D-SOUNDS 1/2②
スタジオへ戻る。
リハーサルの続きが始まる。
玲は、もう考えないことにした。
本当は。
哲也の歌声を何度聴いても、どこか納得できなかった。
でも。
秀治に言われた言葉が頭を離れない。
『奏の声探してるんだろ』
違う。
違う。
――コイツは、奏じゃない。
演奏をしながら。
玲は何度も自分に言い聞かせた。
数分の曲が、やけに長く感じる。
頭の中では。
気づけば奏の歌声ばかりが流れていた。
(……会いたい)
その想いだけは、どうしても消えなかった。
⸻
無事にリハーサルが終わる。
「お先に失礼します」
代役の二人が頭を下げてスタジオを出ていく。
「お疲れー」
楽器を片付けながら、秀治と玲は二人を見送った。
しばらく無言だった。
「……哲也の声、よかったっしょ?」
「……まあ」
秀治が苦笑いする。
「納得してねーな?」
「……してる」
「嘘つけ」
玲は黙った。
「哲也、別に悪くねぇじゃん」
しばらく黙っていた玲が、小さく口を開く。
「……なんか妙に、奏に会いたくなって」
少しだけ笑う。
「変かな?」
秀治はドラムスティックをケースへしまいながら答えた。
「俺もさ」
玲が顔を上げる。
「たまに思うよ」
「ここ、奏ならこう歌うなって」
玲は少し驚いた。
「……お前も?」
「当たり前じゃん」
秀治は笑う。
「五年も一緒にやってきたんだぞ」
「比べることくらいある」
玲は少しだけ安心したように息を吐く。
「……だよな」
「でもさ」
秀治の表情が少し真面目になる。
「俺は会いたいとは思わねぇ」
玲の動きが止まる。
「……え?」
「今は今だから」
秀治は機材バッグを肩に掛けた。
「奏とやってた時間は大事だよ」
「でも、もう終わったことだし」
「思い出すことはあっても、会いたいとは思わねぇな」
玲は何も言えなかった。
秀治は玲を見た。
「お前は違うみたいだけど」
「……」
玲は答えられない。
会いたい。
さっきから頭の中にあるのは、その気持ちだけだった。
秀治はそれ以上聞かなかった。
「じゃ、お先」
軽く手を上げてスタジオを出ていく。
ドアが閉まる。
静まり返ったスタジオ。
玲はケースを持ったまま立ち尽くしていた。
(俺だけ……?)
秀治も奏と比べている。
それでも。
会いたいとは思わない。
なのに俺は。
会いたい。
声が聞きたい。
もう一度、一緒に音を鳴らしたい。
それだけじゃない。
顔が見たい。
笑ってほしい。
くだらない話をして。
また隣で笑っていてほしい。
玲はゆっくり目を閉じた。
「……なんなんだよ」
自分でも分からなかった。
どうして、こんなにも会いたいのか。
その呟きは、誰もいないスタジオに静かに溶けていった。




