君に必要とされるなら
インディーズの頃。
俺たちは憧れのバンドの真似ばかりしていた。
服装。
髪型。
歌い方。
全部。
少しでも近づきたかった。
でも。
どうしても埋まらないものがあった。
声だ。
憧れのボーカルは低くて、掠れていて、影があった。
一方、俺の声は高い。
よく通るけど。
重さも色気もない。
真逆だった。
タバコを吸えば変わるだろうか。
酒を飲めば。
歌い方を変えれば。
色々試した。
でも大して変わらなかった。
日に日に自信だけがなくなっていく。
俺じゃない方がいいんじゃないか。
もっとバンドに合うボーカルがいるんじゃないか。
そんなことばかり考えていた。
ある日。
俺は玲を呼び止めた。
「……相談あるんだけど」
機材を片付けていた玲が顔を上げる。
「何?」
少し迷ってから言った。
「俺の声……バンドに合ってないんじゃないかって思って」
玲は首を傾げた。
「……どの辺が?」
「高くて」
「重くないし」
「目指してる方向と違う気がして」
玲はしばらく考える。
そして言った。
「あー」
何か思い当たったらしい。
「TEMPTATIONとか?」
憧れのバンドのひとつだ。
「そう」
俺は頷いた。
玲は腕を組む。
「うーん」
少しだけ考えて。
本当に何でもないことみたいに言った。
「俺、奏の声好きなんだよね」
「……え」
思わず聞き返す。
玲は平然としていた。
「だから関係ないっていうか」
「……そう、なんだ」
「うん」
それだけだった。
説教もない。
励ましもない。
お前なら大丈夫、みたいな言葉もない。
ただ。
玲は俺の声が好きだと言った。
それだけ。
なのに。
胸の奥に張り付いていた不安が少しだけ軽くなった。
「ありがと」
小さく言う。
玲は肩をすくめた。
「別に」
そして機材を担ぐ。
「それにさ」
振り返りもせず言った。
「奏がいなきゃ、意味ない」
俺は目を見開く。
玲は少しだけ立ち止まる。
「なーんつって」
そう言って笑った。
俺もつられて笑う。
だけど。
胸の奥が少し熱かった。
玲はきっと気づいていない。
自分がどれだけ嬉しいことを言ったのか。
「ほら、帰るぞ」
「あ……うん」
慌てて後を追う。
その背中を見ながら思った。
もう少しだけ。
頑張ってみようかな。
と。




