035.道中
バスの中はクラスメイトの喧騒で埋め尽くされていた。
今は山中を走行しているようで窓から外をみても見渡す限り木々しかない。そんな風景をしばらく無心で眺めていたがふと視線を移動して車中に向けると隣に座っている人物が通路を挟んだ向かいの二人に持参したお菓子を分けているところだった。
「ん?どうしたの慎也くん。お菓子?」
俺の視線に気づき、彼女が差し出したカバンの中を確認すると出発時は一杯に入っていたお菓子類が既に半分くらいの量へと減少していた。
「・・・・・・あれ?なんだかかなりの量減ってる気がするんだけどみんなに分けたの?」
「え~?たしかに1つ2つくらいはあげたけど、他はお姉ちゃんたちと一緒に食べたよ~」
「分けたのそれだけ!?あと全部3人で!?」
「この子の胃袋はそういうものだと諦めたほうがいいわよ。ちなみに私たちはそんなに食べてないわ、大半はこの子1人の食事量よ」
通路を挟んだ向かい側にいる優衣佳さんが諦めを促してくる。窓際に座っている翔子さんも首を縦に振っていた。
「うん・・・そろそろ割り切ることにするよ。優愛さん、俺もお菓子1ついいかな?」
「うん!慎也くんはどれにする?」
そう言って再度カバンをこちらに差し向けてくる。俺は適当に物色し一箱取り出した。チョコレートでコーティングされたスティック菓子だ。
「これ、貰ってもいいかな?」
「もちろん!それ美味しいよね~」
箱を開けると二袋入っていた。俺はそこから一袋取り出して余った一袋を箱ごと優愛さんに差し出す。
「はい」
「えっ?これって・・・いいの・・・?」
「もちろん」
元々優愛さんから貰ったものだ。俺から許可を取る必要も無いだろう。彼女は差し出した箱を恐る恐る受け取った。
朝食をとってないから誤魔化し程度にしかならないがきっと無いよりかマシだ。俺もそれを食そうと袋を開けたところで肩を突かれる感触がしてそちらを振り向く。
「ん~~!ふぉ~ふぉ!」
「どーぞ!」と言っているのだろうか、隣を見ると優愛さんが目を瞑りながらスティックの片側を加えてこちらに差し出していた。俺は思わず下がろうとしたがここはあいにくバスの窓際、後ろには窓しか無く逃げ場がない。他に逃げ場がないか模索するも唯一の出口は優愛さんに塞がれていて出ることは不可能だ。
そうしている間にも彼女は顔を真っ赤にして震えながらスティックを差し出し続けている。これは例の伝説のゲームをするしか無いのか―――――――
「いい加減にしなさいこのお花畑!!」
俺が覚悟を決めかけたところでスパァァン!!と軽快な音が響く。通路側を見ると優衣佳さんが今回の冊子を優愛さんの頭に向かって振り抜いていた。優愛さんはその衝撃で頭を大きく落としている。
「お姉ちゃんなにするの!?」
「それはこっちのセリフよ!公衆の面前でそんなうらや・・・・・・・みっともないマネ許すわけ無いでしょ!この脳内お花畑!!」
「お姉ちゃんだって昨日部屋でブツブツ言ってた計画録音してるんだからね!それに比べたらみっともなくもないよ!」
「なんでそれを録音してるのよ!!」
優愛さんが優衣佳さんの席側に移動して恒例の姉妹喧嘩が始まってしまった。そのせいで行き場の無くなった翔子さんは身体をかがめながらこちらの席に移動し俺の席にちょこんと腰を下ろす。
「翔子さんも姉妹喧嘩の被害をもらって大変だね」
「ん・・・そんなこと無い。約得」
そういって翔子さんは俺の持ってるお菓子の袋を指差した後、自分の口元を指差す。
それを見て察した俺は袋からスティックを取り出して彼女の口元へもっていく。すると小さな口で咥えポリポリとゆっくり食べ始めた。
「美味しい。もう一本」
「はいはい。これ好きなの?」
「ん。好き」
もう一本彼女の口元へ持っていって食べさせた後、俺も同じく自分の分を取り出して口に咥え、外を眺めるのを再開した。
どれくらい経ったのだろうか。袋に入ってあったスティックの3分の2を翔子さんの口元に持っていき、残りを俺が食したところでバスは停車して乗客は全員降り始める。
