046.優衣佳とのデート~その3~
「優衣佳さん、この人と知り合い?」
俺たちはコンビニ前から少し移動し、優衣佳さんにさっき出会った少女・・・兼島さんとやらのことを尋ねる。
「えぇ、この人は―――――」
「まぁ。私のことをお聞きになっていないのですか!?」
優衣佳さんが紹介をしてくれようとした時、少女が驚きを隠せない様子で俺に問いかける。
「ごめん。俺は君のことを知らないんだけど・・・ウチの学校の人?」
「いいえ、私の通っている学校は川瀬様と同じ学校でした。今、どちらに通われているかは存じ上げませんが・・・」
そう言って少女は優衣佳さんに顔を向ける。俺と少女に見つめられた優衣佳さんは少女の隣に立った。
「慎也君は知らないようだし紹介するわね。彼女は兼島 亜子さん。私の友人で、同じ中学だったのよ。」
「はじめまして、前坂様。ご紹介に預かりました兼島と申します。以後お見知りおきを。」
兼島さんはスカートを軽く摘んで優雅にお辞儀をする。優衣佳さんと同じ中学といえば中高一貫の女子校だったか。暗くてわかりにくかったが確かに彼女の来ている服はそこの制服だ。
「よろしく、兼島さん。だから優衣佳さんと知り合いだったんだね」
「私も驚いたわ。会うのは卒業式以来で、まさかこんなところで会うだなんて。久しぶりね」
優衣佳さんは紹介が終わって一段落したのか彼女の横から俺の横に移動し、昼のように俺の腕に自らの腕を絡ませた。
「本当に久しぶりですっ!高校でもまたお会いできると思ってましたが別の学校に行かれただなんて!私に言ってくださってもよかったですのにっ!!」
久しぶりに会ったらしい兼島さんは、優衣佳さんが外進したことを知らなかったようで大層ご立腹だ。優衣佳さんはそんな彼女の様子を見て申し訳無さそうな顔をする。
「ごめんなさい。あの時は色々余裕が無くって教え損ねたのよ」
「・・・ふふっ。冗談です。高校に居なかったのは驚きましたが、中学で何があったかは存じ上げておりますので。それよりもあなた方・・・お付き合いなさってるので?」
「!?」
兼島さんから予想していなかった質問が飛んできて不意を突かれる。そういえば今優衣佳さんは俺の腕に抱きついているんだった。そう聞かれるのも無理はない。
「ええ。もちろ―――――」
「それより兼島さん!なんで俺のことは知ってたの!?」
優衣佳さんが肯定しようとするところ無理矢理別の話題に切り替える。その質問を受けた兼島さんは「まぁ」といった様子で俺と向き合う。
「そういえばご存知なかったのですね・・・改めまして私、兼島亜子は大外智也さんとお付き合いしております」
「・・・・・・・え?・・・・・・・・・・・・えぇぇぇムグッ!!!」
その事実に驚きを隠せなかった俺は辺りが暗くなって近所迷惑になるにも関わらず大声を出・・・・・・す前に優衣佳さんによって思いっきり口を塞がれてしまった・・・
―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
あれからここに来た経緯を話した俺たちはコンビニに入らず兼島さんのご厚意で彼女の別宅に案内されている。どうやらゴールデンウィークを利用して別宅で羽を休めていたらしい。
俺はさっき聞いた驚愕の事実を確認するため2人に声を掛けて智也に電話を掛けていた。
「――――――ってことで兼島さんに会って別宅まで案内してもらってるんだけど、ホントに彼女なの?」
「マジかぁ・・・・・・そんな流れでアイツに会っちまうとは・・・・・・まぁ隠すつもりもなかったけど、たしかにアイツが彼女だ。俺からもメッセージ入れておくからとりあえず一晩ゆっくりしていけ」
「ありがとう。偶然だったとはいえ助かった」
「お礼はアイツにな。ところで、お前1人か?」
「ん?いや、俺ともう1人優衣佳さんも――――――あれ?切れた・・・」
メンバーを伝えたところで切れてしまった。電波を見るに圏外では無さそうだし言うべきことは伝えた。これ以上なにかあるのならメッセージが届くだろう。
「あの方はどうでしたか?」
電話が終わったのを見計らって兼島さんから声がかかる。
「うん、一晩ゆっくりしていけだって。今日は本当にありがとう。」
「お気になさらず。あの方から前坂様のことも伺っておりましたので。助け合い、ですよ」
「ところで、大外くんから慎也君についてなんて伝わってるのかしら?」
優衣佳さんが兼島さんへそう問いかける。心なしか俺の腕を掴む手の力が強まっている気がする。
「そうですね・・・・・・部活と生徒会やりながらあの方と一緒に馬鹿やってる馬鹿野郎だとか・・・・・・更に最近は・・・いえ、これくらいにしておきましょう」
「馬鹿野郎って・・・」
智也らしい言い方だった。というか最後何を言いかけた?
