表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森の中の猫のいる図書室  作者: 道上 萌叶
1章 魔力と魔術
29/30

モナ・ラムレイという人 3

 モナさんと私が話せるようになったのは1ヶ月くらいしてからだったから、私がモナさんの愚痴に付き合っていた期間は2ヶ月も無い。

 そしてジェフリー様に目をつけられたのは、モナさんと話せるようになってから2週間程してからだから、約1ヶ月半、私はモナさんの愚痴を聞きながら、ジェフリー様のお願いに頭を悩ませていたことになる。

 モナさんと出会ったことで、初めのうち、私は全力で勉強することはやめて、進級試験もクラスメイトと共に受けて、モナさんと一緒に卒業しようと思っていた。そうしなかったのは、ジェフリー様から逃げたかったからだ。あの頃は、毎日のように圧をかけてくるジェフリー様に耐えられなかった。

 こうしてどのクラスも2ヶ月と3ヶ月で課程を修了して、残りの半年は魔術師になるための個別指導を受けた私は、入学して3年で卒業することになった。

 私が卒業してしまったことで、ジェフリー様は人に頼ることを辞めたらしい。風の噂で、ジェフリー様は卒業するまで全力でモナさんに当たって、結局モナさんを落とすことが出来ずに砕けたと聞いた。

 そして昨年、ジェフリー様は違う女性、プリマベル王国内の公爵令嬢と婚約を結んだらしい。

 こうして私もモナさんもジェフリー様から逃げることが出来たのだけれど、まさか7年経った今も、あの頃と同じようなことをすることになるとは想像していなかった。


「ティルソン様がいつまで我が国にいるのかわからないのが嫌だな。せめて期限がわかればいいのだが」


「モナさんも聞いていないんですか?」


 てっきりティルソン様の護衛を命じられた時に聞いていたのだと思ったけれど、どうやら違ったようだ。首を横に振るモナさんは、大好きな甘いものを食べているのに元気がない。これは、相当参っている。


「そもそも、ティルソン様はどうしてプリマベル王国に来たのでしょう?」


 1番考えられる理由は、条約を結んだ後の友好関係を築くためだ。

 でも、それだけなら王立学院に編入する必要も無いし、期限は1、2週間程度と定められているはず。

 何よりも、友好関係を築くためならば、国内全域にヴィノリーナ国から皇子が来訪されたと御触れが回るはず。だと言うのに、私は先週シルヴィオ様の護衛で参加した騎士団の報告会で、初めてティルソン様が来ていると知った。それまでは偉い人が来ているらしいと言う、曖昧な情報しかなかったし、街でも他国の皇族が来ているとは噂されてもいない。


「まさか、本当に婚約者を探すために来た、なんて言わないですよね?」


 そんなことがあれば、こうして迫られているモナさんは逃げ道がないのではないか。

 モナさんだけじゃない。モナさんを説得するように頼まれた私にも、逃げ道がないのではないか。

 だけどこの想像は杞憂だった。


「いや、それはないはずだ。条約を結んだ国との交友を深めるために、他国の王族や皇族に貴族令嬢が嫁ぐ話は聞くが、ティルソン様は何か別の目的があるようだ。ただそれが何かは分からない」


