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037.アウトドアでの夕食作り

「優愛はそんな感じでいいわ、そのまま全部切っちゃって頂戴」

「了解!どんどんいっちゃうよ~!」

「翔子さんはもうお米研ぎ終わった?じゃあ飯盒(はんごう)に水入れて、終わったら鍋にお湯沸かせてくれる?」

「ん。任せて」


 一波乱あったウォーキングの後、そのままクラスと合流したら他の人はみんな揃っていた。

 その後何喰わぬ顔でオリエンテーリングに参加しようとするも優衣佳さんに捕らえられ、先生の元へ連行されてしまう。保健担当の教員に病院行くかとも打診されたが必死に拒否し、腕を冷やして戻ったらもう夕食作りをするところだった。


 料理の一番できる優衣佳さんが指示に回るのは当然として俺もなにか手伝おうと火の番をしているが、どうにも何もしてない感がしてやるせない。


「優衣佳さん、俺も何か手伝うこととか・・・」

「貴方はそこでじっと火を見てなさい!」

「でも・・・ある程度料理できるし、優愛さんと一緒に野菜切りとか」

「その腕でロクに包丁を扱えるわけ無いでしょう。私もいることだし今回は大人しく指示に従ってなさい」


 優衣佳さんは優愛さんの手伝いをしながら俺を一瞥しそう答える。これはきっと何を言っても聞いてもらえないだろう。俺は諦めて薪をくべる。


「あちっ」


 薪をくべた途端バチッ!っと音がして爆ぜた火の粉が俺の手に当たった。少し驚いて当たった箇所を確認するがこのくらいなら火傷すらならない。


「平気!?」


 俺の声に反応した優衣佳さんは切っていた野菜を放り出して俺の元へ駆け寄ってきた。すると俺の手を彼女の両手でつつまれヒンヤリした感覚に襲われる。


「ごめんね・・・やっぱりこれも危ないわね。火の番は私がやるから貴方は椅子に座って料理ができるのを待ってて」

「まってまって!ちょっと火が爆ぜただけで大げさだよ!これくらい怪我しててもできるから任せて!」

「でも・・・・・・やっぱり座っていない?」

「ほらっ!問題ないからここは任せて! 優愛さん、あとはお願い!」

「あはは・・・ごめんねお姉ちゃんが」


 俺は優衣佳さんの両肩を掴んで優愛さんの隣まで持っていく。彼女は苦笑いしたまま引き受けてくれた。

 その後火の前に戻った途端何者かが俺の服を引っ張る。


「慎也くん。飯盒の準備できた」

「あぁ、翔子さんありがとね。それじゃあ火にかけようか」

「ん、お願い。私は鍋に野菜入れる」

「そうだね。切ってくれた2人は休んでてもらうよう言ってくれる?」

「任せて」


 そう彼女は離れていき、すぐ肉と野菜持ってきて鍋に入れていく。


「翔子さんもやっぱり料理できるんだね」

「やっぱり?」

「ほら、前家に行った時に花嫁修業がどうとか」

「っ!?・・・・・・・あれは、忘れて」


 翔子さんは一瞬目を大きく開いたがすぐにもとの無表情に戻ってしまった。


「それで一個聞きたいことがあるんだけど・・・・・・・あっ、そろそろルー入れていいんじゃない?」

「ん、わかった。・・・・・・聞きたいことって?」


 そう問いかけながら慣れた手付きで鍋をかき混ぜ始める。


「うん。ほら、あの日家を出る時に翔子さんが・・・その・・・」

「・・・ギュッとしたこと?」

「うっ・・・うん」

「あれは、抑えられなくなったから」

「抑えられなくなった?それって・・・?」


 隣にいる彼女を見るが鍋に視線を落としているためその表情は伺い知れない。


「それは・・・・・・今は気にしないで」

「やっぱりそれか・・・気になるんだけどなぁ」

「・・・・・・・・なら、もっとみんなの事を見てて。私のことを、もっとよく見てて。今はそれだけで、いいから」

「みんなの事?」

「私に優衣佳に優愛、それに雫のことも」

「・・・・・・うん。わかった」


 俺もそれ以上何も言わない。きっとお互い言葉にして変わることを望んでいないのだろう。なら今はそれでいい。安直で問題の先送りでしか無いが今はまだその時ではないだろうから。