「兼島さん、最近はの続きは?」
「うふふ・・・これ以上言うのは無粋と思いまして・・・あっ、あちらが私の別邸ですよ」
兼島さんが指差した別邸とやらは武家屋敷と表現するのにふさわしい家だった。今までずっと歩いていた壁はすべて塀で、門をくぐった先は見事な庭園。家も平屋ではあるが相当の面積を誇っていた。
「これが・・・・・・別邸?」
「あっ、いえ、人の少ないこの土地だからこそ広いだけですので、自宅はもっと・・・皆様とお変わりないような家ですよ?」
「慎也君、彼女の自宅は翔子さんと同じ最寄駅なの。それだけで大体わかるかしら?」
「あ~・・・なるほど」
翔子さんの家にお邪魔した時もあの付近の家はどれも相当格式の高そうな家ばかりだった。彼女の実家も相当裕福なのだろう。
「ただ今戻りました」
「お邪魔します」
「お、お邪魔します・・・」
優衣佳さんに続いて別宅に上がる。そして兼島さんの案内に従って廊下をしばらく歩いた先にある客間と思しき部屋に俺たち2人は通された。
「それではしばらくここでお待ち下さい。私は両親に話を通してきますね」
そう言って兼島さんは客間の襖を閉めていった。部屋には俺たち2人だけになる。
「えっと・・・偶然だけどなんとかなったね・・・」
「そうね・・・私としては野宿してお互い身体を寄せ合って寝るのもありだったけど・・・」
「それは俺の心が持たないのでやめてください」
「冗談よ。そうだ、優愛に連絡入れるわね。心配してるだろうから」
そう言って優衣佳さんは部屋の隅に移動して電話を掛け始める。俺も手持ち無沙汰になりスマホの通知を確認したが新たなものは何もなかったため、雫と翔子になんとかなった旨のメッセージを送っておく。
「優愛、翔子さんと雫さんとでお泊り会してるらしく、声も元気そうで安心したわ」
「それは良かった。無事合流できたんだね」
「入ってもよろしいですか?」
「あ、はい!」
優衣佳さんの通話が終わったところで兼島さんが襖を開ける。その手にはタオルが何枚か重なっている。
「両親からも許可は出ました。ゆっくりしていってとのことです」
「それはよかったわ。私たちからもお礼しなきゃいけないわね・・・・・・お二人に会うことは構わないかしら?」
「いえ、今は仕事中の上、明日も朝早く出かけられるみたいなので・・・私から両親にお伝えしておきますね」
「ええ、ありがとう。ところでそのタオルは何かしら?」
「あっ、そうでした。お二人をお風呂に呼びに参ったのです・・・・・・さぁこちらです。あ、お荷物は移動させますので置いておいてくださいね」
兼島さんは俺たち2人にタオルと浴衣を1セットづつ手渡し、風呂場に案内しようとする。2人同時に案内してしまっていいのだろうか。
「あの、兼島さん。お風呂って1人づつじゃないの?」
「ご心配なさらず。この家は男女で浴室が分かれております。と言っても使うのは私たち家族しかいないんですけどね」
俺の心配は杞憂だとばかりに口元に手を当て静かに微笑むのを見て俺もホッとする。
「それじゃあ」と俺たちは案内を頼み、男女の暖簾が掲げられた浴室まで案内してもらった。
「なんというか・・・銭湯みたいだね」
「ええ。父のこだわりでこういうふうにしてもらったと聞いております。中もこだわっていてちゃんと露天風呂があるんですよ?」
「ありがとう、兼島さん。それじゃ優衣佳さん、また後で」
「ええ。また後で」
「私はお布団の準備などがございますのでお二人共ごゆっくり」
暖簾をくぐった先もたしかに銭湯だった。さすがに脱衣所は何十人も着替えられるようなスペースではなく10人弱程度のスペースではあったが、洗面や棚など道具については完全に銭湯を再現している。
