027.はじめてのほっけー
「ふ~!お腹いっぱい!さて、次はどこで遊ぶ!?」
シューズを買った後、良い時間になったのでフードコートで適当に食事を済ませたあとのこと、優愛さんが次の予定について切り出してきた。
「こうなると思って入り口で店内の地図を貰ってきたわ」
優衣佳さんはそう言って俺たちが座っている4人掛けテーブルに地図を広げる。この抜け目なさはさすがだ。
俺たちは広げられた地図に注目する。改めてみるとリニューアル前と比べて見慣れない店名がかなりの数になっていた。いや、そもそもレディースのファッション店は前からほとんど知らないこともその要因の一つであろうが。
それから真っ先に動いたのは優愛さんだった。彼女は店に来た時に言っていたチョコレート店とその隣にあるシュークリーム屋の二つを指差す。
「優愛・・・・・・そんなに食べて・・・・・まだ大丈夫、なの?」
「うん!デザートは別腹だから!」
翔子さんの心配ももっともだろう。彼女のそばにはさっきまで食べていた食事の皿が積み重なっている。目測だが腹八分目まで食べた俺の1.5倍は食していたと思う。一体どこに吸収されているのか・・・・・・
「却下」
「ぶ~!」
「あなたは平気でも私たちが食べられないでしょう。少なくとも今食べた分は少しは消化しなきゃ行けないわ」
優衣佳さんが当然の理屈で一蹴する。優愛さんも理解したのか伸ばしていた手を下げていく。
「じゃあ、ここなら、どう?」
翔子さんが指を指した先はゲームセンターだった。たしかにここなら軽い運動をすることもできるだろう。俺も前回行ったのは春休みに入ったばかりの頃だっただろうか、智也とゲーセンで遊んだことがだいぶ昔のことのように感じられる。
「ええ。いいと思うわ」
「私も賛成!」
もちろん俺も賛成だ。これからの方針も決まったことでそれぞれトレイを片付けてゲーセンへと足を運ぶ。
着いた先は様々な騒音に溢れていた。優衣佳さんと優愛さんの二人は最近来ていなかったのか久しぶりだと話しながら両替機へ迷わず向かっていく。俺もそれに続こうかとした時グッっと服を引っ張られる感覚を覚え立ち止まる。
「・・・・・・翔子さん、どうしたの?」
「さっき提案しておいてなんだけれど・・・・・・ゲームセンター、初めて」
そう言う翔子さんの顔は少し眉が寄っていた。初めてゲームセンターに来る人にとってはこの乱雑とした環境に面食らうのは仕方ない。
「大丈夫だよ。ちょっとうるさいけど入ったらすぐ慣れると思う。でも、どういうところかは知っていたの?」
「ん、知ってる。・・・ホッケーっていうの、やってみたい」
「わかった。きっとここにもあるだろうから二人にも話しておくよ。それじゃあ、入れそう?」
「平気。いこ」
今まで俺の真後ろを歩いていたスタンスから一転して翔子さんは先々二人のもとへ向かう。その足取りは楽しみなのか軽やかのように見えた。
「遅かったね?どうしたの?」
二人と合流したら優愛さんが迎えてくれる。
「翔子さんがゲーセン初めてだから慣れるまで待ってたんだ」
「ん。ホッケーやりたい」
「翔子ちゃん初めてなんだ!奇遇だね!同じくゲームセンター二回目なんだよ!お姉ちゃんが!!」
俺は思わず優衣佳さんを見る。・・・・・フイッっと顔を逸らされた。
「・・・家族に連れられるまでゴチャゴチャしてるのが嫌で忌避してたのよ」
「私のお母さんが大好きでさ。よく一緒に遊んだものだよ~」
優愛さんは何度か遊んだことあるようで慣れた手付きで両替を行う。それを見た翔子さんも見様見真似で両替していた。
「それじゃあ、最初に何しましょうか」
全員が小銭を確保したところで優衣佳さんが切り出す。
「翔子さんもやりたがってたし、ホッケーでいいんじゃない?」
「そうね。優愛、どこにあるかわかるかしら」
「前来た時と変わってなかったらいいんだけど、あっちだよ!」
優愛さんの案内で入り組んだ機械の間を通っていく。少し歩いたところでホッケー台が見つかった。この大きさなら四人でも問題無さそうだ。
「よかった、変わらずあったよ~。チーム分けはどうしよっか?」
「適当にじゃんけんでいいんじゃないかな?」
「そうね・・・・・・じゃあいくわよ。じゃ~んけ~ん・・・」
優衣佳さんの掛け声に合わせてみんなが手をだす。
結果は俺と優衣佳さん、優愛さんと翔子さんのチームとなった。
「長身の二人が同じチームなんていいな~!」
「慎也君は知らないけど私はこれが初なのよ?むしろ慎也君と優愛が分かれてよかったわ」
「まぁ・・・それもそっかぁ。慎也くんはやったことあるの?」
「智也との対戦で何回かかな?今回は優衣佳さんのサポート頑張るよ」
「あら嬉しいわ。よろしくね」
「優愛・・・・・・私のこと、お願い」
「~~!!翔子ちゃんは私が守るよっ!」
翔子さんが上目遣いで優愛さんに頼むものだから優愛さんはギュッとハグをする。嫌がってるのかハグを受けている翔子さんの眉間のシワがさらに深いものに・・・・・・あ、でも頬も赤くなってるから恥ずかしがってるだけかもしれない。
俺はその隙に優衣佳さんを連れ、お金を投入し早々にゲームを始めることにする。
「ほら、二人とも!早く位置につかないとポイント入っちゃうよ!」
「あぁ~!慎也くんずるい!ほら、翔子ちゃん行こっ!」
「む。慎也くん・・・ゆるさない」
