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026.呼び名の変え方

おかしい・・・・日に日に文字数が増えていってる気がする

「とうちゃ~くっ!」


 たどり着いた場所は最近リニューアルされたショッピングモールだった。


「ここかぁ・・・俺、新しくなってから来たこと無かったんだよね。優愛さんも初だからここにしたの?」

「うんっ!なんだか有名なチョコレートのお店が出店してるんだって!その店のソフトクリームが絶品らしくって是非食べてみたいんだよねぇ~」

「優衣佳・・・もしかして優愛って・・・花より団子?」

「もしかしなくてもあの子はそうよ。しかも食べても体型は変わらないわ」

「なるほど・・・・・・恨めしい」


 井野さんと優衣佳さんはなにか通じ合ったものがあったらしく二人して優愛さんを見つめていた。そして見られている本人はそんなこともつゆ知らず、店内の案内板を注視している。

 ・・・・・それにしても井野さんの二人の呼び名がいつの間にか呼び捨てになっていた。仲良くなってくれているようで何よりだ。


「あったよお姉ちゃん!チョコの店!早く行こうっ!!」

「待ちなさい。まずは買い物よ。食べるのはそれが終わってからでもできるでしょう」 


 優衣佳さんは店にダッシュしかけた優愛さんの腕を掴んで止める。むしろ言う前から後ろに立って腕を掴めるようにスタンバイしていた・・・完全に優愛さんの言動を読んでいる・・・・・・


「はぁ~い。じゃあ・・・私たちのお目当てはシューズで慎也くんは服。翔子ちゃんの目的を聞いてなかったけど何を買う予定なの?」

「・・・特に無い。面白そうだったからついてきた・・・・・・だから、買い物は任せる」

「そっかぁ・・・・・・お姉ちゃん、どうする?」

「ならまず慎也君の買い物から済ませましょうか。男の子の買い物はそんなに掛からないでしょ」


 ショッピングでの買い物は女性陣に一任する予定だ。途中、「別れてそれぞれ買い物しよう」と口を出そうとしたがグッとこらえる。以前、妹と買い物に来た時にその言葉を発してお小言貰った経験が役に立つ。




 それから店内を少し歩き飲食店につられてはぐれようとする優愛さんを引き戻すこと数回。なんとか誰も逸れること無く俺の目的地にたどり着いた。メンズの店でありながら値段もリーズナブルな学生に人気のファッションブランドだ。


「へぇ~~。男物しか売ってない店って初めて来たけど結構オシャレなもの多いんだねぇ」

「そうね。少し驚いたわ。ほら、優愛、あれなんてどうかしら?」

「あっ!いいね!私にも似合いそう!」

「いや、あなた。今回は慎也君の買い物なのよ。あなたの物を買ってどうするのよ」

「そうだった・・・慎也くん!私たちも慎也くんに似合いそうな服探してみるね!」


 二人はそう言ってずんずん店の奥に進んでいった。さすが女の子というか、買い物にかける熱はただ事じゃない。

 あの分なら俺は簡単にリストアップしてあとですり合わせるだけでいいだろう。


「前坂くん・・・・・・あの二人と会って、本当にまだ一週間?」

「ん?そうだけど・・・井野さんは二人について行かなかったんだね」

「女の子の買い物は・・・・戦争」


 女の子である井野さんがそれを言うか。井野さんはずっと俺の後ろをピッタリついてきてくれたのだろう、シャツの一部分が指で掴みやすいように形を憶えている。


「あの二人と、前坂くん。幼馴染とか兄弟みたい・・・・・・仲がいい」

「それは・・・優愛さんのあの明るさのおかげなんじゃないかな?ほら、人懐っこい性格でしょ?」

「友達には、たしかに。・・・・・けど、男子に対しては一切ない」

「え?」

「優愛も優衣佳も、男子と雑談してるのは・・・この一週間全くなかった。話しかけられても、適当にあしらってる」


 それは、つまり二人の友達認定は相当ハードル高いものとなっているのだろう。もしくは、また別の――――――


「話振っておいて悪いけど、考えなくていい」

「・・・・・・どういうこと?」

「あの二人は前坂くんに楽しんで貰いたいだけ・・・そう言ってた。だから余計なこと考えなくていい」

「そっか・・・」

「ん。それより。私に言うことは?」


 唐突な井野さんの問いかけに俺はしばらく疑問符を頭に浮かべていると井野さんはその場でゆっくりと一回転し始めた。なるほど。そういうことか。

 改めて井野さんの服装を見澄ます。彼女は水色のブラウスにクリーム色のサロペット、朱色のショルダーバッグに茶色のパンプスとカジュアルな印象で纏めていた。いつもしているローポニーテールが普段の印象よりもかなり大人びて感じられる。