俺は手早く服を脱ぎ浴室へを足を踏み入れると何個もあるシャワーに巨大な浴槽、更に露天風呂へと続くと思われる扉がそこにはあった。
「・・・・・・贅沢な銭湯の独占だね・・・」
新品のような道具を我が物顔で使うのは気が引けたがそれ以外に道具が無かったので思い切って使わせてもらう。コンディショナーなどは明らかに安物と言えない豊かな香りで流すことさえためらわれるほどだった。
一通り身体を洗った俺はしばらく浴室内の湯船に浸かっていたが自身の中にある冒険心が疼いて奥にある扉を開ける。その先には廊下があり、更に奥のガラス張りの扉を開いた先には見事な露天風呂が広がっていた。
「これが・・・個人宅のお風呂・・・?」
露天風呂は全面竹壁に覆われており空には綺麗な星々が広がっていた。浴槽が途中で竹壁に阻まれている向こう側は女湯なのだろうか。
恐る恐る浴槽に足を触れさせると室内よりも高めのお湯が張られていた。これならばと、俺は思い切って全身をお湯に浸からせる。
「・・・・・・・・ふぅ~・・・・・・・。こんな凄いお風呂、毎日通いたくなるなぁ」
「そうね。私も同じこと考えていたわ」
「へ!?優衣佳さん!?」
「慎也君も来たのね。ゆっくりしましょ」
俺が独り言を漏らすと竹壁の向こうから優衣佳さんの声が聞こえた。一緒に入ったのだし居てもおかしくはないか。
「・・・・・・今日は色々ごめんなさい」
ふと露天風呂と満天の星空を堪能していると女湯からそんな声が聞こえる。
「俺も、優衣佳さんを走らせたり寝過ごしちゃったりして家に帰すことができなくてごめん」
「それは全部私の自業自得よ。私がコーヒー豆買わせるために振り回しちゃったから・・・」
「それこそ俺がちゃんと時間見てなかったから・・・・・・いや、これくらいにしてお互い悪いってことでどう?」
「そうね・・・・・・でも、それと同時にありがとう。私1人で寝過ごしてたらパニックになって今頃どうなってたかわからなかったわ」
「優衣佳さんならいつも冷静だからどうにかなると思うけど・・・」
「私は全然よ。慎也君が居なかったら駅で一晩明かすか家まで歩いていたと思うわ」
「そうかなぁ・・・でも、うん、どういたしまして。役に立てたようで何よりだよ」
どれくらい浸かっていただろうか。あれから会話が途切れゆっくりお風呂を堪能していると優衣佳さんから声がかかる。
「それにしても、彼女が大外くんの恋人だったなんてね・・・」
「俺も驚いたよ。世の中は狭いものだね」
「ええ。性格は真逆だけれどあの子はいい子だし、きっとうまくいくと思うわ」
「俺も智也の友人としてそれを願っているよ」
「・・・・・・慎也君は・・・・・・・・」
「ん?」
「いえ、なんでもないわ。お先上がるわね。慎也君はゆっくりしていて」
彼女はそう言って浴槽から上がる音と扉の閉まる音と共に去っていった。
俺ももうしばらく露天風呂を堪能してから上がることにした。
お風呂から上がって脱衣所で着替えていると何やら紙が足元に落ちてくる。拾って見ると寝室とそこに行くまでの道順が示されていた。ここに行けと言うことか。
着替え終わり道順の通り進むと目的地であろう扉の前に優衣佳さんが立っている。
「優衣佳さん。どうしたの?」
「あら、おかえりなさい。それが・・・中を見てもらえればわかるわ」
優衣佳さんは入り口から数歩下がって俺は中を見る。
そこには旅館のような和室のど真ん中にダブルサイズの布団が鎮座しているのであった―――――――――




