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森の中の猫のいる図書室  作者: 道上 萌叶
1章 魔力と魔術
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緊急魔道具一斉改装 3

 超広範囲魔術の展開が完了した直後、5の大鐘が鳴った。と、同時に、国内の緊急魔道具が一斉に停止されたのを肌で感じる。


「エレナ、どれくらいの時間、魔術を維持できる?」


 魔術の維持には、人それぞれ個人差がある。

 私が普段使用している魔術は慣れたものばかりだから、私が眠りにつかない限り維持することが可能だ。

 でも、今展開している超広範囲魔術は、私の体外の魔力を操作して展開しているものだ。だから維持できる時間は、私が私のものでない魔力を操作できる時間だ。


「……次の、大鐘が鳴る時間までは、なんとか」


 実際に、私のものでない魔力を限界まで操作したことはないから確証はない。でも1つの鐘の時間は維持することができると思う。

 ただ、それは何も起きなかった場合のみ。


「……緊急事態が発生したら、維持できなくなるかもしれないです」


 私がレオーネ公爵家に雇われて5年。これまでの私の仕事は、今のシルヴィオ様の護衛も含めて、全て外から受けたものに対しての対応だ。この5年で、私は外側から内側を守ることに関しては、即時に対応することができる。魔術維持にも自信がある状態だ。

 けれど内側からのものに関しては、同様に対応できるかはわからない。小さな事ならまだしも、プリマべル王国内で、街が1つ消えるような災害や事件があった場合は、きっとすぐに対応できない。対応できないだけならいいのだが、魔力操作が乱れて、そこから魔術の維持が不可能になる可能性もある。


「承知の上だ。万が一の際はこちらで対応する。無理はしないように。なにかあればすぐに教えてくれ」


「はい」


 とはいえ、なにも起きなければ、6の大鐘が鳴るまでは維持することができる。

 予定では6の大鐘までに全ての緊急魔道具の改装が完了するらしい。このままなにも起きないことを祈るばかりだ。


「街の様子は変わりないか?」


「ああ。今のところ、大きな混乱は生じていない」


 カシミロ様の問いかけに答えたのは、騎士団長だ。騎士団長のもとには、各領地の現在の様子が、騎士や魔術師たちから入ってきている

 騎士団長がプリマベル王国の地図を広げると、2人は話し合いを始めた。街の様子を正確に把握しておくためだろう。

 魔術師団副団長の2人は、改装が始まってから入ってくる情報を整理している。魔道具改装時にトラブルが起きた際、すぐ対応できるようにするためだ。

 シルヴィオ様は、魔道具を使って、エルトン様とアーウィン様となにやらやり取りをしている様子だ。王都の様子を共有しているのだろう。

 私も暇ではない。超広範囲魔術を維持しなければならないから。

 でも、魔力を操作して魔術を維持しているとはいえ、ただ立っているだけだ。周りが忙しくしているのに、立っているだけというのは居心地が悪く感じてしまう。

 どうしたものか、と視線を動かしていると、部屋の隅に追いやったものが目に入った。


(あ、そうだ。さっき圧縮したシルヴィオ様の魔力、放置していたんだ)


 魔石の魔力を感じるために、室内に充満していたシルヴィオ様の魔力は、さっき、私の魔力で圧縮して、部屋の隅に放置したままになっていた。


(んー、どうしよ……あ、そうだ)


 魔術展開は成功しているから、圧縮を解除して空中に放っても問題はない。けれど、利用しないというのはもったいないと感じてしまった。そして思い付いた。


(もったいないから、この魔力も利用しちゃえばいいんじゃない)


 思い立ったらすぐに行動した方がいい。

 念のためカシミロ様には伝えようと思ったけど、彼はまだ騎士団長と話している。展開している魔術に魔力を追加するくらいなら、言わなくてもいいだろう。

 すでに展開している魔術に魔力を追加するには、追加する魔力を術式にのせるだけだ。範囲指定魔術の場合は、これに加えて、先に広げている魔力と均一に混ぜ合わせて、ムラなく広げる必要がある。

 一見難しく感じる作業だけど、時々、魔力が足りなくなった時にしていることと、私は魔力を見ることができるから難しいことはない。

 普段と違うのは、超広範囲魔術は魔石を使用していることだ。それ以外は、なにも変わらない。

 だから問題はないと思っていた。実際に魔力を追加したこと自体は問題にはならなかった。

 問題が発生したのは、魔力を追加した、一瞬の隙だった。


(ん、できた……って、え?)


 魔力の追加が完了した後になってから、私は室内の空気が変わっていることを感じた。

 部屋の空気は静まり返っていて、みんなが私を見ている。シルヴィオ様の手元の魔道具からは、エルトン様の焦ったような声が漏れ出ていた。


「あー、エレナ」


「……はい……」


 よくわからないけれど、私はなにかやらかしてしまったらしい。

 頭をかきながら困ったような笑顔のカシミロ様を前に、私は冷や汗が止まらなかった。

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