイドへと上がる。
「ん。寒い」
「そうですね~。まさか私たちまで落ちるとは思わなかったですよ~」
「それは雫の自業自得だか……ら………」
軽い気持ちで振り返りながら答えるが、俺の視線は段々と下へと移動して言葉尻が段々と弱くなってしまう。
俺たちは体育祭が終わったばかりで全員体操服。そんな中プールに落とされたらどうなるだろうか。
そう、体操服の布が身体へとへばりつく。俺は着衣水泳の経験もあったから気にならなかったもののふたりの服装は不味かった。
翔子さんはその下に付けている白色のスポーツタイプの下着が。雫にいたってはそのチンチクリンには不釣り合いなほど大きな水色の下着が俺の目に飛び込んできた……
「慎さん、そんな固まってどうかしたんですか?…あっ!もしかしてまた私を落とそうと考えてたんです?そうはいきませんよ!私だって経験して成長するんですからね!!」
雫はそんなことに何一つ気が付かず俺の方へ一歩一歩近づいていき、翔子さんが一つため息をつく。
「雫、違う」
「へ?どうしました?会長さん」
「これが持つものの余裕か………ここ」
「ここ?下ですか? あっ―――」
翔子さんが腕で胸元を隠しながら雫の胸元を指し示す。
その後プール中に響き渡ったのは顔を真っ赤にした雫の叫び声だった。
現役水泳部員はその後顧問に叱られるまでが伝統。
次回更新は2日後の17日です。




