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異聞始末録  作者: 黒サケ缶EX
異聞始末録  幽囚の魔女
8/54

第八章  終



施設の外へ出ると、森は相変わらず静かだった。


鳥の声は聞こえず、木々の枝葉もほとんど動いていない。


しかし、地下から伝わっていた振動は消えていた。


サエキは廃道を戻り、森を抜けた。


丘の草地には、穏やかな風が吹いていた。


陽光が斜面を照らし、遠くの雲がゆっくりと流れている。森の手前まで戻ると、地上の世界は何事もなかったかのように見えた。


彼は一度だけ振り返った。


木々の奥に、施設の姿は見えない。


それを確かめてから、丘を下りた。


屋敷につくと、サエキは老紳士との面会した。


用意された部屋には、以前の通話で見たのと同じ男が座っていた。机上には書類が整然と並べられている。


「お帰りなさい。ご無事で何よりです」


老紳士は立ち上がり、丁寧に頭を下げた。


「ご依頼の幽囚の魔女ですが、討伐しました」


サエキは報告書を続けた。


「施設内で確認された個体は、すでに存在しません。記録上の特徴とも一致していました。今後、同じ個体が現れる可能性は低いでしょう」


「ありがとうございます。これで、犠牲者が増えることもないのですね」


「少なくとも、あの魔女については」


サエキは報告書を開いた。


「ただ、封印の異常は残っていました。魔女の処理によって古い封印の一部が崩れたため、こちらも組み直しています。現時点では安定していますが、対象そのものを消滅させたわけではありません」


老紳士は報告書に目を落とした。


「再封印ということですね」


「ええ。完全な解決ではありません。ただ、以前のように魔女の身体を封印の要にする構造はやめました。今後は定期的な計測と、異常発生時の対応が必要です」


「承知しました。管理体制については、こちらで改めて検討いたします」


老紳士は書類を閉じた。


「追加作業が発生したことについても、契約の範囲内で対応いたします。報酬の再交渉を希望されるのであれば、内容を確認させてください」


「すでに明細をまとめてあります。魔女の討伐だけなら、当初の見積もりで問題ありませんでした。ただ、封印の再構築は別です。作業量も危険度も、想定を超えています」


「もっともです」


老紳士は、すぐに答えた。


「当初の情報に不足があったことは、私も認めなければなりません。追加報酬については、妥当な請求として受け入れます」


「ありがとうございます」


「こちらこそ。依頼した仕事を完遂していただいたことに、感謝します」


老紳士は改めて頭を下げた。


契約金、危険手当、秘匿に対する補償、そして追加作業への報酬。


約束された金額は、すべて支払われることになった。


老紳士は余計な説明を求めなかった。


サエキも、必要以上のことは話さなかった。


今回の仕事は終わった。


人間を襲い、四人の命を奪った幽囚の魔女は、もういない。


それが依頼の中心であり、最も重要な結果だった。


⸻


帰国後、サエキはしばらく仕事を入れなかった。


破損した装備を買い替え、使い切った護符を補充し、今回の仕事の記録を書に記す。身体に残った疲労が抜けるまで、余計な依頼は受けないことにした。


ある夜、彼は自宅の机で、記録書を読み返していた。


犠牲者四名。


幽囚の魔女。


封印施設。


そして、底喰い。


魔女は、自分の欲望のために他者を利用し、最後までそれを悔いることはなかった。


彼女にとって、他人の命は自分の目的を妨げない限り、価値を持たなかったのだろう。


だからこそ、サエキは彼女を討伐した。


説得の余地はなかった。


反省を期待する理由もなかった。


ただ、放置すれば、また誰かが死ぬ。


それだけで十分だった。


サエキは記録書を閉じた。


机の隅には、新しく用意した護符が積まれている。


窓の外では、車の走る音が聞こえた。


街はいつもどおりだった。


彼はコーヒーを淹れ、椅子に腰掛けた。


今回の仕事は終わった。


生きて帰った。


報酬も受け取った。


それでいい。


遠い異国の丘の下では、底喰いが再び眠りについている。


封印は、今も機能している。


幽囚の魔女は死んだ。


彼女が最後に何を叫んだのか、サエキは知らない。


知る必要もなかった。


ただ、彼女が望んだものは、最後まで彼女の手には戻らなかった。


異聞始末録 ―― 幽囚の魔女


人間から「幽囚の魔女」と呼ばれていた存在を討伐。

意思疎通は可能だったが、最後まで話が通じていたとは思えない。

討伐後、封印の奥に別の異常存在を確認。どうにか再封印したが、あれを解放するのは割に合わない。

魔女は最後まで自分が死ぬとは信じていなかった。あの表情は、覚えておく価値がある。

                  記録者 サエキ




名もなきモノの記録


『幽囚の魔女』

この世に魔女が何人いるか誰もわからない、その内の1人。

私は見た、彼女と会話をした者は彼女の奴隷になってしまう。

魔女との会話は危険が伴う。

彼女は何かを求めているようだ、だがうまく聞き取れない。

私に彼女の求めるものを用意できるであろうか。


幽囚の魔女が求めるモノそれを知る者は、今ではもう残っていない。




?????


『底喰い』

知ってはいけない。触れてはいけない。

与えてはいけない。・・・いけない。

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