 そう言えば、ティルソン様がモナさんに申し込んでいたのは仮婚約だった。交友を深めるためのものはない。


「えっと、ティルソン様は、モナさんに好意を持っている、と言うことで……すよね」


 不機嫌そうにケーキを食べていたモナさんの表情が、一段階暗くなった。


「本当に、度し難い事だが、そのようだな」


 モナさんは残り1つとなってしまったいちごのケーキを、躊躇うことなく3口で食べきってしまった。

 テーブルを敷き詰めるほどのケーキを買って来たのに、その9割以上をモナさん1人で食べてしまった。

 溜めてきた愚痴を吐き出して、大好きな甘いものを食べたモナさんは満足した様子だ。


「とはいえ、こうしてまたエレナと話ができて嬉しいよ。魔術師の仕事はどうだ? 噂では随分と活躍しているようだが」


「ぅえ!? そ、そんなに噂になっていますか?」


 プリマベル王国は魔術に長けた国である。中でも国家魔術師は国内外でも名を馳せており、度々話題になっている。

 でも、私は国家魔術師ではない。レオーネ公爵家に雇われた、ヴェルデ領の魔術師だ。各領地に数えきれないほどいる魔術師の1人に過ぎない。噂になることはないはずだけど。

 だというのに、先週、クレア様から「噂の」と言われた。モナさんも噂とやらで私の名前を耳にしているらしい。

 あまり人と関わらず、静かにひっそり暮らしていたい私にとって、あまり嬉しいことではない。


「ああ、安心していいよ。噂になっているのは騎士団と魔術師団の中だけだ。街中ではあまり噂になっていないようだから」


「そう、ですか」


 国内全域で噂になるよりはマシだとはいえ、それでも国を支える2つの団体では噂になっているという。

 素直に安心することができなくてお茶を飲んでいると、モナさんは爆弾を落とした。


「ああ、あと王城でも話題になっているようだな」


「…………」


「エレナ?」


「…………ぉ……」


「うん?」


「お、おおおおおおおおうじょう!!?!?!?」


 驚き過ぎたあまり、膝の上にアウリがいることを忘れて大きな声が出てしまった。

 アウリが膝の上から飛び降りたけれど、今は気にしていられない。

 王城ということは、王族にも私のことが知られているという事になる。それは、嬉しくない。正直言ってしまうと嫌だ。すごく、嫌だ。


「はっはっは!」


「モナさん、笑い事じゃないです!」


 どうして私のことを王族が知っているのだろう。ジェフリー様とは学園で一緒になったけれど、他の王族とは会ったことすらない。


「いや、すまない。だがまあ、心配する必要はないよ。噂というのも悪い噂ではなく、いい噂だからね」


「いや、そうじゃ……」


「さて、長居をしてすまないね。今日は帰るとするよ」


「ぅえ」


 私が心配しているのはそのことではないのだが、モナさんには伝わっていないみたいだ。

 立ち上がったモナさんは、私を置いて外に出ていってしまった。

 アウリを蹴飛ばしそうになりながら、机にぶつかりながら、モナさんを追いかけて外に出ると、モナさんは馬に飛び乗るところだった。


「モナさ……」


「エレナ、今日は楽しかったよ。ありがとう」


 馬に乗ったモナさんからは、さっきまで漏れていたティルソン様への不満は一切感じられなかった。


「それから1つだけ忠告がある」


「忠告、ですか?」


 何やら真剣な顔で声を落としたモナさんが、森の方へと目を向ける。


「? 大丈夫ですよ。防音結界を張っています」


 こんな夜に、それも人里からかけ離れた森の中で、私達の声が聞こえる範囲に人がいるとは思えない。ここまで来たモナさんも知っているだろうけれど、それでも周囲を警戒するのは、「忠告」とやらを誰にも聞かれない方がいいのだろう。

 モナさんが不満を漏らしている時に張った結界はまだ解いていない。私達の会話は誰にも聞かれることはない。


「流石だな。その警戒を、エレナ自身のために使って欲しい。忠告はそれだけだよ」


「? どういう……」


「じゃあ、またな! お互い頑張ろう!」


 最後に2つの疑問を残して、モナさんは立ち去ってしまった。

 森の奥の方にモナさんが消えてから、私は結界を解く。


「強い人なのね」


 いつの間にか足元に来ていたアウリが、モナさんの去って行った方を見てポツリと呟いた。


「うん」


 モナさんは強い。学園の頃から、ずっと。

 ここに来た時は、なんだかんだで疲れている様子だったけれど、帰る時には疲れを感じさせない笑顔を見せていた。


「さて、ご飯にしましょ。結局あなたもサンドイッチを食べていなかったでしょう?」


「あ、うん。あのね、アウリ、ごめんね」


「ご飯のことならもういいわよ。明日牛肉を買ってくれるのでしょう?」


「そのこともだけど、さっき大きい声を出してごめんね」


 王城で私のことが噂になっていると聞いて、驚いた私はアウリのことを忘れて大きな声を出してしまった。その後モナさんが帰る時には、慌てたあまり、アウリを蹴りそうになってしまった。


「なんだ、そんなこと。別にいいわよ」


 でも、アウリは気にしていないみたいだった。


「そんなことより、ずっと気になっていたのだけど」


 別のことが気になる様子のアウリが私を見上げてくる。

 何だろう、と首を傾げると、アウリが小さく溜息をついた。


「ティルソン様のことはいいの?」


「ティルソン様……?」


 ティルソン様がどうしたのかと思考を巡らせている私は、アウリに言われるまで、スイーツを買ってきた理由を忘れていた。


「彼女を説得できなかったから、これから大変になるわね」


「あ」


 そもそもモナさんがここに来たのは、ティルソン様からの婚約のことを話すためだ。そして、私は何とかしてモナさんにティルソン様の申し入れを受け入れてもらおうとしていた。これからティルソン様に絡まれることを避けるために。

 でも、モナさんは帰ってしまった。モナさんに頷かせることができなかった。それどころか、モナさんは絶対にティルソン様の申し入れを受けないだろうと確信してしまった。久しぶりに話したモナさんは、学院の頃から何も変わっていなかったから。


「あ、アウリ~‥‥‥私、私、どうしよぉー‥‥‥」


 モナ・ラムレイという人は、1部の間では、男性に恋愛的感情を向けられることを嫌うことで有名な貴族令嬢だ。

最近、主人公の性格があまりよくない気がしてきているので、作品設定をR15に変更しています。

あと、疑問や謎ばかり生まれてすみません。これからまだ増えます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