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034.出発の日

「やばいやばいやばいやばい・・・・・・・・!!」


 とある土曜日の早朝、俺は大急ぎでいつもの通学路を疾走していた。


「まさか林間学校の日に限って寝坊するなんて・・・!」


 そう、今日から一泊二日の林間学校。この日の集合時間はバスの時間の都合もあって普段より40分も早く集合することになっていた。

 幸い必要な荷物は前日に纏めて確認も完了済みだ。それで満足して意気揚々と寝てしまったのがまずかった。スマホのアラーム変更を頭からすっかり抜け落ちてしまい、起きた時には集合20分前。俺は簡単な身だしなみだけ整えものの5分で家を出ることには成功した。


「残り10分・・・!このペースで走ればなんとか!」


 着替えも含めた重い荷物を持ったまま走ること数分、携帯が震えていることに気がついた。この震え方はメッセージの受信だ。悪いけど今は確認するより学校に到着することのほうが先決だ・・・!




 更に走り、集合まで残り5分となったところで残り距離を計算する。これなら速歩きでも十分間に合いそうだ。俺はペースを徐々に落としていき、さっき受信したメッセージを確認しようとスマホを取り出す。ロックを解除しようとしたその時、突如画面が暗転してジリリリリ…と着信を知らせる音が辺りに響いた。相手は・・・優衣佳さんだ。


「はい」

「おはよう、慎也くん。もうすぐ集合時間だけれど間に合いそう?」

「うん。遅刻しそうになったけどさっきまで走ってたからなんとか。もうちょっとで学校着くよ」

「あら、まだ急いでるならもう少しゆっくり来ても大丈夫よ。あの集合時間、バスの時間より10分早めに設定してたんですって」

「なっ!?」


 俺は思わず立ち止まった。それならさっきまでの苦労はなんだったのか


「・・・その様子じゃあ、手前に送ったメッセージまでは読んで無いようね。一応、優愛が心配してたからできるだけ早く来てくれると嬉しいわ。それじゃあ」

「あっ、うん、それじゃあ・・・」


 その言葉を最後に電話が切れたのでメッセージを確認する。そこには優衣佳さんからの通知が1件残されていた。


『おはよう慎也くん。学校に来て知らされたのだけれど本来の集合時間は10分後ろにズレているそうよ』


 学校側にしてやられた。多分いつもと時間が違うから遅刻者が多く出ると予想したのだろう。それに見事はまったのが俺というわけだ。それでも前倒しの予定でなければ遅刻ギリギリだったのも事実、俺はできるだけ早足で学校に向かうことにした。




「あっ!慎也くん~!おっはよ~!」


 校門をくぐると同じ林間学校に向かうため高一の生徒でごった返しになっていた。そんな中優愛さんが俺の存在にいち早く気づき手を振ってきたので俺も合流を果たす。


「おはよう。優愛さん。なんとか間に合うことが出来たよ・・・」

「お姉ちゃんから聞いたよ?遅刻しそうになったんだって?珍しいねぇ」

「ついアラームのセットを忘れちゃってね。優愛さんも心配してくれたって聞いたよ。ありがとね」

「え?私は慎也くんなら大丈夫って確信してたよ? そういやお姉ちゃんがずっと挙動不審にムグッ」

「あら慎也くん、おはよう。間に合ってよかったわ」


 優愛さんと話している途中、優衣佳さんが突如その口を塞いで割り込んできた。


「優衣佳さんもおはよう。えっと・・・ありがとね?」

「なんのことかしら?私には検討もつかないわ」


 きっと優衣佳さんが俺の遅刻を心配してくれていたのだろう。お礼を言ったところシラを切られてしまったので俺もそれ以上は何も言及しないことにする。


「ウチの班はあと翔子さんだけ見てないけれど、二人は見た?」

「あれ?そういえばさっきまで私たち3人で話してたんだけどどこ言ったんだろ・・・」


 俺たち3人は翔子さんを探して辺りを見渡すがその姿は見えない。登校はしてるんだし大丈夫だろうと、探すのを止めようとしたとき俺の背中に体重が掛かった。


「おはよ」

「・・・・・・おはよう、翔子さん」


 週初め、家に遊びに行ってから彼女はほんの少しだけれど変わった。まず、昼休みには必ず俺を誘うようになった。すると必ず優衣佳さんと優愛さんも入ってくるから今週はずっと4人で食事を取っていた。更にもう一つ、変わったことがある。それは今もやっていることで・・・・・・


「翔子さん。人目もあるし、もういいんじゃないかな?」

「ん。もうちょっと・・・・・・」


 あの日以降翔子さんは俺の後ろに立つ際、止まっていれば必ず頭を俺の背中に当てて体重をかけるようになった。初めてそれをしたのは翌日の休み時間、優愛さんと話をしているときだったため、俺たちは相当狼狽した。しばらくそのままにしていると満足気に離れていったが、その日は大層智也にからかわれた。


