045.優衣佳とのデート~その2~
「思ったより長居しちゃったわね。日も傾いてきたわ」
「そうだね。優愛さんも心配するし、沈みきる前に帰ろうか」
コーヒー店を出た時にはもう夕方近くなっており、太陽も沈み始めている。5月になったので以前と比べたら日は高くなっているがあと1時間半もすれば沈んでしまうだろう。
さて、次の電車までの時間は・・・・・・
「帰ってご飯も作らなきゃいけないし・・・次の電車の時間までどのくらいかしら?」
俺が調べているのを把握してたのか優衣佳さんがタイミングよく問いかける。
「えっと・・・・・・・・・ってまずい!次のまであと10分ちょっとしかない!!」
「10分!? それ逃したら次の電車は!?」
「・・・1時間後みたい」
駅から店まで来るのに約15分。そこから戻るわけだから電車に間に合うには柱なければならない。
「優衣佳さん、少し急ぐことになるけれど平気?」
「ええ、問題ないわ。スニーカーで来たのが功を奏したわね」
「よかった・・・荷物は俺が持つよ」
「あら頼もしいわね。お言葉に甘えてお願いするわ」
俺はポーチとさっき買ったコーヒー豆の袋を受け取る。すると優衣佳さんは俺を置いて10メートルほど走っていってしまう。
「ふふっ。部活を辞めた慎也君が私に追いつけるかしら?」
「言ったね?水泳辞めて逆に体脂肪落ちた俺が追いつけないとでも?」
「あら、じゃあ捕まえてみたらどうかしら?駅まで競争ね!!」
「了解・・・・・・まてぇ!!」
駅までのあぜ道をコースとした2人だけのレースが今スタートした。
駅の改札口前。そこには息切れしながらグロッキーになりかけている高校生が2人。
「はぁ……はぁ………いきなり全力でこの距離を走るのは無茶ね・・・ランニングでも始めようかしら・・・・・・」
「ぜぇ……ぜぇ………俺もまさかこんなに体力落ちてるなんて・・・・・・俺もランニングやろうかなぁ」
「一緒に走るのも良いかも・・・知れないわね・・・・・・月末には体育祭があるし・・・」
「体育祭?・・・・・・そういえばあったね・・・こんな体たらくじゃ運動部にボロ負けしそうだよ」
中学時代にあった体育祭を思い出しながら近くにあった自動販売機でお茶を2本購入し、1本は優衣佳さんに差し出す。
「あら、ありがとう。なんだか私走ってばっかりね・・・・・・」
「明日はお互い筋肉痛で動けないね。でも走ったおかげで電車には十分間に合いそうだよ」
時計を見ると電車の時間までまだ5分弱残っていた。息を整える時間くらいはありそうだ。
「間に合ったようで良かったわ。荷物もありがとう、持って走るのも辛かったでしょう?」
「コレくらい練習に比べたら大したこと無いよ。ほら、早いとこ改札通ってホームで待ってよう」
俺の提案に優衣佳さんは素直に従い二人してホームまで歩いていく。着いた先では乗る予定の電車が既に止まっていて車内には誰もいなかった。
「誰もいないのね。これならゆっくり座れそうだわ」
「毎回、帰りは確実に座れるところがこの駅のいいところだね。軽く冷房も効いてるし、最高の環境だね」
優衣佳さんはは椅子の端にカバンを抱き抱えながら座り、俺もその隣に腰を下ろしてさっき買ったお茶に口をつける。
しばらく待つと発車のチャイムがなってゆっくりと電車の扉が閉まっていった。
「なんだか、眠くなってきたわ・・・」
「俺も・・・適度の運動にこの揺れ・・・これは寝ちゃいそうだよ・・・・・・」
2人揃って電車に揺られ、首もユラユラと揺れていく。
「乗り過ごさないように気をつけ・・・なきゃ・・・・・・ね・・・・・・・・」
「俺も気を・・・・・・つけ・・・・・・・」
心地よい環境に耐えられなかった俺たちはそのまま夢の世界へと旅立っていった。
―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
「・・・・・・慎也くん・・・・・・慎也君!!」
「!!」
何者かに呼ばれた気がして頭は一気に覚醒する。目の前には誰も座っていない長椅子が斜めになっていた。違う、俺の頭が斜めになっているのだ。
「目が覚めた?起きて早々悪いんだけどここどこか分かる?」
俺は電光掲示板を確認する・・・・・・聞き覚えのない場所だ。
現在地の把握を諦めた俺は続いて身体を起こしさっきまで頭を預けていた場所を確認する・・・・・・どうやら俺は優衣佳さんの肩に寄りかかって眠りこけてしまっていたようだ。
「俺も聞き覚えがない場所だよ・・・・・・ごめん。寄りかかって寝てたみたい」
「私も慎也君に寄り添って寝ちゃってたからお互い様よ。2人揃って寝過ごしちゃったみたいね・・・とりあえず、次の停車駅で降りましょ」
「そうだね。こっち方面あんまり知らないから、離れすぎてないと良いんだけど・・・」
数分待って停車した駅に下車し、辺りを見渡す。日がどっぷり沈んでいる上に全く見覚えのない土地であった。辺りを照らすのは点々と見える該当だけである。
