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森の中の猫のいる図書室  作者: 道上 萌叶
1章 魔力と魔術
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緊急魔道具一斉改装 最終確認 1

 話は少し遡り、私がモナさんと話した日から5日前、水の日の事。シルヴィオ様の護衛のため、私はやっぱり庁舎内にある騎士団の管理室で、シルヴィオ様達と山のように積まれた書類を片付けていた。

 土の日に古本屋で魔術書を買い漁り、王立図書館で山ほどの魔術書に目を通して、前日の花の日も朝から晩まで本を読んでいた私は、その日、寝不足だった。

 でも2日間の休みは、久しぶりに本に埋もれることができて、眠気に頭がズキズキ痛んでいたけど、ホクホクとした気持ちで1日を過ごしていた。そうでなかったら、私はこの日を乗り切れなかったと思う。



「エレナ、来週の水の日のことは聞いたかい?」


 シルヴィオ様が口を開いたのは、庁舎の中にある、騎士団の管理室に入ってから、既に書類仕事に取り掛かっていた、クレア様達第4部隊の3人と挨拶をしてからだった。


「……いえ」


 今日が水の日だから、来週の水の日はちょうど1週間後だ。

 シルヴィオ様が何のことを言っているのかわからないけれど、私は1週間後のことを誰からも聞いていない。

 椅子に座るシルヴィオ様に、小さく首を振って答えると、シルヴィオ様は両肘を机について笑顔を作った。感情を感じられない、仕事の時の、笑顔だ。


「そう。来週の水の日だけれど、午前は休みで午後から、5の鐘からの勤務でいいかい?」


 シルヴィオ様は私の意見を聞いている。

 でも、おそらくこれは確定事項だ。断ることはできないだろうし、何より、断る理由がない。人と会う時間が減るのだから。


「……はい。問題ありません」


 心の中では喜んで、でもそれを表に出さないように気をつける。

 緩んだ顔にならないように、顔の筋肉を働かせながら頷くと、シルヴィオ様は柔らかく微笑んだ。


「父上にも伝えておくよ。ああ、それから」


 早速仕事に取り掛かろうとしたシルヴィオ様は、思い出した、とでも言うように顔を上げた。


「今日の稽古は休みでもいいかい?」


「? 私は、構いませんけど」


 一昨日、古本屋で購入した本にも、王立図書館で読んだ本にも、シルヴィオ様が魔力を扱えるようになるヒントは見つからなかった。対策を思いついていない私は、どうしたらいいのかわからなかったから助かる。

 ただ、シルヴィオ様はいいのだろうか。

 手探りでやるとはいえ、魔術に触れる機会が増えれば、シルヴィオ様が魔力を感知できなくても、体が覚えてくれるかもしれない。日常生活でも、繰り返し行うことは体が覚えていて、何も考えなくても動くことができる。魔術も同じことだ。

 とはいえ、仕事の内容を私がシルヴィオ様に意見することはできない。私は、レオーネ公爵家に雇われている身だから。


「助かるよ。実はね、今夜どうしても外すことのできない会食が入ったんだ」


 話しながら、シルヴィオ様は仕事を始めた。

 私は、シルヴィオ様が話を終えていないから、椅子に座ることも、書類に目を通すこともできない。書類仕事は、本来の私の仕事ではないから。

 でも、それ以上に、冷たい汗が私の背中を伝ったものがある。


(わざわざ私に言うのは、稽古がなくなる代わりに、護衛任務の時間が延長するってこと? え、やだ)


 シルヴィオ様の口ぶりから、シルヴィオ様は会食に行くらしい。それも、誰かしらの護衛や、屋敷の警護ではなく、シルヴィオ様が招待されて参加するようだ。

 そんなシルヴィオ様の護衛をするとなると、必然的に大多数の人と会わなければならない。避けることはできない。すごく、嫌だ。


(それならまだ稽古の方がいいんだけど)


「エレナも行くかい?」


 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、シルヴィオ様は笑顔で問いかけて来た。

 背後で、クレア様の魔力が大きく揺れ動いたように感じたけれど、それよりもシルヴィオ様の笑顔が気になる。シルヴィオ様の笑顔は、さっきまでの感情を感じられない笑顔から変わって、何やら楽しんでいるものが潜んでいる。だから思わず、眉を寄せてしまった。


「……それは、仕事として、でしょうか?」


「そんなに嫌かい?」


「えぅ、ぃ、いや、と言いますか……」


 正直嫌だ。でも、それをはっきり言うことはできない。

 ただ、嫌じゃないと嘘をついたら、行くことになるかもしれない。たとえ仕事じゃなかったとしても。それだけは、避けたい。


「エレナさん」


 どう返答するべきか、口籠る私に話しかけて来たのは、シルヴィオ様ではなくて、クレア様だった。

 振り向くと、書類仕事をしていただろうクレア様が立ち上がって、キリッとした顔で私を見ていた。


「エレナさんが会食やパーティーの類を苦手としていることは存じております」


(え、何で知っているの?)


 私がそういったものを苦手とするのは、人が多く集まる場だからだ。でも、どうしてクレア様が知っているのだろう。

 私は人を苦手としているけれど、アウリ以外には、そのことを話したことがない。それでもクレア様が知っているのは、私はそこまで態度に出てしまっているのだろうか。

 疑問に思ったけれど、問いかける間もなく、クレア様は構わず話を続けた。


「ですが、私からもエレナさんをお誘いしたいと思います!」


(え、嫌だ)


 嫌だ嫌だと心の中で叫んでも、はっきり告げるわけにはいかない。

 頭をフル回転させて、何とか断る理由を探す。


「えと、私、会食に参加できる服では……」


「すぐにでもご用意します!」


「ぅ、わ、私、会食のマナーには、詳しくなくて……」


「貴族のルールがわかれば大丈夫です。王立学院を卒業されたエレナさんなら大丈夫です」


「あぅ、で、でも、会食ということは、仕事の話をするのではないですか? 私は、部外者で……」


「エレナさんなら、問題ありません!」


「えぅ」


 何故クレア様が、ここまで胸を張って断言できるのか、気になるところではある。

 でも、この疑問は、次にクレア様が発言した事でさらに大きく膨れ上がった。


「本日の会食は、騎士団と魔術師団による、緊急魔道具の一斉改装についての話し合いですので!」


 もっと私がいてはダメではないか、と思ったところで、私に断るすべはなく、気付けば私も会食に参加することになっていた。

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