D-SOUNDS 1/2
解散後。
秀治と玲は、D-SOUNDS 1/2というライブをやることになった。
ボーカルとベースは代役。
知り合いのミュージシャンに頼んだ。
リハーサルスタジオ。
哲也の歌が終わる。
玲は腕を組んだまま黙っていた。
「……もう一回いい?」
「うん」
哲也が頷く。
演奏が始まる。
歌が入る。
玲は首を傾げた。
「……そこ、もう少し高くできる?」
「わかった」
哲也は歌い直す。
でも。
違う。
「ごめん。もう一回」
哲也は困ったように笑う。
「了解」
三回目。
四回目。
五回目。
「……何か」
玲が言いかけてやめる。
スタジオの空気が少し重くなる。
見かねた秀治が立ち上がった。
「ちょっと休憩しようよ」
玲を見る。
「な?」
玲はしばらく黙っていたが、
「……わかった」
短く答えた。
ーー
喫煙所。
秀治は缶コーヒーを開ける。
玲は煙草に火をつけた。
しばらく沈黙。
やがて秀治が言う。
「……玲、変じゃね?」
「何が」
「何がじゃねーよ」
秀治は苦笑する。
「哲也、別に下手じゃないじゃん」
「……うん」
「なのに何回やらせんの」
玲は煙を吐く。
答えない。
秀治は続けた。
「何か違うんだよ、じゃ説明になってねーし」
玲は少しだけ眉を寄せた。
「……何か、違うんだよ」
「だから」
秀治はため息をつく。
「アイツは奏じゃないんだから、違うに決まってんじゃん」
玲の動きが止まる。
「……そうだけど」
「そうだけどじゃねーよ」
秀治は笑う。
「お前さ」
コーヒーを飲んだ後言った。
「奏の声探してるんだろ」
玲はすぐに首を振る。
「……探してない」
「へー」
「探してない」
少しだけ強い口調。
秀治はそれ以上言わなかった。
飲み終わった缶をゴミ箱に捨てる。
「とにかく、そういうことだから」
立ち上がる。
「頭冷やせよ」
そう言ってスタジオへ戻っていった。
ーー
一人になる。
玲は煙草を見つめた。
細い煙が、
ゆっくり空へ溶けていく。
……探してなんか。
そう思う。
思うのに。
耳の奥で。
歌声が聞こえた。
『誰よりも愛している』
昔のスタジオ。
マイクの前で歌う奏。
目を閉じて。
少しだけ苦しそうに。
でも幸せそうに。
歌っていた。
玲は目を閉じる。
煙草を吸う。
肺の奥が熱い。
……探してなんかない。
そう呟く。
だけど。
哲也じゃなく。
奏だったら。
こう歌う。
こう笑う。
この曲のここで、俺と目を合わせる。
気づけば。
そんなことばかり考えていた。
秀治の言葉が頭をよぎる。
『奏の声探してるんだろ』
違う。
そんなわけない。
もう終わったんだ。
何年も前に。
終わったはずなのに。
玲は煙を吐く。
白い煙が視界を覆う。
奏。
なんでいないんだよ。
なんで。
なんで俺は今更。
こんな気持ちになってるんだよ。
煙だけが、
静かに空へ消えていった。