「着いたみたいだね。俺たちも降りようか」
「ん。荷物あっちだから、待って」
そう言って翔子さんは向かいに座っている二人を呼びかける。なんだか静かだなと思ったら二人とも肩を寄せ合って寝ているようだった。
「二人とも、起きて」
「ん・・・寝てたのね。おはよう。ほら優愛、起きなさい」
「ん~・・・あれ?ここどこ?」
優衣佳さんは呼びかけただけですぐ目を覚ましたが優愛さんはまだ寝ぼけているようだ。
「林間学校の施設に着いたわよ。それ以上慎也君に寝顔を見られたく無かったら早く起きなさい」
「えっ!?・・・・・・・・慎也くん、見た?」
「ごめんね。ちょっとだけ」
正直に答えると優愛さんは翔子さんに渡された荷物からタオルを取り出し顔を隠してしまう。
「大丈夫!?私よだれとか垂らしてなかったよね!?」
「大丈夫よ。ほら、行くわよ」
俺は優衣佳さんに背中を押されてバスから降りる。
降りた先は一面山だった。山の麓に施設の建物が複数あり他には何もない。今夜はここで一晩か・・・なにか事件でも起きそうだな、と乾いた笑いが出る。
「ここが目的地か~!自然がいっぱいだね!・・・なにかの事件に巻き込まれそうな予感」
しばらく経って降りてきた優愛さんが元気いっぱいに言う。考えることは同じということか。
「そしたら優愛は1人部屋に閉じこもる役ね」
「それ次の標的になるやつじゃん!それだったら私たち4人で閉じこもろうよ!!」
優衣佳さんの言葉に優愛さんは道連れを増やそうとしてくる。複数で閉じこもったらフラグは成立するのだろうか。
「お前らー!これからの予定を説明するぞー!」
先生が大声で概要を説明する。これから荷物を置いて昼食後グループで山道をウォーキング、その後簡単なオリエンテーリングをして夕食の準備ということらしい。俺は彼女たちと別れて宿泊室に向かう。
「よう、慎也。俺たち男子は全員8人部屋だってよ」
「智也か。8人も寝るって相当な大部屋なの?」
「いや、2段ベッドが4つあるだけらしい。言っておくが俺上に行くからな」
「俺はどっちでもいいよ・・・っと、ここか」
指定された部屋はたしかにベッドが4つで他は何もない部屋だった。もう他の6人は来ていたのだろう、荷物が乱雑にベッドに置かれ、空いているベッドは一つのみとなっていた。
「よし、俺が上使うからそっちよろしくな」
「はいはい。もうみんな行ってるようだし俺たちも急がないと」
俺たちも適当に荷物をおいた後食堂へ足を運んだ。
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「慎也君。こっちよ」
昼食後、宿泊室で体操着に着替えてから人混みの中彼女たちを探していると、後方で俺を呼ぶ声が聞こえたので踵を返してそちらに向かう。
「ようやく見つかったよ。優衣佳さんありがとう」
「いえ、合流できてよかったわ」
もう既に3人は集まっており俺待ちだったらしい。常に3人一緒に行動してるから当然かもしれないが。そんな彼女たちも俺と同じく体操着姿に着替えている。全員上下ともに長袖ものもを着用し、ジャケットを着ずに半袖姿なのは俺だけだった。
「慎也くん。これ」
「ん?これは?」
翔子さんは俺が来た途端駆け寄ってきて俺に一枚の紙を渡してくる。それを見ると山の地図とルートが簡単に書かれていた。
「グループでルート、違うらしい」
「そっか。受け取ってくれてありがとね」
「ん」
そう返事をして翔子さんはいつものように俺の真後ろに位置取る。
「前坂ー!次はお前たちのグループだ!」
しばらく地図を眺めていると不意にそんな声が聞こえた。声の聞こえた方を確認すると先生がこちらを見ている。俺たちの番が来たのか。
「お前たちで最後のグループだな・・・いいか?迷うことは無いと思うが万が一怪我とかしたら引き返すんだぞ」
「もちろんです。それじゃあ、行こうか」
「お~!」
俺の言葉に優愛さんが元気よく答える。俺たち4人は意気揚々と山道を歩き出した。
安心してください。事件は起こりません