「ねえ、慎也くん。・・・・・・ここどこ?」
「うん・・・・・・どこだろう・・・・・・。俺もわかんない」
「お互い、やっちゃったわね・・・」
「そうだね。やっちゃったね・・・」
真っ暗になってしまった空の下、俺たちは微かに照らされた灯りの下で2人ため息をついた。
そうだ。電車で来たんだから同じく上りの電車で帰ればいい。希望が見えた俺は近くにあった時刻表まで小走りで向かっていく。今の時刻は20時過ぎ、時刻表から今の時間以降発の電車を探す。
「どう?次の電車は何時かしら?」
「・・・・・・ない」
「え?」
「下りはまだ何本かあるけど上りはこれ以降ないみたい・・・明日の始発を待つか、歩いて帰るしか・・・」
そこまで言ってスマホで現在位置を確認する・・・ダメだ。歩いて帰れるような距離じゃない。
「それはマズイわね・・・・・・とりあえず、優愛に電話するから待ってて貰っていいかしら?」
「うっ、うん」
優愛さんはお腹を空かせた上、連絡がない優衣佳さんのことを心配しているだろう。電話がつながったようで優衣佳さんから申し訳無さそうな声が聞こえる。そんな時、俺のスマホも着信を知らせる音が鳴った。
「もしもし?」
「あっ、つながった!何してるんです!?優愛先輩泣いてましたよ!!」
通話主は見てなかったが相手は雫のようだった。優愛さんから連絡が来て俺に掛けてきたのか。
「ごめん。電車に乗り過ごしちゃってさ・・・」
「乗り過ごしですか・・・戻るのにどれくらいかかるんです?」
「それが、帰りの電車が無くって歩きも難しい状況で・・・」
「それ、優衣佳先輩も近くに居るんですよね?」
「え?うん、いま優愛さんに電話掛けてるけど・・・」
「2人きりで朝帰りですか!!いくら不意とはいえズルすぎますよ!!」
通話口から絶叫が聞こえた。思わずスマホから耳を遠ざけてしまう。
「・・・まぁ、事故とかじゃなくってよかったです。慎さん達はこれからどうするんですか?」
「最悪野宿か、どこか朝まで開いてる店で時間潰そうかなって思ってるけど・・・俺たちよりも優愛さんが心配で・・・」
「まぁ、そうだろうと思いました。優愛先輩のとこには私たちが向かいます。なのでこちらのことは安心してください」
「私たちって?」
「着信のリスト見てないんですか?今も通話聞いてますよ?ねぇ?」
「ん。聞いてた。私も行く」
「!?」
慌てて画面を耳から遠ざけメンバーを確認する。グループ通話になっていたようで雫と翔子さんがリストに載っていた。
「ならこっちに専念できるけど、いいの?」
「はい!慎さんが心配することは私にとっても一大事です。それに、優愛先輩の家のほうが学校に近いですし・・・」
そういえば雫は明日から学校だったっけ・・・俺たちは林間学校の代休だけど。
「それじゃあ二人とも、優愛さんの家にお願い」
「はいっ!」
「ん。任せて」
2人の心強い返事を受けて通話を終了する。隣を見ると優衣佳さんは通話が終わっていたようでさっきまで話していた内容を報告した。
「・・・そう、なら優愛については問題ないわね。やっと通じたって言って泣いてたわ・・・心配してくれていたのよ・・・」
「優愛さんのことは2人に任せよう。それで、俺たちはどうしようか・・・・・・」
「ええ。さっき調べてたのだけれど近くにコンビニがあるみたいよ。とりあえずそこに行くのはどうかしら?」
「そうだね。お腹も空いたし、なにか入れておこうか」
優衣佳さんスマホ片手に道を進んでいく。5分ほど歩くとコンビニの見慣れたデザインが見えてきた。見知らぬ土地で見知った物があるとホッとする。
「よかった・・・イートインスペースもあるみたいだしなにか買って食べましょ」
「ひとまずここでこれからのことを考えないとね・・・・・・あっ、ごめんなさい」
これからのことで頭が一杯になっていたのかコンビニに入ろうと自動ドアを通る時、店を出る人にぶつかりそうになった。
「こちらこそ申し訳ございません・・・・・・あら?もしかして・・・前坂様では・・・?」
「へ・・・・・・?」
なにやら見覚えのあるような反応をされて俺も彼女を再度確認する。
その人は俺たちと同い年くらいの少女だった。優愛さんと同じくらいの背丈で後ろ髪を腰上まで伸ばして綺麗に切りそろえられており、前髪はいわるゆ姫カットと呼ばれる髪型をしている端正な顔立ちの少女だ。しかし何度見ても俺には見覚えがない。
俺がどちら様か聞こうとした時、隣にいる優衣佳さんが驚きの表情を浮かべ口に出した。
「嘘・・・・・・兼島さん?」
「・・・!? まさか・・・・・・そんな・・・・・・川瀬様!?」
「んんんん・・・・・・・??」
どうやら兼島さんと呼ばれた少女は優衣佳さんと顔見知りで、俺だけが彼女のことを知らないという、奇妙な状況が出来上がった。




