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028.ぬいぐるみ

「来てほしいって聞いたけど、どんな感じ?」

「待ってたよ!ほら見てよこれ。もうちょっとで取れそうなんだけどなぁ」


 俺たちが着いた時優愛さんは様々な角度から筐体を見渡していた。

 俺もUFOキャッチャーを確認する。・・・そのガラスの先にはとてつもなく大きなクマのぬいぐるみが鎮座していた。この大きさは翔子さんなら上半身くらい埋もれてしまうだろう。


「こんな大きいの取ろうとしてたんだ・・・」

「それでここ!落とすところが少し段差になっててさ、今まで頑張って滑らせてきたけど動かなくなっちゃったんだよね~」


 確かに落下口はそれまでの位置より少しだけ高くなっているようだ。これ以上はぬいぐるみ持ち上げないことには取ることはできないだろう。


「とりあえずあと4回クレジット残ってるからみんなでやってみようよ!ほら、お姉ちゃんよろしくっ!」

「しょうがないわね・・・」


 最初に優衣佳さんが挑戦する。しかし軽くクマの下半身が浮かんだもののすぐ落ちてしまいほとんど動きはなかった。


「・・・・あぁ、私には無理そうだわ」


それを見て優愛さんは翔子の背中を押して筐体の前へ誘導する。


「私も、次こそは・・・・!」 


 翔子さんの挑戦も残念な結果になってしまった。なんとか頭部分を持ち上げることができたが重心からズレていたのかほんの少し進むだけで落ちてしまう。だが軽く頭の部分が段差の上に乗ったので進んだと言えるだろう。


「・・・・・・・・・・・・むぅ。失敗」

「ほんのちょっとだけど進んだよ!凄いよ!それじゃあ次は慎也くん!頑張って!」

「あとちょっとだしあと数回で終わらせたいね」


 俺はアームを操作するため筐体の前に立つ。この筐体は制限時間内であればレバーを動かして落下箇所を調整できるタイプのようだ。正面と横からも確認し落下箇所を予測しながらレバーを動かした。

 ある程度移動してから再度側面から見て位置を確認する。これだともう少しレバーを奥に倒せば重心を捉えれるだろう。俺はもとの位置に戻ってレバーを倒し――――――――


「いけそう?」

「うわぁ!?」


 思っていた以上に俺は集中していたようだ。普段なら驚かないはずの言葉に不意をつかれた。その拍子に手を添えていたアーム落下ボタンに力が入って・・・・・押してしまった。


「あっ、ごめん!驚かすつもりなくって!」

「いや、俺も集中しすぎて気づかなかったのが悪いから」


 優愛さんは動揺しているのか目が右往左往している。俺もいい言葉が出ず、驚きすぎたと軽く自己嫌悪してしまう。


「二人とも、見て」


 翔子さんの言葉で俺たちは筐体の方に目を向ける。そこにはアームがクマにジャストフィットし少しずつ持ち上がっていくのが見えた。だんだん持ち上がって、アームの最高高度から半分を過ぎた辺りで――――――落ちた。落ちたクマは軽くバウンドする。その際落下地点の方向にズレて、着地後何度か揺れて・・・・・・落下地点に落ちていった。


「「・・・・・・・・」」


 何も言葉が出なかった。きっと見た目から予測できる重心と本当の重心はズレていたのだろう。俺が間違えて押してしまった先こそ重心があったということだ。

 俺たちが固まってるのに煮えを切らしたのか翔子さんがしゃがんで受け取り口からぬいぐるみを取り出す。その後、俺に突き出してきた。ぬいぐるみが大きすぎて翔子さんの身体が全く見えなくなってしまい、ぬいぐるみが浮かんでいるようにも見える。


「慎也くんが、取ったんだから・・・はい」

「あ・・・・・・ありがとう」


 素直に受け取ったはいいものの完全に偶然だった。いろいろな要因が重なって運良く取れたものだろう。だから・・・。


「優愛さん。はい、どうぞ」

「・・・? 私?」

「もちろん」

「でもでも、取れたとはいえ迷惑かけちゃったし私が受け取る資格なんて・・・」

「優愛さんがあの時合図してくれたから取れたんだ。だから俺と優愛さんとで一緒にとったようなものだよ。だから・・・これを受け取ってあの家をもっと華やかにしてくれると嬉しいな」


 あの生活必需品以外何もない家をだ。こうやって少しづつ物を増やしていけばきっと華やかなものになるだろう。


「・・・・・・ありがとう。慎也くん」


 優愛さんはぬいぐるみを受け取り嬉しそうに微笑んだ。俺もその目に溜めた涙が止まるのを見て微笑んだ。



 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――


「ムニャムニャ…………シュークリームおいしい~」

「この子、お店で買えなかったからって夢の中でシュークリーム食べてるわ」

「あはは・・・夢の中ならいくら食べても大丈夫だね」


 俺たちは三人で帰りのバスに乗っている。あの後俺たちは優愛さんがずっと行きたがっていたチョコレート屋でソフトクリームを食べた。確かにチョコの味が濃厚で話題になるだけはある、想像以上に美味しいものだった。その後隣のシュークリーム屋に突撃しようとしていた優愛さんを優衣佳さんと翔子さんは全力で止めた。「これ以上はカロリーが大変なことになるから辞めてくれ」と・・・。そんな二人の言葉に優愛さんは折れ、そのまま解散の運びとなった。