「はい、翔子ちゃん!先生もきたしそこまで!」

「むぅ・・・仕方ない」


 優愛さんの呼びかけに翔子さんは素直に従って離れるが俺の後ろは相変わらず陣取ったままだ。

 遊びに行った日の帰り際に抱きしめられた件、あれ以降そのことを口にすることはお互いに無かった。けれどあらかさまな行動の変化、自意識過剰でなければそういうことでは無いだろうか。今日から始まる林間学校できっと二人で話す機会もあるだろうし、その時に真意について問いかけてみよう。


「ん。はやく」

「えっ?どうしたの?」


 俺が考え事をしていると突然翔子さんに引っ張られる。


「みんな、バス行ってる。私たちも」


 周りを見渡すといつの間にか先生の話は終わっており、みんなバスに向かっていた。少し集中しすぎてしまったようだ。


「えーっと、あれじゃ入り口で詰まるだろうし少し空いてからにしようよ。優衣佳さん。悪いんだけどさっき先生なんて言ってたか教えてくれない?」

「あら珍しい、聞いてなかったのね。ほとんど冊子に書いてあることのおさらいよ。あとは道中一回休憩を挟むってくらいかしらね」

「了解。それじゃあそろそろ・・・ってあれ?そういえば席順って考えてなかったんだけど、どうしよう?」

「ふっふっふ・・・」


 俺が問いかけたところで優愛さんが得意げに近づいてくる。


「そう言うと思って慎也くんが来る前に決めておいたよっ!私が慎也くんの隣でお姉ちゃんは翔子ちゃんの隣っ!!」


 優愛さんは拳を開いたまま天高く突き上げた。二人を見ると握りこぶしを見つめているようだ。あぁ、じゃんけんか・・・


「そっか。それじゃあ現地までよろしくね」

「任せなさい!それに慎也くん、遅刻しかけたんだったら朝ごはん、食べてないんじゃない?」

「そうだったね・・・すっかり忘れてたよ」

「ご安心を!ほら見て。私のカバン!」


 そう言って広げて見せたカバンの中身はお菓子で溢れていた。むしろそれ以外の物が見当たらない。


「あっ!優愛!これ昨日買わないから戻してって言ったやつでしょう!」

「これは私のお小遣いで買ったんだも~ん!それにお姉ちゃんとちがってそう簡単に太らないから大丈夫だしっ!」

「優愛・・・・・・帰ったら覚えておきなさいよ・・・・」

「やばっ!慎也くん、早く行こっ!」


 

 優愛さんに手を握られて一緒にバスへ走る。車内へ入ると後方はほぼ全てが埋まっており、前列しか空いていないようだった。幸いにも横4列はポッカリと空いていたので後からやってきた優衣佳さんらと共に空いていた席に座る。


「ほら、優愛さん。窓際の席どうぞ」

「いやいや、慎也くんこそどうぞ!」

「俺は車酔いとは無縁だから。優愛さんも窓際にいって酔わないようにしないと」

「私だってそう簡単に酔わないよ!さっきまで急いでお疲れだろうしね!ほら、早く休んで!」

「水泳やってて体力はそこらよりもあるからまだ平気だよ!ほら、そっちこそ立ち疲れたでしょ!」

「む~~!!」

「イチャイチャしてんじゃねーぞ!はよ座れ!!」

「へっ?・・・ぶっ!!」


 優愛さんと言い合ってたら突然外野から声がして何かが顔面に当たる。どうやら投げられたのはコンビニの菓子パンのようだ。

 後ろの席を確認すると智也が投球後のモーションのまま俺を見ていた。俺はそのまま優愛さんの言葉に甘えて大人しく奥の席に座る。この菓子パンはありがたく今日の朝食にさせてもらおう。


「よしっ!じゃあ隣座らせてもらうねっ!・・・そのパン、どうするの?」

「これ?さっき言ったように朝食抜いてたしね。ありがたく頂くことにするよ」

「え~!じゃあこのお菓子どうするの~?」

「え・・・優愛さん1人でも食べ切れるんじゃない?」

「そんなことないよ~!こんなに食べたら太っちゃう!」

「え? 優愛さんならその量でも・・・」

「なんだって?」

「・・・なんでもないです」


 バスに乗り込む前に言ってたことはなんだったのだろう・・・それを指摘しようとしたが謎の圧力により言うのははばかられた。


「だからね・・・はいっ!」

「あっ!!」

「これはもとの人に返しちゃいます!」


 俺の持っていたパンを優愛さんはひったくり智也に返してしまう。あぁ、せっかく降って湧いた朝食が・・・


「だからね、パンと比べちゃ物足りないと思うけど・・・一緒に食べよっ!」

「・・・そうだね。それじゃあ貰おうかな。朝ごはん抜いてきたんだ、俺一人で全部食べちゃうかもね」

「それで慎也くんのお腹が満たされるならどんどん食べちゃって!・・・楽しみだなぁ、林間学校」

「うん。俺も楽しみだよ」


 バスの扉が閉まってゆっくりと現地に向かって走り出す。まだ林間学校は始まったばかりだ。

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