俺の掛け声に気づいた優愛さんは翔子さんの手をとって早々に位置についてゲームが始まった―――――――
「ふぅ・・・・・・」
俺は近くにあったベンチに腰掛ける。あのホッケーは俺たちの惜敗だった。後半、覚醒したのか初めてと言っていた翔子さんの腕が輝いて、差がついていたポイントに追いつき・追い越されたまま敗北が決定してしまった。
あの時一番悔しがったのは俺たち・・・ではなく優愛さんだった。「守ると言ったのに守られた~!」と翔子さんをまたハグしていたのが印象深い。更にハグされていた翔子さんが俺にドヤ顔見せつけて来たのは忘れられないだろう。
今女性陣はベンチからほど近い位置にあるUFOキャッチャーで遊んでいる。思った以上に二人と翔子さんの仲が進展して一安心だ。そう思った瞬間、頬に何か冷たいものが当てられる。
「うひゃあ!」
「・・・・・・あなた、凄い声出したわね」
隣を見ると優衣佳さんが立っていた。その両手には小さなペットボトルが。これを頬に当てたのだろう。俺は差し出された片方を受け取りお礼を言う。
「あのホッケーは凄かったね」
「ホントよ・・・差を付けて勝てるって油断したのが間違いだったわ。まさか翔子さんがあんなに上手くなるなんて」
「あれを眠れる獅子を起こすって言うのかな?意外な才能があるものだね」
「ええ・・・今日はありがとね。付き合ってくれて」
「俺も買い物あったり渡りに船だったよ。むしろ服見てくれてありがとう」
「あれくらい全然・・・・・・翔子さんは、今日ずっとあなたにベッタリだったけど、いつもああなの?」
「こうやって遊ぶのは初めてだからね・・・よく後ろに張り付かれたことはあったけど服掴まれるのは初めてかなぁ」
「そう・・・・・・翔子さんのこと、どう思ってる?」
「どうって、前は生徒会でお世話になったし、今はその縁もあってか仲のいい友達かな?」
「そう・・・」
なんだか妙に噛み合わないというか、いつもと違う妙な雰囲気を感じる。少し話辛い。
「生徒会では二人ともどんなことをしていたの?」
「う~ん、前も言ったけど基本先生の雑用だったね。いろんな式の設営だったりPTAの会議に出席したり、みんな真面目に仕事して特に問題とかは無かったと思うよ」
「それじゃぁ――――――」
「あぁでも・・・」
「・・・でも、どうしたの?」
「いや、春休み終盤からの出来事が強烈過ぎて生徒会の記憶が遠い昔のように感じちゃってさ。思い出すのが難しくなっちゃってるよ」
「・・・強烈?」
「二人に会って、凄く濃い日々送ってるな~って。いつもルーチンワークの日々だったからこういうのが楽しくって」
「そう・・・それはよかったわ」
一気に妙な雰囲気が無くなって空気が弛緩したような気がした。
「ところで慎也君。この写し―――――」
「慎也くん!」
優衣佳さんが何か話そうとしたところで翔子さんがやってくる。
「翔子さん、どうしたの?」
「優愛が狙ってるぬいぐるみがもう少しで取れそうなのにとれない!手伝ってっ!!」
普段ゆっくり喋っている翔子さんが珍しく饒舌に語りかける。初めて見た。
「わかった。今行くよ。優衣佳さん、さっき言いかけてたことって?」
「いえ、大したことないわ。ほら、優愛のとこに行きましょ」
二人がUFOキャッチャーまで歩いていく。俺も慌てて二人の後を追いかけていった。
◇◇◇
服を買ってから慎也君と翔子さんの関係が一気に縮まった気がする。原因は火を見るより明らかだ。
あの呼び方。お互い名字で呼んでいたのにいきなり下の名前で呼んでいた時は面食らった。彼は頼まれたと言っていたがそれに加えて何かあったのは確実だろう。私はしばらくそのことで頭がいっぱいになっていた。
その考えから開放されたのはホッケーを始めてからだ。私と彼は一緒のペアになり時たま手や肩が触れ合ったりして相当ドキドキもしたが二人で一緒に楽しむという経験を得たのは何よりも代えがたいものだった。
途中凄い羨ましそうな目で優愛に睨まれた。ごめんね、じゃんけんでペアになったのだから仕方ないわよね。
それからも楽しい時間は続き、UFOキャッチャーで二人が夢中になっているところ彼だけが休憩に離れていった。今だ。彼に翔子さんとのことについて聞くなら今しかない。
――――――――――彼の話を聞いて確信した。下の名前で呼んだのもずっと後ろにいるのも、全部彼のことを好ましく思ってるからだろう。それが恋愛感情なのかは残念ながらわからなかったが。
それに中学から一緒という私たちとは違う1年のアドバンテージ・・・そして彼の話す楽しそうな表情・・・彼と話しててこんなに辛くなったのは今までなかった。それでも我慢して聞いていると・・・・・・私たちとの時間が濃密だったと!記憶が霞むほどに楽しい日々だったって!!
私は地の底から天に昇ったような気になった。そこまで私たちの日々を大切に思ってくれてるとは・・・これならアレを見せたら思い出してくれるかもしれない。
そう思って部屋から持ってきた昔の写真を取り出そうとしたところで――――――――彼女が現れた。彼に今すぐ来てほしいと。
確実にこのタイミングで現れたのは偶然だろう。別に過去のことを思い出してもらわなくたって構わない。
1年のアドバンテージはこれからの時間と、その密度で上回ればいいのだから。
優衣佳の独白は書いてて楽しいです




