13:薔薇の茶会(二)
真っ先に動いたのはシンデレラだった。椅子を引いて立ち上がり、驚愕と心配がないまぜになったような顔でアリスを見つめる。
「アリス、大丈夫なのか? 歩くのも辛いと伺っていたのだが……」
「はい。休んだおかげで、だいぶ楽になりました」
「そうか、それは良かった。だが、無理をするんじゃないぞ?」
常とは違うアリスの口調に違和感を覚えたのか、シンデレラは少し首を傾げたが、結局それには言及しないで微笑む。
それと入れ替わるように鼻を鳴らしたのはラプンツェルだ。
「遅いんだよ、アリス。今頃のこのこ現れやがって。病人はおとなしく部屋にこもってたらどうだい? アンネ姐さんに伝染したりしたら、承知しないよ!」
「はい、ラプンツェル様」
ほぼ恫喝である文句に、アリスは怯えるどころか、にこやかに応じた。
「お心遣いに感謝いたします。ですが皆様にお伝えしなくてはならないことがありますので……申し訳ありません」
「なっ……ア、アタシがいつ気を遣ったよ、気味悪いな!」
まさか感謝が返って来るとは思わなかったのだろう。まるで得体の知れない物でも見たかのように、ラプンツェルが顔をしかめて後ずさる。
「しかもなんだ、ラプンツェル『様』って……変なもんでも食ったんじゃないだろうな?」
「熱でおかしくなったのかしらね。それはそうとアリス。今言ったことは本当かしら?」
見送りの侍女たちをやんわりと押しのけて、アンネローゼが訊ねた。見定めるように目を細めて、アリスに問いただす。
「『皆様にお伝えしなくてはならないこと』……期待していいのかしらね?」
「はい、もちろんです」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
返答に満足したようにアンネローゼが再び着席した。それにならってラプンツェルも渋々座り直す。その様子を横目にしながら、イザベラはアリスの耳元で小さく叫んだ。
「あんた、なんで出てきてるの! それに話って……大丈夫なの!?」
「はい、大丈夫です」
「って、そうとしか答えられないんだったわね……」
肯定しかできない姫に、イザベラは頭痛をこらえるように額を手で押さえた。そんな女王を見返して、アリスはくすりと微笑んだ。
「本当に大丈夫ですから、安心してください……まずは皆様、お集まりくださったことに感謝します」
イザベラに着座を促して、アリスもシンデレラの隣の椅子に座った。そこはアンネローゼの真向かいでもある。
姫たちが無言で続きを待っているのを確認し、アリスは口を開いた。
「お話したいこととは他でもありません。最近、シュネーケン近郊で頻発している魔物事件についてです」




