↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異聞始末録  作者: 黒サケ缶EX
異聞始末録  幽囚の魔女
5/54

第五章 綻び



サエキは、魔女を拘束している術式の解析に取りかかった。


封印は単純な拘束ではなかった。


魔女の身体を固定し、その力を抑え、同時に地下の底喰いへと続く術式を維持する。複数の機能がひとつの構造に組み込まれている。


この状態で魔女を殺せば、封印に大きな変化が生じる。


しかし、彼女を残したままでは、今後も同じ被害が起こり得る。


討伐は必要だった。


その後の封印処理も、避けては通れない。


サエキは新しい術式を組み立てた。


古い封印をそのまま再現するのではなく、魔女の身体を基点にしている部分を取り除く。底喰いの性質を利用する仕組みも切り捨て、存在する範囲を固定するための拘束陣へと置き換える。


完全に消滅させる方法は見つかっていない。


ならば、確実に閉じ込める。


それが現実的な判断だった。


作業の途中、魔女が口を開いた。


「あなたは、ずいぶん慎重なのね」


「仕事だからな」


「私を殺せば終わる。それだけの話でしょう」


「終わらないから調べてる」


「封印など、壊れたらまた作ればいい」


サエキは記録から目を上げた。


「簡単に言うな。お前が使っていた封印は、今にも崩れそうだ」


「私がいたから、これまで保っていたのよ」


「そうだな。だから、その構造を変える」


魔女は鼻で笑った。


「人間が?」


主人公は答えなかった。


魔女の表情には、相手を見下す余裕があった。


彼女は長い年月を生きてきた。自分より弱いものを利用し、邪魔なものを排除し、危険なものは自分の利益になる間だけ手元に置いてきた。


目の前の男も、同じだと考えていた。


腕の立つ人間なのだろう。


だが、人間である以上、限界がある。


彼女はそう信じていた。


サエキは作業を続けた。


魔女に近づき、護符を置き、術式の接続を確認する。彼女が何かを仕掛けようとする気配はあったが、主人公の防護は揺らがなかった。


最初の呪いも、二度目の干渉も、結果は同じだった。


何も起こらない。


魔女は、次第に口数が減っていった。


自分の力が通じないことを、彼女はまだ認めていない。だが、無視することもできなくなっていた。


「お前は、俺をどうするつもりだった」


主人公は作業の手を止めずに尋ねた。


魔女は彼を見た。


「どう、とは?」


「俺がここに来たことは分かってる。俺を操れない。脅しても退かない。なら、次は何をするつもりだった」


答えを期待した質問ではなかった。


魔女が自分の置かれた状況をどの程度理解しているのか。どんな選択肢を考えているのか。返答の内容より、その反応を確かめるための問いだった。


「あなたは、私を殺せないわ」


魔女は答えた。


質問とは、わずかにずれていた。


「それが答えか」


「事実よ」


「そうか」


サエキは再び作業に戻った。


魔女は、それ以上何も言わなかった。


しかし、彼が部屋を出るまで、その視線はずっと背中を追っていた。


彼女は、まだ余裕を失っていないつもりだった。


だが、サエキの作業は着実に進んでいた。


呪いは通じない。


拘束を利用して彼を襲うこともできない。


封印を解くための術式は、少しずつ切り離されている。


これまでなら、相手が自分の思惑に従わなければ、別の方法を選べばよかった。相手が何を考え、何を恐れ、何を望んでいるかを読み取り、そこにつけ込めばよかった。


だが、この男には隙が見つからない。


彼は魔女の言葉を真に受けず、怒りも恐怖も見せず、必要な作業だけを進めている。


それが、彼女には理解できなかった。


そして、理解できないものは、魔女にとって不快だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。