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森の中の猫のいる図書室  作者: 道上 萌叶
1章 魔力と魔術
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魔術稽古打開策 1

 この世に存在する魔力は、大きく分けて3つに分類される。

 1つ目は、元より自然界に存在するもの。これらは余計なものが混じっていない、純度の高い魔力だ。()()()()()()()魔力を吸収する石、つまり魔石から確認される。

 2つ目は、大気中を漂うもの。これらはさまざまな動植物の、特徴の薄れた魔力が存在している。

 そして3つ目が、個々に存在している魔力だ。その者にしか存在し得ない魔力で、質や濃度はそれぞれ異なる。ただ、その者から離れて時間が経つにつれ、持ち主である個の特徴が薄くなり、2つ目の、大気中を漂う魔力は最後混ざり合い、とけ合い、魔石に吸収される。

 先の超広範囲魔術で使用した6つの魔石には、それぞれにギリギリまで魔力が込められていた。

 どの魔石も、魔力が込められてから数日は経っていたらしく、残された特徴はほとんど薄れていた。けれど、シルヴィオ様の魔力がないことだけは確かだった。

 通常、特徴が薄れていない魔力が別の魔力と混ざり合うことはない。大気中を漂う魔力は、それぞれ別々の魔力がぶつかり合っている状態で混ざっているわけではない。

 ただ、その原理を無視して、私は超広範囲魔術にシルヴィオ様の魔力を追加した。魔力を追加するために、元々あった魔力と濃度が均一になるように混ぜ合わせた。それが、誰もが追加した魔力を見ることになった要因だ。

 普段、私が魔力を追加する時は、私の魔力のみを扱っている。当然、魔力が反発することはないから可視化されることもない。


「つまり、本来反発し合うはずの魔力を無理に中和させたことで、あの雨のような魔力が見えた、と言いたいのですね?」


 レオーネ公爵家に戻ってきてから、私の推測を説明すると、顎に手を添えたエルトン様が確認するように言う。頷くと、彼は眉を寄せて難しい顔をした。


「では、6つの魔石の魔力は同一人物によるものだったのでしょうか?」


「……いえ。魔石には、それぞれ違う方の魔力が込められていました」


「ふむ。ですが、我々が見た魔力は1度きりです。エレナさんの話では、魔術を展開した際にも魔力の可視化現象が起きるのでは?」


 超広範囲魔術を展開した時、私は術式に魔力を乗せる前に、魔力の中和をした。それぞれ違う特徴を持った魔力だったから。

 ただ、その時はシルヴィオ様の魔力を追加した時のように、魔力の可視化現象は起きていない、らしい。おそらく、


「……魔石の魔力ですが、持ち主を判別できるほどの特徴は残っていませんでした。持ち主から離れて時間が経っていたことで、特徴が薄れて可視化されなかったのかと思います」


「なるほど」


 あくまで私の推測だけれど、説明すると、エントン様は1つ頷いて納得したようだった。けれど、それは超広範囲魔術を展開した時に、魔力が可視化されなかったことだけ。


「それとシルヴィオ様の魔術稽古に、どんな関係があるのです?」


 ここはレオーネ公爵邸。シルヴィオ様の護衛任務は終わっている。当然、一斉改装は終わっているし、反省会をすべき場でもない。今、私がすることは、シルヴィオ様の魔術稽古だ。

 であるにも関わらず、私はレオーネ公爵邸に戻ってきてすぐ、一斉改装で展開した超広範囲魔術と、その時に起きた魔力の可視化現象の推測を話した。

 もちろん理由なく話したわけではない。1週間以上、道筋が見えていなかった魔力稽古の、もっと言うと、シルヴィオ様が魔力を操作する方法のヒントが、魔力可視化現象にある、かもしれないからだ。


「……魔力可視化現象をヒントに、シルヴィオ様に魔力を感知してもらいます」


 どんな関係があるのか聞きながらも、エルトン様は私が話した内容にヒントがあると察している。現に、私の言葉に驚いている素振りはなかった。魔力もまったく揺れていない。

 でも、何となく魔術には興味があるみたいだ。目がいつもよりらんらんと輝いていて、どことなく魔力から圧を感じる。

 頭の中では、次に私がどう動くのか考えているのかもしれない。いや、次とは言わず、もっと先まで、私が得たヒントを元に、シルヴィオ様の魔術稽古にどう終止符を打つのかまで考えているかもしれない。

 アーウィン様は、ずっと前から魔術について理解することを諦めたようで、修練場の入り口に立ったまま口を挟むことも、動くこともしない。

 シルヴィオ様は、口を挟むことはないけれど、エルトンさんと同じく、私がなにをするのか気になっているみたいだ。顔はいつものように優しい笑顔だけど、目がキラキラしていて、エルトン様よりも魔力から圧を感じる。


「……本来反発する魔力を中和させて、魔力が見える状態でシルヴィオ様に魔術を展開してもらいます。見えている状態なので、シルヴィオ様には魔力が底をつかないように制御してもらいたいと思います」


 魔力が見える状態であれば、いくら魔力量の多いシルヴィオ様にも限界があると知ることができる。魔力を感じることができなくても、見えているからシルヴィオ様自身、どう魔力を扱っているか知ることができる。

 本来混ざることのない魔力をぶつけて可視化することで、実際に魔術を展開して魔力の制御をしながら、魔力の扱いや感覚を覚えてもらおう。と、私は考えた。


「エレナさんが考えていることは分かりました。ですが実践する前に、いくつか質問をさせていただきたいのですが」


「……はい」


 魔術稽古の初日、私は思い込みでシルヴィオ様の身を危険に晒している。興味を持ちながらも、慎重なエルトン様には納得できる。

 私が頷くと、エルトン様は指を1本1本立てながら、予想していた疑問点をあげていった。


「1つ目。一斉改装の時に魔力が見えた時間はほんの僅かでした。少しの時間でシルヴィオ様が魔術を展開して制御するのは、シルヴィオ様にかかる負荷が大きいのではないか。 2つ目。本来反発し合う魔力を中和させる、と言うのは、シルヴィオ様に負担はかからないのか。そして3つ目ですが」


 手を下ろしたエルトン様が、メガネの奥の瞳を細くした。


「エレナさんは、初日にシルヴィオ様の魔力を可視化していましたよね。あの時結果が出なかったことを、何故今回も実行しようと考えたのか。何故エレナさんは成功すると考えているのか。理由と共にお聞かせ願いたい」


 ピリリ、と空気が張り詰めて、エルトン様の魔力の圧が高まった。


(やっぱり、エルトン様は反対なんだ)


 確かにエルトン様が言うように、私が考えていることはシルヴィオ様の負担になる。

 でも、それは私が何も考えずにシルヴィオ様に魔力をぶつけた場合のみだ。だって、


「……シルヴィオ様は、人1倍、他者の魔力に酔い()()()体質だから、です」

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