 翔子さんはそのまま駅で帰宅、俺は二人を送るため三人でバスへと乗り込んだ。

 乗り込んだバスは俺たちの独占状態になっていたので一番後ろの席に座ったところ、真っ先に中央に座っている優愛さんは眠りこけてしまった。


「今日は楽しかったわ。ありがとう」

「俺も楽しかったよ。優衣佳さんもあれだけ動けるなら次の身体測定も楽勝だね」

「あら、簡単に言ってくれるわね。大変だったのよ、慎也君についていくの。・・・優愛へのぬいぐるみも、感謝してる。あの子は絶対大切にするわ」

「あれはたまたまだったけどね」

「それでもよ。あの子も良い思い出になったわ」

「なんだか優愛さんのモノって感じだけど優衣佳さんも、姉妹なんだしたまに借りてもいいんじゃない?」

「・・・・・・? いいの?」

「もちろんだよ。優愛さんが良いって言えばだけどね。あ、あの広いリビングに置いてもいいかもしれないね」

「ふふっ、そうね。帰ったら優愛と話し合ってみるわ」


 夕焼けに照らされて微笑む優衣佳さんの顔がとても綺麗に映る。俺はついついそれに目をとられてしまった。


「うう~ん・・・」

「ちょっ!?」


 そんな時だった。座ったまま器用に眠っていた優愛さんが体制を変えてこちらへ倒れてくる。咄嗟に肩で受け止めようとしたがそれも無駄な努力。彼女はそのまま俺の方に倒れ込んでいき、その頭は綺麗に俺の膝の上へと収まってしまう。


「あはは・・・・・・本格的に寝ちゃったね」

「えぇ・・・そうねぇ・・・・・」


 俺の言葉に優衣佳さんは口端を釣り上げて笑顔で返す。その後彼女はカバンからショッピングモールの地図を取り出して器用に丸めてから――――――


「優愛、わかってるわよ。起きなさい!」

「いたぁ!・・・くない?」


 優衣佳さんは盛大にその丸めた地図を優愛さんの頭へ振り抜いた。彼女は膝の上から離れて椅子に座り直す。


「もう~。もっと優雅な起こし方をしてくれないかなぁ?」

「どさくさに紛れて変なことをしようとするのが悪いんでしょう?」

「変なことって人聞きが悪くないかな?」


 二人はまた言い争いを始めてしまった。言い争いといっても二人とも笑顔なので俺は何も言わずに正面を向く。相変わらず乗客はいない、そのままボーッとしだしてなんだかだんだん眠く・・・・・・






       ◇◇◇



 私が眠りから覚めた時はまだバスは着いておらず、慎也くんはお姉ちゃんと二人でなにか話し合っていた。ぬいぐるみをリビングへ・・・?私の部屋に置いていたかったけど、慎也くんが言うのなら、たまになら良いかもしれない。たまになら。チラッと薄目を開けると慎也くんはなにかに見惚れている様子だった。そのまま反対側を確認するとお姉ちゃんが微笑みを見せている。しかも夕日に照らされて凄く綺麗に。

 これは許せない!私は即行動に移した。眠っているフリをして慎也くんの膝の上にダイブ!!あぁ・・・こんな感じなんだぁ・・・・・なんだかいい香りも感じられて安心感が凄く――――――


「優愛、わかってるわよ。起きなさい!」


 お姉ちゃんにはしっかりバレていた。

 そこから私たちの言い争いが始まる。昔は言い争い自体が無かった。言い争いをするようになったのは春休みのあの日以降だ。そんな言い合っている私の頬が上がっているのを感じる。お姉ちゃんも笑っている。私たち二人とも笑顔だ。

 そんな楽しい言い争いを楽しんでいると・・・・・・不意に膝の上に何かが倒れたのか重さを感じられた。


「えっ・・・?ちょっ!慎也くん!?」


 倒れてきたのは慎也くんの頭だった。彼は綺麗な寝息をたてている。

 私はどうすればいいかわからなかった。お姉ちゃんに助けを求めるとふくれっ面になって「好きにしなさい」と投げられてしまう。


 私もどうしようもないから、ただただされるがままでいる。幸い寝相が悪いということもなく彼は横になったまま動静かに寝息をたてている。

 これくらいならいいかな、と私は彼が起きるまでその茶色くなった髪を静かに撫で続けていた―――――――――――。

運転手「イチャイチャしやがってぇ・・・・・・・・!!!」

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