「でも・・・」

「ん?」

「たまには私の頭を撫でてくれると、嬉しい」


 そう言って翔子さんは俺の右手を掴んで頭辺りまで持ち上げる。


「手袋してるとはいえ、今は汚いと思うんだけど」

「別に、いい。お願い」

「・・・わかった」


 そのお願いを叶えるべく手袋を外して彼女の頭に手を乗せる。


「ふゆぅ・・・嬉しい」

「それは、良かったよ・・・・・・もういいかな?」

「まだ・・・・・・・・あ」

「どうしたの?」

「ご飯、吹きこぼれてる」


 飯盒の様子を確認するため撫でている手を離そうとすると名残惜しそうな顔を見せるが俺はぐっとこらえる。


「・・・ホントだ。石置き忘れてたから持ってこなきゃね」

「ん、石なら見つけてある。机の足のとこ」

「助かるよ。ありがとう」


 俺は一旦机まで戻って言われた場所を探すと目当てのものはすぐに見つかった。それを持って立ち上がると手首を何者かに掴まれる。


「!? なに!?」

「慎也君、その石で何をする気?」

「何って・・・飯盒吹きこぼれてるからその上に乗せるためだけど・・・」

「そんなの私に言って頂戴。すぐやってあげるわ」


 そう彼女は持っていた石をひったくり素早い動作で飯盒の上に乗せて戻ってくる。


「見事な手際だね。ありがとう」

「いえ、このくらい大したことないわ。それで、私にはしてくれないの?」

「なんのこと?」

「これよ」


 そう言って俺の手を掴んで顔の位置まで持ち上げる優衣佳さん。さっきのを見ていたのか。


「わかった。ありがとね、優衣佳さん」

「んっ・・・・・・いいわねこれ・・・・癖になる・・・・・」


 先程と同じように頭を撫でると優衣佳さんは目を細めて気持ちよさそうな顔をする。しかし身長差がそんなにないものだから翔子さんの時と比べて少し気恥ずかしさが強い。




「もういい、かな?」

「ふぅ・・・仕方ないわね。またやってくれるのならいいわ」

「うん。また今度、ね」


 しばらくの間優衣佳さんの頭を撫でていたから火の番等全て翔子さんに押し付けてしまった。早く戻らないと。

 彼女のもとに戻ると俺のいた場所に誰かが立っていた。


「あれ?優愛さん?」

「慎也くんおかえり~!お姉ちゃんにかかりきりみたいだったから、こっちは私が見てたよ~!」


 日を見ていた優愛さんがエへン!と胸を張る。


「助かったよ、ありがとう。飯盒もいい感じだし火から出そうか・・・えっとトングは・・・・」

「ケガ人にそんなことさせられないよ~!私がやるから慎也くん指示お願い!」

「いいの?それじゃあお願いしようかな」


 俺は優愛さんに飯盒を取り出して逆さまにするよう指示を出す。彼女は少しふらつきながらもしっかり仕事を完遂させてくれた。


「へへ~ん!私もやればできるんだよ~!だから、ね?私もやってもらっていいかな?」

「それって、さっき優衣佳さんにやっていた?」

「うん~!手が真っ黒だろうか気にしないからさっ!お願いっ!」


 そう言って頭を俺の方に突き出してくる。俺も3度目となれば比較的慣れた動作でその頭を撫でる。


「あっ・・・これは・・・はふぅ・・・・想像以上に気持ちいいね・・・・食堂で翔子ちゃんが溶けてたのもわかるよ~」

「ん。私の気持ち、解ってくれた?」

「わかるよ~・・・癖になるね・・・・これ」


 隣で鍋をかき混ぜていた翔子さんが反応する。俺は何も言わずに撫で続ける。




「ふぅ・・・・・んっ、もういいよ。ありがとっ!」


 そう言って俺の手をゆっくり降ろす優愛さん。その顔は満足したようで俺も笑みがこぼれる。時間的にもそろそろ料理ができあがる頃だろう。


「そろそろ鍋のほうもできたんじゃないかな?」

「もうできてる」

「そっか~。飯盒ももう十分時間経ったし、持っていこうか~」


 優愛さんの合図で俺たちはそれぞれ料理を持って机まで戻る。そこには優衣佳さんがお皿を並べているところだった。


「あら、おかえりなさい。ちょうどお皿も洗って並べ終わったところよ」

「ただいま。そっちは任せちゃってごめんね」

「いえ、私が勝手にやったのだしいいのよ。早いとこ食べちゃいましょ」


 俺たちはそれぞれ分担してお皿に盛り付けていく。今日はカレーだ。机に並べられたのは家で作るのとは少し不格好だがそれでもきちんとしたカレーが並べられた。

 俺は優衣佳さんの右隣で正面には翔子さんの位置に腰を降ろす。優愛さんは翔子さんの隣だ。


「それじゃあ、号令は優愛、お願いしていいかしら」

「は~い!それじゃあ、みんな一緒に!」

「「「「いただきます!」」」」


 挨拶をしてスプーンを手に取りカレーを掬おうとした時だった。俺の目の前に何かが差し出される。


「・・・・・・何をしているの? 優衣佳さん」

「何って、慎也くんは腕を怪我しているでしょう?ほら、あーん。・・・あぁ、熱いのね、ちょっと待ってて」


 一旦差し出したスプーンを戻した優衣佳さんは自身の息でカレーを冷まして再度俺に差し出す。


「はい。あーん」

「優衣佳さん。俺が怪我したのは左腕で、右は問題なく動くから一人で食べられるよ」

「そうだよっ!お姉ちゃん今回慎也くんに過保護過ぎ!!」


 優愛さんからもフォローが!これは頼もしい。


「だからお姉ちゃん!私ももっと甘やかして!!」

「優愛はもっと自立しなさい」

「はうぅ!」


 頼も・・・しい?一刀両断だった。


「それとも・・・迷惑だったかしら・・・?」


 その瞳は不安に揺られていた。この過保護具合は怪我をさせた罪悪感なのだろうか。俺にはどうにも無碍にすることは出来ないようだ。意を決して差し出されたスプーンを口にする。


「・・・・・・・うん、美味しい」

「よかったぁ!じゃあ次いくわねっ!!」


 その楽しそうな笑顔を曇らせることは俺には出来ない。俺は針のむしろの中優衣佳さんが満足するまで食べさせてもらうのを続けるのであった・・・・・・


 もちろん食後智也に散々からかわれたのは言うまでもない―――――――――

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