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森の中の猫のいる図書室  作者: 道上 萌叶
1章 魔力と魔術
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緊急魔道具一斉改装 1

 超広範囲魔術とは、個人の限界を超えて発動する、巨大魔術の事である。発動させるためには、事前準備が欠かせない。中でも最も重要で、用意することが困難とされるものが、巨大魔石だ。これは超広範囲魔術における血液、つまり、魔力の流れを生み出すために重要な心臓である。巨大魔石は、――――――――



 一斉改装の最終確認から1週間経った今日は、一斉改装の当日だ。

 たっぷり本を読んで過ごした私は、5の鐘が鳴る前、レオーネ公爵家にやってきた。



 1週間前、一斉改装の最終確認があった。騎士団と魔術師団の最終確認では大きな変更はなく、作戦通りに一斉改装が決行されることになった。

 けれど、全体の最終確認が終わった後、私は魔術師団長のカシミロ様に呼び出されて、騎士団と魔術師団の幹部の人達と共に、一斉改装の作戦会議をすることになった。全体での確認の時には使用しないと言われた、超広範囲魔術を作戦に組み込んで。

 全体での最終確認で、カシミロ様は、超広範囲魔術は古代魔術の一種であるから使える人がいない、と言っていた。なのに、私を呼び出したカシミロ様は、超広範囲魔術は使えると考えているようだった。

 古代魔術であっても使用できるとカシミロ様は思っているか、使用できる人に心当たりがあるのか。

 どちらにせよ、カシミロ様は超広範囲魔術を使用すると決めているようだったから、私は聞かれるままに説明した。そして当然のように言い放ったカシミロ様の言葉を、私は理解することができなかった。


「エレナ、当日超広範囲魔術を展開するのは君だ」


 あの場にいた魔術師は、私だけではなかった。カシミロ様を含めて、4人の魔術師団に属している魔術師がいた。

 当日、カシミロ様や副団長の2人は指示出しや全体をまとめることになる。だから私は、カシミロ様の後ろに控えていた、魔術師団第1部隊長の男性が展開すると思っていた。


「改めてエレナの説明を聞いて、超広範囲魔術は古代魔術の1種であると確信した。だから超広範囲魔術は、現在使用することができないのだよ。1人を除いてね」


 私が室内に張られた結界に気付いたのは、この時だった。

 いつの間にか、室内には防音結界が張られていた。展開していたのは、魔術師団第1部隊長の男性だ。彼は、現在5人しかいない国家魔術師の1人だった。

 昔おばあさまから、気配なく、それも高度な魔術を展開することのできる国家魔術師がいると聞いたことがある。彼がきっとその魔術師だ。

 実力者である彼ではなく、私が使用できる。はっきりとは言っていないけど、カシミロ様はそう言っている。

 なぜ私ならできると思ったのか、理由を尋ねても、カシミロ様は教えてくれなかった。今はまだ、その時期(とき)ではないらしい。



 そして今、レオーネ公爵家から、シルヴィオ様たちと庁舎に転移してきた私は、魔術師団長室にいる。手のひらサイズの魔石を持って。

 室内には、シルヴィオ様と魔術師団長であるカシミロ様と、魔術師団の副団長の2人、それから騎士団長がいる。エルトン様とアーウィン様は王都に出ている。王都内で何かあれば、魔道具を経由してシルヴィオ様に連絡が来ることになっているらしい。


「カシミロ様、各班、配置についたことが確認できました」


 と、女性の魔術師団副団長。


「王都と各領地担当の警護班もそれぞれ配置についたようだ」


 と、騎士団団長。

 2人からの報告に1つうなずいたカシミロ様が、私の方に目を向けてくる。


「エレナも、準備はいいな?」


「‥‥‥はい。いつでも」


 もうすぐ、5の大鐘が鳴る。5の大鐘を合図に一斉改装が始まる。私はその前に、超広範囲魔術を、プリマベル王国全体に張らなければならない。


「カシミロ様、国境の方も、準備が完了したようです」


 男性の魔術師団副団長の声に、私は肩が震えた。

 準備は完了してしまった。もうそろそろ5の大鐘が鳴る。チャンスは1度きり。失敗は、出来ない。


「エレナ、そう思いつめなくていい。失敗したとして、この作戦を知っているのは我々だけだ。成功するに越したことはないが、失敗したとしても、我が国には優秀な魔術師と騎士が揃っている。エレナ1人の責任にはならない」


 カシミロ様の言葉に、心が大分軽くなった。

 それでもまだ緊張は残っていて、少しでも緊張をほぐすために目を閉じて深呼吸をする。

 3回目に吸った息を、時間をかけて吐き出してから目を開ける。


「……始めます」


 室内の空気が変わったのを肌で感じながら、まずは今、私が展開している魔術を解除していく。慣れている魔術なら併用が可能だが、慣れていない、それも初めての魔術は、たとえ他が慣れているものでも失敗する可能性が高くなる。失敗する可能性は、できる限り下げておくべきだ。

 事前に、超広範囲魔術を展開する時には、集中を高めるために、あらかじめ展開してある魔術を解除すると伝えてある。室内に緊張の空気が漂っているのは、私が超広範囲魔術を使用している間は、魔術による攻撃を察知できないからだろう。その間、シルヴィオ様は魔術で狙い放題になるから。

 王都全体に展開している拡張魔術、情報処理魔術、シルヴィオ様に張っている防御結界。

 解除していく順番も間違えない。拡張魔術よりも先に情報処理魔術を解除してしまえば、1度に色んな情報が入ってきて、処理しきれずに廃人になってしまうから。

 最後に、シルヴィオ様の魔力から守る結界を解除して、全ての魔術が解除された。

 私の周りに浮かんでいた魔術式が全て消える。

 展開するのと違って、魔術を解除するのに呪文を唱えることはない。魔術式は私にしか見えないみたいだから、なにが変わったか、誰もわからないはず。それでも室内の緊張感が、少し強くなったように感じる。

 超広範囲魔術の展開は、広範囲魔術の展開と大きく変わらない。変わるのは、術者の体内にある魔力ではなく、用意してある魔石の魔力を操るということ。と、魔術書に書いてあった。

 呪文を唱える前に、魔石の魔力を感じなければならない。そのために目を閉じて集中するけど、いつもなら簡単にできることが、どうしてだかうまくできない。


(魔石の魔力を、感じられない。確実に魔力が込められているのに、どうして……あ)


 魔石には、1週間をかけて、あらかじめ魔力を込めてもらっている。国内全域に展開する魔術に使うものだから、それなりの量だ。でも魔石の魔力を感じることができない。

 原因は1つ。シルヴィオ様の存在だ。


「……作戦、少し変更します」

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