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047.優衣佳とのデート~その4~

「これは・・・・・・兼島さんが・・・?」


 和室中央に鎮座されたダブルサイズの布団を見て俺は思わず後ずさりしてしまう。


「おそらく・・・慎也君も脱衣所の紙を見てここに来たのよね?」

「うん。優衣佳さんのは・・・俺のと全く同じ内容だね」


 俺たちはそれぞれ置かれていた紙を見比べるも中身は全く同じだった。どうやら同室で図られたのは間違い無いようだ。

 さてどうしたものかと悩んでいると廊下の向こうから兼島さんがやってくる。


「兼島さん。ちょっといいかしら?」

「あら川瀬様、なんでしょう?」

「招かれた身でこんなこと言うのは心苦しいのだけれど、私たちが同室なのはなにか意図があってのことかしら?」


 優衣佳さんの問いに兼島さんはキョトンと首をかしげた。


「おかしいですね・・・帰ってきてまもなくあの方から連絡を頂きまして、絶対同室にしてほしいとのことだったのですが・・・・・・」


 犯人は智也か!!!

 思わぬ伏兵の登場に俺は脱力して頭を抱える。


「お二人の了解も得ずに申し訳ございません。問題がおありでしたら今すぐ隣の部屋に布団をご用意しますが・・・・・・」

「いえ、突然だったのに部屋まで準備してくれてどうもありがとう。この部屋で問題ないわ」


 兼島さんの提案に間髪入れず優衣佳さんがそう告げる。あれ、俺の意見は・・・


「それならよかったです!それでは私も自室に戻りますので何かあれば川瀬様経由で連絡して頂いたらすぐ参りますね」

「何から何までありがとう。あ、お風呂も凄く良かったよ」

「そう言って頂けると何よりです。それではお休みなさい」


 兼島さんはそう言って自室へと向かっていく。俺は兼島さんの背中を見届けたあと優衣佳さんに背中を押されて部屋に入っていった。


「優衣佳さん、ホントに良かったの?同室で」

「もちろん。それとも慎也君は狼になってしまうのかしら?」

「俺にそんな度胸ないことは・・・自覚してるけど・・・」


 確かにそんなつもりはまったくない。けれど今の優衣佳さんはお風呂上がり。髪の毛が軽く湿気っていて普段と違う香りに包まれて・・・いつも以上に色っぽく見えてくる。俺は抱きしめたくなる気持ちをグッと鉄の意思で押さえつけた。


「そ・・・それにしても兼島さんの所作は優雅だったね。まるで旅館の女将のようだったよ」

「あら、あの子の両親は旅館を経営してるのよ?中学でもおもてなしが大事だって言って私を何度も助けてくれたわ」

「あぁ、通りで・・・」


 それは彼女の所作にも納得だ。よっぽど旅館が好きなんだな。


「そんなにあの子のことを考えて・・・もしかして、私というものがありながら惚れちゃったのかしら?」

「突然何を言い出すの!?惚れてないから!!」


 俺の心まで呼んだのか優衣佳さんが荷物を整えながら聞いてくる。彼女はそのまま優しく微笑んで敷かれた布団に入っていった。


「冗談よ。ほら、いい時間だし私たちも寝ましょう?」


 彼女は俺にそう促しながら布団の片側半分を片腕で持ち上げて俺を誘う。その自然な動作に誘われそうになったが同時に気恥ずかしさも襲ってきてその場に留まってしまう。


「いや、俺は布団の外で寝ることにするよ」

「何言ってるのかしら?まだ夜は寒いし布団も1セットしかないじゃない。ほら、一緒に寝ましょ?」

「さっき使ったタオルがあるしそれを使えばなんとか・・・」

「もうっ!・・・・・・・・・捕まえたっ」

「へっ?・・・うわぁ!」


 恥ずかしさを堪えるため背中を向けていて不意を突かれてしまった。待ちくたびれた優衣佳さんは布団から出て俺に近づき、俺の頭を胸元に寄せてから二人一緒に布団へと倒れ込む。


