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森の中の猫のいる図書室  作者: 道上 萌叶
1章 魔力と魔術
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緊急魔道具一斉改装 最終確認 2

 7の大鐘が鳴った後、私はクレア様に連れられて、庁舎内にある貴賓室にやって来た。

 いつから待機していたのか、そこにはクレア様の家、パトリッジ伯爵家の使用人であるという女性が3人おり、私は声を出す間もなく、3人に着飾られた。

 着飾られながら、私はクレア様から、今日の会食と緊急魔道具の一斉改装についての説明を聞いた。

 クレア様によると、来週の水の日に緊急魔道具の一斉改装が行われるらしい。午前はその準備で、改装自体は午後にするようだ。

 私はレオーネ公爵家専属の魔術師だから、ヴェルデ領の魔術師だ。

 各領地の魔術師は、領地を治める貴族の指示のもと、各領地の警護に当たるらしい。

 でも私は、領地の警護以前に、シルヴィオ様の護衛という任務がある。当日シルヴィオ様は王都の護衛に当たるそうで、私はシルヴィオ様の護衛をメインでしつつ、王都の警護をすることにもなった。

 午前が休みな理由は説明されなかったけれど、休みが無くなってしまうのは悲しいから、詳しくは聞かなかった。

 こうして着飾られた私は、会食の場に向かっている間に、漸く今日の会食についてをクレア様から聞いた。

 今日の会食は、来週の一斉改装前の最終確認と、騎士団と魔術師団の親交を深めるためのものらしい。

 私は騎士でも、魔術師団に所属する魔術師でもないけれど、シルヴィオ様と共に王都の警護に当たることになるから、今日の会食に参加しても何も問題はないのだそうだ。

 とは言え、部外者であることに変わりはないから、目立たないように大人しくしていよう、と思っていた。なのに、どうして、こんなことになってしまったのだろう。

 今、会場内の視線が全て、私に集まっている。モナさんによって。


 クレア様と共に会食の会場にやってきた私は、クレア様と、4日ぶりに会ったモナさんと、会食が始まるまで話をしていた。

 人はたくさんいたし、時々視線を感じていたけれど、モナさんがこの場にいたから何とか乗り切れていた。

 一斉改装の確認が始まって少ししてから、正面に映し出されたスクリーンを見て、私は4日前にあった、騎士団の報告会でのことを思い出した。そして、同じ疑問を持った。


「超広範囲魔術は、使用しないのかな」


 スクリーンには、[当日、魔術師団の魔術師は各々配置された箇所の魔道具を手順に従って改装する。その間は魔道具による警護はできないため、十分に警戒すること。騎士や魔術師の足りない領地に関しては、一般市民の協力を仰ぐこと]とある。

 そう書かれているという事は、実際に人手が足りていない領地がいくつかあるという事だろう。

 ただ、一般市民のほとんどは、騎士や魔術師と違って、自分の身を守る術を持たない。そんな一般市民に協力を仰ぐというのも、不安が付いてくる。

 騎士団や魔術師団も、その考えはあるようで、1週間後に控えている一斉改装への緊張が伝わってくる。

 だからこそ、私は疑問に思ってしまった。

 超広範囲魔術を使用すれば、一般市民に協力を仰ぐ必要はないし、魔道具に頼らずとも、国内全域を警護することが可能になる。

 でも、スクリーンには超広範囲魔術について記載されていないし、騎士団のみならず、魔術師団からも、超広範囲魔術の説明がない。話題にすら、上がらなかったということだろうか。

 そこまで考えたところで、私はモナさんとクレア様の視線に気づいた。


「ぇ、あの……?」


 2人とも少し目を大きくさせて、何やら言いたそうな顔で私の顔を覗き込んでいた。


「超広範囲魔術、とは?」


 少し身を引いた私に問いかけてきたのは、クレア様だ。

 クレア様に問われて、私は疑問が口から出ていたことに気付いた。

 私に向いている目は、モナさんとクレア様のものだけ。他の人達は、正面に立って説明をする騎士団長と魔術師団長に向いている。だから私は、気を緩めて、モナさんとクレア様に説明してしまった。


