鏡
性的描写が含まれています。
アラは時間を見てソンの元に向かった。
ソンはアラの訪れに驚いた。だが、快く受け入れた。
「公子さま、わたくしめをお助けくださいませ」
「何か訳がありそうですね。客間で話を聞きましょう」
ソンは優しくアラの腰に手を回した。それにアラは気づいていたが、知らないふりをした。
客間に向かうと見計らったように侍女が現れて茶菓子を出してきた。
「アラ殿、どうなさったのです?」
「ある男を京から追い出してくださいますか?」
ソンは笑った。いきなり何を言うのかと思うと笑うしかいられなかった。
「あはは、いきなり何をお話するかと思えば……その願いを叶えるのは可能ですよ。ちなみにどなたですか?」
アラはソンに近寄ると耳元で囁いた。
「あそこの御曹司か。ウク……なかなか、良い男と思っていたのですが。やはり裏があったのですね」
アラはソンを見つめた。
あなたが欲しいのよ……
ソンはアラの一瞬の揺れを見過ごさなかった。
アラの体を引き寄せる。ソンは彼女と接吻を交わした。それは何度も続いた。
お互いの唇を求め合った。
ソンは彼女を鏡がある部屋に手招いた。
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アラはその鏡を見つめる。どこか熱を帯びて頬を赤らめている。恥じらう女がいた。
そっと、アラは鏡に指先で触れた。
「アラ、美しいものを見せましょう」
ソンはアラの簪を抜いた。髪は少し波打っている。
そしてソンはアラから着物から一糸まとわぬ姿にした。
「ほら、美しい……この玉のような肌はまるで甄宓だ。あなたはこんなに美しく価値がある」
「甄宓など…肩を並べるのもおこがましいですわ」
鏡に映る自分の艶めかしい姿に彼女は驚きを隠せなかった。アラはまだ美しさを宿していた。その恥じらいすらソンの欲情を掻き立てる。
「あなたはウクに復讐するために近づいたのでしょう?」
「ご存知でしたのね……」
ソンはアラを背中から抱きしめた。二人の淫らな姿は鏡に映る。鏡はそれを映したかったのだろうか。いや、鏡は美しいものばかりは映さないのだ。
アラはウクしか知らない体に違和感を覚えたが、こうすることでしかウクに復讐できない。次第に重なる体に熱を帯び始める。
このまま、どうかなってしまいたい──。
アラはそう思いながらソンを受け入れた。
女は権力も抵抗する術もないのだ。
「アラ、乱れた髪が耽美に見えますよ。このように美しい方を名前で呼ぶのは惜しいです」
「お戯れを……でしたら何とお呼びに?」
「鏡の君はいかがでしょう。あなたの美しい姿をいつでも留めておけるように」
アラはうつ伏せになった。アラの長い髪が背中に流れている。ソンはアラの髪を撫でた。そしてソンはうなじに接吻をする。
この髪があの人だったら良いのに……西のお妃……
しかし勤勉そうに見えたアラがここまで乱れるとは思わなかった。ソンには意外であった。ただ、自分の身を差し出してでも復讐したい。それだけ愛が深かかったのだろう。復讐に身を燃やして、火が消えたアラは仏になるのだろうか。
しかし、思う。カヒもいつか自分にも復讐の刃を向ける日が来るのだろうか、と。
ソンの心はアラと同じく揺れた。
ウクは謎の左遷を告られた。
ウクは良い男を装って容華堂にやって来た。
アラはウクに微笑んだ。
「アラ、左遷されてしまった……君もついてきてくれるかい?」
「それは出来ません」
アラはぴしゃり、と言った。
透き通るような声でアラは追い打ちをかける。
「東のお妃さまの御子がどちらの御子か見届けたいので……」
ウクは動揺している。アラは得意げに笑った。その笑顔は毒々しいものがあった。
「東のお妃さまの香りは芳しかったですか?」
「アラ!」
ウクはアラを襲いかかろうとした。こそにソンが現れた。ウクは彼を見て全てを悟る。
そして、ウクは自分の犯した全てが大罪であり、全てを償うには「命」を差し出すしかないと涙した。
「ウク、もうアラは私の侍妾です。手を出さないでいただきたい」
「アラ!私を裏切ったのか!?」
「お言葉をそのままお返しいたします」
二人はウクを置いて容華堂から出て行った。
「これで気は済ましたか?」
「はい。ただ、あの方が私を裏切っていなかったら胸が痛みます」
アラの顔に一筋の涙が光っていた。
「アラ、大丈夫ですよ。お妃と関係を持つ男など……」
ソンは口を噤んだ。
まさに自分が同じことをしようとしている。
そう思ったらソンは悪寒がした。息を整えて、アラを見つめる。
「アラ、ソイを東のお妃さまの内司に推薦しておいたよ」
「解放してくれたのですね!」
アラの表情は先程より明るい。よっぽどアラはソイを心配していたのだろう。
それもそうだ。慰め者になるしかなかった人生からようやく解放されたのだ。自分の人生を歩けるのだ。
「アラ、あなたは私の侍妾となりましたが悔いはありませんか?」
アラの瞳が微かに揺れたが、彼女はソンを見つめた。
「悔いはございません。公子さま、わたくしめは正妻の地位は望みません。どうか、愛しい《うるわしい》方を正妻になさってくださいませ」
「ありがとうございます」
ソンはアラを抱きしめた。ほんのりと木蓮の香りがする。
こうしてアラはソンの侍妾となった。
アラは鏡の君と呼ばれた。
女官だったことを活かして差配や家政などを取り仕切りソンは安心して別邸を任せた。
鏡の君は薄っすらと別な「女君」がいると感じていた。しかし、何も言わずにいた。
アラは見ざる聞かざる言わざる、を貫いた。
後宮も壁に目あり……など、言われる。
別邸も後宮と変わらないのだ。ただ、一つソンの夢に耽る姿はどこか危うさを感じるのだった。