「優衣佳さん!急にどうしたの!?」

「貴方が入って来ようとしないのが悪いじゃない。今晩はこのままずっと抱きしめさせてもらうわよ」

「わかった!わかったからこの布団で寝るから一旦離して!柔らかいものがずっと触れてるから!!」


 いつもなら下着があって柔らかさも軽減されるが、今の優衣佳さんは俺と同じ浴衣姿で下着を付けていないのだろう。ダイレクトにその柔らかさが伝わって俺はパニックに陥る。


「分かればいいのよ。それとも正面から堪能するのかしら?私はいつでもいいわよ?」

「そんなことしないから・・・・・・だんだんやり口が雫みたいになってきたね・・・」


 その積極性が。


「ええ。雫さんには色々学ぶことが多くあるわ・・・・・・本当に付き合って無かったの?」

「ホントだよ。昔はあんなにグイグイじゃなかったんだけどなぁ・・・」

「ならよかったわ。悪いんだけど立つのならそのまま電気を消してくれないかしら?明るいところではちょっと・・・恥ずかしいわ」

「消すのはいいけど何もしないからね?」

「ふふっ。冗談よ」


 部屋の入り口にあるスイッチを消して戻ってきた頃には優衣佳さんも布団をしっかり被ってくれていた。俺も言った手前覚悟を決めて優衣佳さんと同じ布団に入る。


「いらっしゃい・・・・・・なんだかホントに一緒に寝るって考えると恥ずかしくなってくるわね」

「俺もだよ・・・とりあえず俺は端の方にいるから優衣佳さんはゆっくり寝ちゃって」


 俺はできる限り優衣佳さんに触れないようにしながら布団から出るか出ないかのところで背を向けて目を瞑る。

 暫く無言が続いて眠ったかと思われた時、優衣佳さんが俺の背中に抱きついてきた。


「優衣佳さん?」

「・・・・・・・・・本当に何もしないの?」


 その声は耳元で話しかけられているにも関わらず聞こえるかどうかのとても小さな声だった。


「私より、優愛の方が、好み?」

「優愛さん・・・?一体なんの・・・」

「昨日見てたの。優愛が貴方にキ・・・・・・キスしているところ・・・」


 アレを見られていたのか。いくら一瞬の出来事だったとはいえ彼女たちとはそんな離れてなかったし見られてもおかしくなかったか。


「あれは・・・キスされたのは頬だったし、その・・・・・・」


 何も言葉が出てこない。彼女の抱きしめる力が強くなる。


「翔子さんからも言われたと思うけど、私の・・・いえ、私たちの気持ちに気づいているんでしょう?」

「まぁ、うん・・・」

「その言葉は私も言葉にしないわ。今が楽しいから誰も崩したくないのよ」


 俺だって楽しいし崩したくない。だから何も言わないでいる。優衣佳さんは俺の背中を抱きしめたまま話を続けた。


「ただ、もしもあなたの心に決まった人が出来たら言って・・・・・・もしそれが・・・・・・」

「・・・それが?」


 そう言った瞬間彼女の腕の力が一気になくなり開放される。と同時に俺に覆いかぶさって来て頬に柔らかい感触が―――――――


「それが私だったらとっても嬉しいわ。それじゃあおやすみなさい!」


 彼女はそのままもとの場所に戻り俺に背を向けた。俺はしばらく固まっていたが、開放された身体を起こして背を向けている彼女の髪を一撫でする。


「ありがとう、優衣佳さん。おやすみ」


 彼女からはそれ以上何も返事もなく、俺も布団の半分を使って寝ることにした。



 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――


「慎也君。ほら、朝よ。起きて」

「んっ・・・・・?あぁ、おはよう、優衣佳さん」


 早朝、まだ日が出て間もない時間に彼女に起こされる。目を開けた時に見た姿は既に私服になっていた。


「えっと・・・昨日はごめんなさいね。なんだか私が私じゃないみたいな・・・」

「ううん。気にしないで。それにしても・・・ははっ」


 ふとしたことで俺が思い出し笑いをしたせいで優衣佳さんは不思議な顔をする。


「・・・?どうかしたの?」

「いや、なんだかいっつも優衣佳さんに起こされてる気がして。これから何回起こされるんだろうかなって」

「あぁ・・・ふふっ。それは慎也君次第ね。ほら、さっき兼島さんが朝ごはんのお誘いに来てくれたわ。早く着替えて行きましょう?」

「わかった。そういえば昨日の夜は食べそこねてたね・・・着替えて行くから先行ってて」

「待ってるわ。それと・・・」


 優衣佳さんは暫く手をこすり合わせていたが俺が不思議そうな顔をしているといきなり彼女の顔が近づき・・・・・・


「・・・朝の挨拶よ。・・・それじゃ、待ってるわね」


 そう言って俺の頬にキスをした彼女は荷物一式を持って部屋を後にした。






 両親がもう出てしまったからと兼島さんが用意してくれた朝食も食べ終わったあと、家まで送っていくという提案に甘えた俺たちは門の前で兼島さんを待っていた。


「優愛、大丈夫かしら」

「翔子さんたちもいるし大丈夫だよ。きっと3人で楽しんでると思う」

「そうだといいけれど・・・」