「広範囲魔術を更に大きく展開したものです。広範囲魔術は人が展開できる最大の魔術ですけど、超広範囲魔術は魔石を利用するので、その枠を超えた展開が可能になります。魔道具と魔術の中間点、と考えていいです」


 私がシルヴィオ様を護衛する時に展開している拡聴魔術も、広範囲魔術の一種だ。

 私が展開できる広範囲魔術の範囲は1つの領地に限られてしまうけど、魔石を利用した超広範囲魔術であれば、プリマベル王国全域まで広げることができる。魔力量と、魔力の扱いに慣れているかで、範囲が変わってはくる。でも魔術師団の魔術師は魔力の扱いに慣れた人達で、私よりも魔力量が多い人はたくさんいるから心配する必要はない。


「超広範囲魔術は、事前の準備が整っていれば1人で展開することが可能です。ただ展開するには、最上質な魔石が最低でも6個必要になります」


 だから私は、知識としては魔術書で見たことがあるから知っているけれど、超広範囲魔術を展開したことはない。

 私以外にも、存在を知っていても、魔石が高価で手を出せない人はいるはずだ。

 でも今回の一斉改装は、国の安全のために行われるものだ。高価な魔石を使用する事を躊躇わなくてもいいと思う。


「超広範囲魔術を使用すれば、人手を削減できますし、何より、国内も国境付近も、ムラなく警戒することができます。隙間なく人員を配置するよりも、効率がいいですけど……今回は使用しないのでしょうか?」


 魔石が手に入らなかった、というなら、仕方がない。ただ、手に入るなら、利用した方がいい。

 そう思ったところで、隣のモナさんが、勢いよく手を挙げた。


「発言をいいでしょうか」


 私の説明を聞いたモナさんが聞いてくれるのだろう、と思っていた私は、完全に油断していた。

 モナさんに目を向けた騎士団長が頷いたのを合図に、私の背中を、モナさんの手が軽く押した。その理由を、私はすぐに理解できなかった。


「え……?」


「こちらのエレナ・フィオーレが、当日の国内の警護について、提案があるそうです」


「え? ぇ、うぇ……ええ??」


 モナさんの発言によって、全ての目が私に集まってしまった。

 ここにいる人達は、ほとんど私が知らない人たちだ。

 そんな人たちの目を集めて、私が冷静でいられるはずがない。

 でも、逃げることはできない。できなくて、私は涙が滲みそうになるのを堪えながら、モナさんとクレア様にした説明を、今度は私を見てくる人たちに向けて繰り返した。


 私が説明を終えてから、漸く私に向けられていた目が少し少なくなった。それでもまだすべての目が私から外れたわけではない。

 無理矢理笑顔を張り付けて、この場を乗り切ろうとしていた私の耳には、魔術師団の魔術師達のざわつきが届いている。ほとんどが、「そんな魔術聞いたことがない」という内容だ。


(でも、家の魔術書で読んだことあるもん)


 嘘ではない。

 私は1度読んだ文章は、滅多なことがない限り忘れることはない。それに、つい最近、シルヴィオ様の魔術稽古のために、もう1度家の魔術書を読み返している。その時にも見たことだ。見間違えたというのは、ありえない。


「静かに」


 騎士団長や副団長達と相談をしていたらしい魔術師団長が、スッと片手をあげて声を出すと、室内のざわめきは徐々に小さくなっていった。

 ざわめきが完全に無くなってから、魔術師団長は室内を見回すと、最後に私に目を向けてきて、口を開いた。


「おそらく、その超広範囲魔術は古代魔術の1種だ。()()()、使用できる者がいない。よって、今回の作戦を変更することはない。他に、何か意見のあるものはいるか?」


 魔術師団長の問いかけに、手をあげる者はいなかった。

 私の中にモヤモヤを残したまま、それでも私に向けられる視線が大幅に減って安堵したところで、騎士団と魔術師団の一斉改装の最終確認は終わった。


 ()()()()()()()()()()()()()()

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