「制服よりカジュアルで楚々とした感じが髪型と相まって大人びて見えるね。普段は可愛いけれど今日の格好は凄く綺麗に感じられるよ」

「ん。・・・・・・・・・・・ありがと」


 そう言って俺を無理やり180度回転させてまたシャツをつまむ。それ以上俺が何を言ってもうつむいて反応しなくなったから俺は服の選定作業に戻ることにする。




「おまたせ~!やっぱり服を選ぶのは楽しいねっ!」

「おかえり。俺のためにありがとね」

「全然いいよ~!それよりいくつか持ってきたから、慎也くんの好みに合うと良いんだけど・・・」

「よっぽどじゃなきゃ大丈夫だよ。背中に竜とかドクロの絵が書かれていたり穴が空きまくったり、そういうのだったらちょっと勘弁かな?」

「さすがにそんな突飛なものはこの店に無かったよ。でも、一度そういう服を着た慎也くんも見てみたいかも・・・」

「さ・・・さて、どんな服持ってきてくれたか見せてくれないかな?」

「あ、うん。お姉ちゃん。お願い」

「一瞬話が変な方向に脱線しかけて驚いたわ・・・このカゴの服だけど、どうかしら?」


 二人が選んだコーディネートは見事なものだった。値段も考えてくれていてセールをしている初夏~夏物が多くカジュアルタイプなものを中心に持ってきてくれていた。これは俺がピックアップした意味は無かったかもしれない。俺はこの中から予算内に収まりきる範囲内でジャケットシャツをいくつか選び取る。


「ありがとう、すごく良いよ。これらを買うことにするね」

「喜んでもらえてよかったわ。今度どこか行くときは是非その服を着てきてね」

「もちろん。会計するから少し待っててね」

「はぁ~い。いってらっしゃ~い!」


 俺は選んだ洋服をレジに通し、商品を受け取る。買い物を終えて二人が待つ店外へ行こうとすると後ろから声がかかった。


「待って」

「うん?」


 誰かに呼び止められて後ろを振り向くと井野さんが。

 そのまま俺に近づいてまたシャツをつまむと逆側の手を突き出してきた。


「これ」

「これは・・・この店の?・・・俺にくれるの?」

「ん」


 その手にはこの店の小さな紙袋が。

 井野さんから紙袋を受け取り中を確認すると紺と黒を基調としたボーダーのシルクハンカチが。


「ハンカチか。嬉しいよ。ありがとう」

「ん。それで・・・その・・・私のことも・・・」


 何か頼みでもあるのだろうか。何か言いたそうにしているが言葉が出てこないようだ。


「うん。俺にできることなら何でも言って」

「その・・・えっと・・・私も・・・名前で・・・・・・翔子って・・・」

「・・・・・・・・・うん。ありがとう。翔子さん」

「ん。それで・・・・・・いい。慎也くん」


 そういう翔子さんのつまむ指に力が入ったような気がした。




「おまたせ」

「おかえり~。慎也くん、ちゃんと予算内に収まった?」

「うん。そこはちゃんと計算したからね。それで次はどうする?」

「そうね・・・・・・次は私たちの靴を見に行こうと思うんだけどいいかしら?」

「もちろん。来週用のシューズだね。翔子さんはちゃんと持ってる?」

「持ってる・・・去年のが使える」

「それはよかった。それじゃあ――――」

「「慎也くん!!」」


 次の店に進もうとしたところで姉妹からブロックが。


「いいいい今・・・ししし翔子ちゃんを・・・・・・呼び捨てに・・・・・!」

「それはさっき―――――」


 説明しようとしたところでまたも翔子さんが俺の後ろから移動して腕を抱く。


「さっきの短時間でまさか・・・・・!!」

「まってまって!このやり取り以前にもあった!!単に呼んでほしいって頼まれたから呼び方変えただけだよ!二人とも下の名前で俺だけ名字呼びってのもなんだかアレだし!!」


 優衣佳さんの言葉を遮りなんとか説明をする。念の為貰ったハンカチのことは伏せておく。


「あぁ・・・・・・そういうことね。ごめんなさい、少し取り乱したわ」

「ごめんね慎也くん。驚かせちゃって」

「誤解が解けたようで何よりだよ。それじゃあ次の店に進もうか。ほら、翔子さんも」

「ん」


 そう簡潔な返事で翔子さんは抱いていた腕をほどいてまた後ろの定位置に戻っていく。

 次は二人が学校用のシューズを買うだけだし特になにも起こらないだろう。




 ―――――――そう思っていた時が俺にもありました。


「優愛、ほらこれ。夏に向けての新作ですって!」

「あぁ~!可愛い~!!値段もいい感じだし買っちゃう?」

「待って優愛!こっちのサンダルが特価になってるわ!」

「そっちも可愛い~!あっ!ほらお姉ちゃん!あっちにも!――――」


 と、目的のものそっちのけで物色したり。いざ目的のグラウンドシューズを見ていたら


「お姉ちゃん!こっちの靴下も体育の時いいかも!」

「優愛。靴下は前に新調したでしょ」

「でもこの柄!かわいくない!?」

「たしかに可愛いわね・・・・・・でもこの柄ならあっちのほうが――――」


 と、突然の脱線により目的から大きく外れたり。と思ったら、


「じゃあ、優愛。もう良いわね?」

「うん。大丈夫・・・・・店員さ~ん!!」


 いつの間に選び終わっていたのかサクサク会計を始めたりと・・・・・・・

 これはたしかに・・・・・・・翔子さんが言っていた通り。女の子の買い物は・・・戦争だ―――――――。

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