 優衣佳さんは本当に優愛さんのことが大切なのだろう。でも、優衣佳さんには悪いが3人で羽を伸ばしまくっている姿が目に浮かぶ。


「・・・なんだか凄く世話になっちゃったね」

「私もよ。中学時代も含めるとあの子には借りしかない気がするわ・・・」

「あら、私がしたいことをしてるだけなのでお気になさらず。お二人とも後ろへどうぞ」


 どうやら兼島さんが来たようだ、車の助手席からそんな声が聞こえる。俺たちも兼島さんに従って後部座席に乗り込んだ。


「車まで出してくれてありがとう。本当に助かったわ」

「私も向こうの家に戻る予定でしたのでついで、というものですよ。それではお願いします」


 彼女は運転席にいる人に促してゆっくりと動きだす。暫く車に揺られていると彼女はふと切り出してきた。


「そういえば、昨日はお楽しみでしたね?」

「んん゛!!・・・・・・・兼島さん・・・何を・・・」


 変な声が出てしまった。隣を見ると優衣佳さんの顔は真っ赤だ。


「いえ、あの方から朝になったらこう言え、面白いものがみれるから、と・・・・・・・」


 また智也か!!

 さすがに人の家でそんなことはしない。弁明させてもらう。


「何もお楽しみなんてことは無かったからねっ!ねっ、優衣佳さん!」

「え・・・えぇ。何もなかったわ・・・何も・・・」

「そうですか・・・それにしても、川瀬様がとても明るく変わっておられて私はホッとしました」

「そうなの?」

「そう・・・かしら?」


 優衣佳さんは自覚してないのか二人揃って不思議そうな顔をする。


「はい。前坂様、中学の頃の川瀬様はずっと笑みを浮かべること無く凛としてましたので、女王と呼ばれることもあり皆様から羨望の的だったのですよ?」

「女王様!?」

「そういえばそんな呼ばれ方もあったような・・・必死過ぎてあんまり覚えてないわ・・・」

「高校では姿をお見かけしなくなって心配でしたが、昨日お会いしてからいろんな表情を見せてくれるようになって私も嬉しかったのです」


 兼島さんはそう言ってルームミラー越しに優衣佳さんを見る。その顔は安心か親愛か、優しい笑みを浮かべていた。


「兼島さん、ありがとう」

「礼には及びませんわ。・・・あら、川瀬様のご自宅はこの辺でしたよね?」

「えっ、えぇ。この辺りで降ろしてもらえる?」


 外を見ると見慣れたもう景色が写っており俺もどこか安心する。車は邪魔にならない場所で停止し、荷物を持って車を降りる。


「兼島さん、助かったわ、ありがとう」

「お気になさらず。でも、一つお願いがあるのですがよろしいですか?」

「あら、何かしら?何でも言って頂戴?」

「またお時間できた時で構いませんので、私と川瀬様、それに神鳥(かんどり)様とで一緒にお茶しましょう?」

「そんなこと・・・えぇ、喜んで」

「ありがとうございます。その日を楽しみにしてますね・・・・・・それでは」


 優衣佳さんと兼島さんは一つの約束をして車は遠く離れて行った。道路には俺と優衣佳さんだけが残される。


「・・・それじゃあ、家まで行こうか。俺も寄っていいかな?」

「もちろん構わないわ。行きましょ」


 俺たちはすぐ近くの優衣佳さんの家まで2人で歩く。俺は迷ったがさっき聞いたことについて尋ねることにした。


「えっと・・・さっきの、神鳥さんって?」

「言ってなかったかしら?優愛の旧姓よ。神鳥 優愛(かんどり ゆあ)、珍しいでしょう?」


 なるほど、優愛さんのことか。中学が一緒ならそっちの名前で呼ぶのが普通なのだろう。


「ふぅ・・・・・・やっと帰り着いたわね・・・優愛は心配してないといいのだけれど」

「きっと大丈夫だよ。まだ学校の時間には早いし、雫も家にいるかもね」


 俺たちは扉の前で深呼吸してから扉を開ける。


「ただいま・・・・・・あら?誰も居ないのかしら?」

「たしかに・・・やけに静かだね」


 家の中は物音一つしなかった。誰も居ないのだろうか・・・いや、リビングに人影がある。これは・・・


 リビングの扉を開けると物が散乱しきっていた。お菓子にジュースやボードゲームとトランプ・・・様々な物が乱雑に散らかっていた。

 そして部屋の隅の方には3人固まって雑魚寝している友人たちの姿が。近くにボードゲームをやりかけていることから遊んでいるうちに寝落ちしてしまったのだろう。ふと隣を見ると優衣佳さんが笑顔で優愛さんに近づいて身体を揺すっている。


「ふぁ・・・おはよ~。お姉ちゃん・・・あれ?なんでここで寝てたんだっけ・・・」


 最初のうちは寝ぼけていたが目が冷めていくにつれて顔を青くする優愛さん。俺は気づかれないようにそっとリビングから廊下に出る。


「この惨状はなんなの!!優愛!!」

「お姉ちゃんごめんなさい~~!!」


 俺は優衣佳さんの母親らしい姿に戦慄するとともにお叱りが終わるまで大人しくしているのであった。

結局雫は遅刻してしまった模様。

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